直列接続の電気二重層コンデンサをばらつきなく充電する




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■問題
【 LTC3625 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,直列接続した,ばらつきのある2個の電気二重層コンデンサ(C1,C2)を定電流源で充電した場合,充電電圧にもばらつきが発生するのかテストする回路です.ばらつきをテストするため,C1の容量値を2F(ファラド),C2容量値を1Fとして,I1の電流値は1Aとなっています.
 この回路で,A点,B点ともに0Vの状態から充電を開始した場合,3秒後のA点とB点の電圧は(a)~(d)のどれでしょうか.



図1 直列接続した2個の電気二重層コンデンサを定電流源で充電する回路
充電開始3秒後のA点とB点の電圧はいくつ?

(a) A点=4.5V B点=3V
(b) A点=4.5V B点=1.5V
(c) A点=3V  B点=2V
(d) A点=3V  B点=1V

■ヒント

 電気二重層コンデンサ(EDLC:Electric Double-Layer Capacitor)は,スーパーキャパシタ(supercapacitor)とも呼ばれ,非常に容量の大きなコンデンサです.ただし,電気二重層コンデンサは耐圧が低いので,必要な耐圧にするため,複数の電気二重層コンデンサを図1のように直列に接続して使用する場合があります.コンデンサを一定の電流で充電したときのコンデンサの電圧は,容量値と時間を使用して計算することができます.

※さらに,電気二重層コンデンサを直列接続して充電する場合,それぞれの容量値がばらつきにより異なっていると,充電電圧にもばらつきが発生します.そのため,後半では電圧ばらつきが発生しないように充電することのできる専用IC(LTC3625)について解説します.

■解答


(a) A点=4.5V B点=3V

 コンデンサを一定電流(I)で充電したときの電圧(V)は,容量値をCとし,充電時間をTとすると「V=I*T/C」で計算できます.C1の電圧(VC1)は「VC1=1*3/2=1.5」となり,C2の電圧(VC2)は「VC2=1*3/1=3」となります.つまり,A点の電圧はVC1とVC2を足した4.5Vとなり,B点の電圧はC2の電圧と同じ3Vとなります.

■解説

●電気二重層コンデンサの構造と特長
 図2(a)は,一般的なコンデンサの原理図です.電極で誘電体を挟んだもので,電荷を蓄えることができます.電荷を蓄える能力を表す容量値は,電極の面積と誘電体の誘電率および厚さで決まり,誘電体の厚さが薄いほど容量値は大きくなります.ただし,誘電体の厚さを極端に薄くするのは難しく,容量値には上限があります.
 図2(b)は,電気二重層コンデンサの原理図です.活性炭で作られた電極で電解液を挟んだ構造となっています.ここに低い電圧を加えると,電極に近い電解液中に,電極の電荷を打ち消すような電荷を持った層が形成されます.これを電気二重層と呼び,電荷を持った層と電極の間隔は極めて短いため,電極と電荷を持った層で構成されるコンデンサの容量値は,極めて大きなものになります.
 そのため,この原理を利用した電気二重層コンデンサは,同じ大きさの電解コンデンサの数万倍の容量値を持たせることができます.ただし,電気二重層コンデンサの耐圧は数ボルト程度とかなり小さく,過大な電圧を加えると,電解液が電気分解し,ガスが発生して故障してしまいます.


図2 一般的なコンデンサと電気二重層コンデンサの原理図
電気二重層コンデンサは,電解液を電極で挟んだ構造となっている.

●電気二重層コンデンサの用途
▼バッテリの代用
 電気二重層コンデンサは非常に大容量なため,バッテリの代用として使用することができます.一般的なバッテリと比較すると,電流を取り出したときに電圧が直線的に低下してしまうという問題はありますが,バッテリのような劣化がないため,長寿命化ができます.

▼負荷変動の低減
 電気二重層コンデンサを電源と並列に接続することで,ピーク状の負荷電流が流れたときの電源電圧変動を小さくすることができます.

▼回生エネルギの回収
 電気自動車でブレーキをかけたときに,モータを発電機として使用して,エネルギの回収を行いますが,電気二重層コンデンサは,バッテリに比べて大電流で充電することができるため,回生エネルギを無駄なく回収することができます.

●直列接続したコンデンサの充電
 電気二重層コンデンサは,耐圧が低いため,必要な耐圧にするために直列接続して使用することがあります.ここでは,直列接続したコンデンサを定電流源で充電したときの,各部の電圧を計算してみます.
 図3は,直列接続されたコンデンサC1,C2を,I1という一定の電流で充電する回路です.C1,C2は直列に接続されているため,どちらもI1で充電されます.


図3 直列接続したコンデンサを定電流源で充電する回路
A点とB点の電圧がいくつになるか計算する.

 C1,C2をそれぞれの容量値とし,時間をTとすると,T秒後のC1の両端電圧(VC1)は式1で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 同様に,C2の両端電圧(VC2)は式2で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 ここで,C1=2F,C2=1F,I1=1A,T=3sとすると,VC1は式3のように1.5Vになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 同様に,VC2は式4のように3Vになります.B点の電圧はVC2と同じため,3Vです.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 A点の電圧はVC1とVC2を足したものなので,式5のように4.5Vと計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 このように,コンデンサを直列にして充電する場合,それぞれの容量値が異なると,充電電圧が異なることになります.図1の回路定数の場合,C1,C2に耐圧2.7Vの電気二重層コンデンサを使用し,A点の電圧が4.5Vになるまで充電すると,C2の電圧が3Vとなり,耐圧を越えてしまいます.そのため,直列接続した電気二重層コンデンサを充電する場合は,それぞれのコンデンサの電圧が等しくなるような工夫が必要になります.

