リチウムイオン・バッテリの充電電流の決め方
図1は,LTC1734を使用した,リチウムイオン・バッテリを定電流充電する回路図です.LTC1734の内部回路は,簡略化しています.Q1のコレクタ電流でリチウムイオン・バッテリを充電します.充電電流はPROG端子とGND間に接続した抵抗(Rprog)の値で決めることができます.
図1の定数の場合,充電電流は(a)~(d)のどれになるでしょうか.ただし,Q1のβは十分大きいものとします.
この定数の場合の充電電流はいくつ?
(a) 300mA (b) 500mA (c) 700mA (d) 900mA
図1のOPアンプ(A2)は,PROG端子の電圧がVrefの電圧(1.5V)と等しくなるように,Q1のベース電流を制御します.そして,OPアンプ(A3)は,R1とR2の電圧降下が等しくなるように,M1の電流を制御します.これらの動作から,充電電流を計算することができます.
Q1のコレクタ電流は充電電流ですが,その電流とほぼ等しい電流が抵抗(R2)に流れます.R2が60mΩでR1がその1000倍の60Ωとなっているため,R2の電流(M1の電流)は,充電電流の1/1000になります.
また,Rprogの電流は,R2の電流と同じため「Rprog*充電電流/1000=1.5」という式が成立します.この式から充電電流を求めると「充電電流=1.5*1000/Rprog」となり,定数を代入すると「1.5*1000/3k=0.5」となります.そのため,正解は(b)の500mAとなります.
●充電できる電池の種類と特徴
充電することで繰り返し使用することのできる電池は二次電池とも呼ばれ,いろいろな種類の電池があります.表1に代表的な二次電池の特徴をまとめました.
これらの二次電池の中で,リチウムイオン・バッテリは出力電圧が高く,体積あたりの容量が大きいため,電子機器を小型化することができます.そのため,ノートPCやスマートフォンをはじめ,さまざまな電子機器に使用されています.
●リチウムイオン・バッテリの充電
通常リチウムイオン・バッテリは,定電流定電圧充電(CCCV:Constant Current Constant Voltage)という方法で充電します.充電初期は定電流で充電し,バッテリの電圧が設定値になったら,定電圧で充電するという方法です.
図2は,LTC1734(リチウムイオン・バッテリ・チャージャIC)のブロック図(2)です.LTC1734は充電初期は定電流で充電し,バッテリ電圧が4.1V,または4.2Vになると定電圧充電に移行します.
定電流定電圧充電(CCCV:Constant Current Constant Voltage)を行う
図2の出力ドライブ回路は,OPアンプ(A1),またはOPアンプ(A2)の出力電圧が下がると,DRIVE端子に接続されている外付けPNPトランジスタのベース電流を減少させるように構成されています.そして,OPアンプ(A2,A3)および外付けのPNPトランジスタで定電流充電を行います.充電電流の値はPROG端子とGND間に接続した抵抗(Rorog)の値で決定します.
定電流充電することでバッテリの電圧が上昇していきますが,この電圧をBAT端子で検出し,設定値以上の電圧になると,OPアンプ(A1)による定電圧充電に切り替わります.LTC1734には,定電圧充電に切り替わる電圧が,4.1Vと4.2Vの2つの製品があります.
●定電流充電回路
図3は,図1のLTC1734の定電流充電回路のシミュレーションを行うための回路図です.この回路図を使用して,定電流充電の動作を解析します.
動作点解析の結果を回路図上に表示している.
図3のLTC1734の内部回路は,図2のブロック図をもとに作っていますが,出力ドライブ回路を省略しています.そこで,OPアンプ(A2)の入力の接続を逆にして,制御ループが正常に動作するようにしています.
この構成で,PROG端子に接続されている抵抗(Rprog)の値により,充電電流が決定される動作は,以下のようになります.
- PROG端子の電圧がVrefの電圧よりも低い場合,OPアンプ(A2)の出力電圧が下がり,外付けトランジスタ(Q1)のベース電流を増加させる
- Q1のエミッタ電流(IBAT)が増加し,R2の電圧降下が増加する.OPアンプ(A3)はR2とR1の電圧降下が等しくなるように,M1のドレイン電流をコントロールする.そのため,R2の電圧降下が増加すると,M1の電流も増加することになる
- M1の電流が増加することで,Rprogに流れる電流が増加し,PROG端子の電圧が上昇し,PROG端子の電圧がVrefの電圧と等しくなったところで安定する
- R2が60mΩ,R1がその1000倍の60Ωとなっているため,M1の電流(R2の電流)はIBATの1/1000になる
これらの関係を式にまとめると,式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1からIBATを求めると,式2が得られ,図4の定数を代入すると500mAになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
図3は動作点解析の結果を回路図上に表示しています.Q1のエミッタ電流を見ると499mAとなっており,式3の計算結果と一致していることが分かります.
●LTC1734の充電動作を確認する
図4は,LTC1734の充電動作をシミュレーションするための回路図です.リチウムイオン・バッテリの代わりに1Fのコンデンサを接続しています.10秒間のトランジェント解析を行い,1Fのコンデンサがどのように充電されるかをシミュレーションします.
リチウムイオン・バッテリの代わりに1Fのコンデンサを接続している.
図5が図4のシミュレーション結果です.充電電流(Q1のコレクタ電流)は500mAとなっており,充電開始後は定電流充電となっています.そして,BAT端子の電圧が4.1Vになると,充電電流が0となり,定電圧充電モードとなっています.Prog端子の電圧は充電電流に比例した電圧となっているため,この端子の電圧をマイコン等でモニタすることで,充電電流を把握することができます.
充電電流500mAで定電流充電した後,定電圧充電モードに切り替わっている.
以上,リチウムイオン・バッテリ・チャージャICについて解説しました.バッテリ・チャージャICには今回紹介した,シンプルなリニア充電タイプの他,スイッチング・タイプや様々な付加機能を追加したものがあります.
◆参考・引用*文献
(1) ナノフォトン(株):二次電池の種類と特徴
(2) アナログデバイセズ:LTC1734データシート
(3) (株)村田製作所:リチウムイオン電池とは?
2023年11月にLTspiceがバージョンアップして「LTspiceXVII」から「LTspice24」になりました.ここでは,LTspice24の新情報を『不定期連載コラム』としてダイジェストに解説します.第2回目は,『ツール・バーのアイコンを従来タイプに変更する』です.
●アイコンの変更方法
LTspice24になってツール・バーのアイコンが大幅に刷新されましたが,これまで使い慣れたアイコンを使用したい人もいるかもしれません.そのような場合は,設定画面で従来アイコンに変更することができます.
まず,図Aのように,歯車のアイコンをクリックして設定画面を開きます.
次に,設定画面(図B)で,[Operation]タブを開きます.そして,"Toolbar Style"を[Legacy]に変更します.
変更すると従来タイプのアイコンに変更できます(図C).また,"Background image"を[Antikythera Mechanism]に変更すると,起動時の画像が従来タイプと同じになります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_021.zip
●データ・ファイル内容
LTC1734_CCS.asc:図3の回路
LTC1734.asc:図4の回路
LTC1734.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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