電源の配線抵抗による電圧低下を補償するIC
図1は,電圧可変3端子レギュレータIC(LT1083)と,配線抵抗による電圧降下補償IC(LT6110)を組み合わせた電源回路です.電源側とGND側,それぞれ0.125Ωの配線抵抗(RW1,RW2)を介して負荷が接続されています.
この回路で,負荷電流を10mAから5Aまで変化させたとき,負荷に加わる電圧(OUT端子とG端子の差電圧)の電圧変化が最も小さくなるRINの値は(a)~(d)のどれでしょうか.
負荷電流を変化させた場合,OUT端子の電圧変化が最も小さくなるRINの値は何Ωでしょうか?
LT6110は,RINの電圧降下(VRIN)が,電流検出抵抗のRSの電圧降下(VRS)と等しくなるように動作します.IMON端子からは,RINに流れる電流の3倍の電流が出力されます.このIMON端子から出力される電流をR2に流すことで,LT1083の出力電圧をコントロールします.
これらの動作を踏まえて,RS,RW1,RW2の電圧降下を打ち消すように,LT1083の出力電圧を変化させるRINの値を計算してください.また,LT1083の動作に関しては,「任意の出力電圧に設定できる3端子レギュレータ」を参考にしてください.
R2に電流を流し込むと,LT1083の出力電圧は,その電流値とR2の積の値だけ上昇します.RS,RW1,RW2の電圧降下とLT1083の出力電圧増加が等しくなるRINの値は「3*R2*RS/(RW1+RW2+RS)」となります.図1の定数を代入して計算すると「RIN=364」となり,360Ωが最も近い値となります.
●電源配線抵抗による電圧低下
電源回路と負荷が,離れた場所にある場合,配線抵抗による電圧降下が問題となります.図2は,LT1083を使用した電源回路の,配線抵抗による電圧降下をシミュレーションするための回路です.
負荷として,電流源(IL)を接続している.
電源側の配線抵抗(RW1)とGND側の配線抵抗(RW2)を介し,負荷として,電流源(IL)を接続しています.LT1083の出力電圧(VIC-OUT)は式1で計算することができ,図2の定数の場合,4.93Vになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
負荷の電流源に印加される電圧(VOUT-G)は,OUT端子とG端子の差電圧です.VOUT-Gは式2のように計算できます.
・・・・・・・(2)
RW1とRW2がそれぞれ0.125Ωで,負荷電流が5Aのときは3.68Vまで低下してしまいます.
図3は,図2のシミュレーション結果です.
負荷(電流源)に印加される電圧は,負荷電流の増加にともなって低下している
LT1083の出力電圧V(ic-out)は負荷電流が増加しても変化していませんが,電流源に印加される電圧のV(OUT,G)は,負荷電流の増加にともなって低下し,5Aのときは3.65Vになっています.
●配線抵抗による電圧降下を補償する回路
図4は,図2の回路にLT6110を追加して,配線抵抗による電圧降下を補償するようにした,図1と同じ構成の回路です.
RINを360Ωとすれば,負荷電流が増加しても,負荷に加わる電圧は変化しない.
●電圧変化が最も小さくなるRINの値の求め方
図4のRSが負荷電流を検出するための抵抗です.LT6110は,内蔵されているオペアンプで,RSの電圧(VRS)とRINの電圧(VRIN)が等しくなるように,RINに流れる電流を制御します.そして,IMON端子から,RINに流れる電流(IRIN)の3倍の電流を出力します.VRSは負荷電流(IL)とRSの積で,式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
VRSとVRINが等しいことから,IRINは式3を使用して式4のように計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
LT1083の出力電圧は式1で表されますが,R2に電流を流し込むと,その電流値とR2の積の電圧だけ出力電圧が上昇します.電圧上昇値をΔVとすると,ΔVは式5のように表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
配線抵抗(RW1,RW2)の電圧降下と電流検出抵抗(RS)の電圧降下の合計をVRWSとすると,負荷の電流源に印加される電圧は,LT6110の出力電圧からVRWSを引いたものになります.ここでVRWSは式6で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
負荷電流が増加しても,負荷に加わる電圧を一定とするためには,ΔVとVRWSを等しくする必要があります.つまり,式7が成立するように定数を設定すればよいことになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
式7を変形してRINを求めると式8になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
図4の定数を代入すると,RINは約360Ωとすればよいことが分かります.
図5が図4のシミュレーション結果です.負荷電流が増加すると,LT1083の出力電圧が上昇し,配線抵抗による電圧降下を補償するため,負荷に加わる電圧が一定となっています.
負荷電流が増加するとLT1083の出力電圧が上昇し,負荷に加わる電圧は一定になる.
●RINの値を変更し電圧降下を確認する
図6は,図4の回路で,RINの値を240Ω,360Ω,480Ω,600Ωに変化させたときの負荷に加わる電圧をプロットしたものです.RINが360Ωのときが最もフラットで,360Ωよりも大きいと電圧が低下し,360Ωよりも小さい場合は,負荷電流が増加すると逆に電圧が上昇しています.
RINが360Ωのときが最もフラットで,大きいと電圧が低下し,小さい場合は電圧が上昇.
以上,配線抵抗による電圧降下を補償する,LT6110について解説しました.LT6110のIOUT端子を使用すると,抵抗分割で出力電圧を設定するスイッチング電源IC等と組み合わせた構成とすることもできます.LT6110の詳しい使用法に関しては,LT6110の仕様書を参照してください.
◆参考・引用*文献
アナログデバイセズ:LT6110のデータシート
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_015.zip
●データ・ファイル内容
LT1083_WR.asc:図2の回路
LT1083_WR.plt:図3のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LT6110.asc:図4の回路
LT6110.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LT6110_RIN_STEP.asc:図6をシミュレーションするための回路
LT6110_RIN_STEP.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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