●直列接続したコンデンサの定電流充電を確認する
 図4は,直列接続したコンデンサを定電流充電したときの,各部の電圧をシミュレーションする回路です.「.ICコマンド」でA点とB点の電圧の初期値を0Vとしています.


図4 直列接続したコンデンサの定電流充電をシミュレーションする回路
「.ICコマンド」でA点とB点の電圧の初期値を0Vとしている.

 図5が,図4のシミュレーション結果です.充電開始3秒後にA点の電圧は4.5VでB点の電圧は3Vになっています.このとき,C1の充電電圧は1.5VでC2の充電電圧は3Vとなっており,電気二重層コンデンサの容量値が異なると,充電電圧が異なってしまうことが分かります.


図5 直列接続したコンデンサの,定電流充電シミュレーション結果
C1とC2の充電電圧が異なっている.

●容量値にばらつきがあっても,同じ電圧に充電するIC
 図6は,直列接続された電気二重層コンデンサの容量値にばらつきがあっても,同じ電圧に充電するIC「LTC3625」の応用回路例です.LTC3625のデータシートに記載されているものです.
 LTC3625は,次のような特徴を持ったICです.
・LTC3625は,2.7V~5.5Vの入力電源から,直列に接続された2個の電気二重層コンデンサを充電することができる,自動セル・バランシング付きの電気二重層コンデンサ・チャージャICです.
・LTC3625は,2つのコイルを外付けすることで,降圧と昇圧を行い,2つの電気二重層コンデンサの電圧バランスを確保しながら,高速に充電することができます.
・LTC3625の出力電圧は,VSEL端子によって,4.8Vと5.3Vの2種類を選択できます.また,PROG端子とGND間の抵抗値によって,充電電流の大きさを設定することができます.


図6 LTC3625の応用回路
2つの電気二重層コンデンサの電圧バランスを確保しながら,高速に充電できる.

●LTC3625応用回路のシミュレーション
 図7は,LTC3625の動作をシミュレーションする回路図です.入力電圧はリチウム・イオン・バッテリを想定して3.6Vとしています.コンデンサの容量値が異なっていても,バランスよく充電できるか確認するため,コンデンサの容量値は,C1=2mF,C2=1mFとしています.このコンデンサは,実際は0.1F以上のものを使用しますが,シミュレーション時間を短縮するため,小さな値に設定しています.


図7 LTC3625応用回路の動作をシミュレーションする回路
C1,C2の容量値を異なる値として,それぞれのコンデンサの充電電圧を確認する.

 図8は,図7の回路のシミュレーション結果です.充電開始後1.3msでC2の充電は完了し,C2の電圧(A点の電圧)は2.4Vで一定となっています.その後,C1が充電されてゆき,A点の電圧が4.8Vになったところで,充電は完了しています.このとき,C1の電圧も2.4Vとなっており,2つのコンデンサの容量値が異なっていても,バランスよく充電されることがわかります.


図8 図7のシミュレーション結果
2つのコンデンサの容量値が異なっていても,バランスよく充電されている.

 以上,電気二重層コンデンサの充電について解説しました.LTC3625は,コイルを1個だけ使用した応用回路で動作するモードもあります.LTC3625の詳しい使用方法に関しては,データシートを参照してください.

◆参考・引用*文献
アナログデバイセズ:LTC3625のデータシート
エルナー(株):電気二重層の原理
エルナー(株):電気二重層コンデンサを使うメリットと用途について


■LTspice24 Tips

 2023年11月にLTspiceがバージョンアップして「LTspiceXVII」から「LTspice24」(図A)になりました.ここでは,LTspice24の新情報を『不定期連載コラム』としてダイジェストに解説します.第1回目は,『使いやすく,速くなったLTspice24』です.


図A LTspice24の起動画面

●主な改善内容
 まず,今回のバージョンアップで大きく改善されたところは,ユーザ・インタフェースとシミュレーション速度の向上となります.
 主な改善内容をあげると次のようになります.
▼ユーザ・インタフェースの改善
・ツール・バーのアイコンと回路図編集画面マウス・カーソルの変更
・起動画面の背景画像の変更
・デフォルト・キーボードショートカットの変更
▼周波数応答解析の強化
・新しい4端子プローブ
・位相マージンのプロット
▼波形ビューアの改良
・右クリックによるプロット・ペインの再配置 (上下に移動,上下に追加)
・カーソルの追加/消去のためのメニュー項目

●シミュレーション速度改善例
 使用するPCの構成や回路によって,シミュレーション速度は変化しますが,今回解説したましたLTC3625を使用した回路(図7)でシミュレーション時間を比較してみました.図Bがシミュレーション・ログに表示された実行時間です.LTspiceXVIIでのシミュレーション時間が41.5秒だったのに対し,LTspice24では33.8秒と20%程度速くなっています.回路の種類によっては,シミュレーション時間が半減することもあるようです.


図B シミュレーション・ログに表示された実行時間

●ツール・バー・アイコンの新旧比較
 図CがLTspiceXVIIとLTspice24の,ツール・バー・アイコン対応図です.それぞれ同じ機能のアイコンを矢印で結んでいます.LTspice24では3つの新機能(シミュレーション設定,画面縦分割,電圧源)のアイコンが追加されています.


図C LTspiceXVIIとLTspice24の,ツール・バー・アイコン対応図


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_019.zip

●データ・ファイル内容
2cell_EDLC.asc:図4回路
2cell_EDLC.plt:図5グラフを描画するPlot settinngsファイル
LT3625.asc:図7路
LT3625.plt:図8ラフを描画するPlot settinngsファイル

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