高精度OPアンプを使ったローサイド電流検出回路




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■問題
【 ADA4097-1 】

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,ローサイドの電流(GNDに向かって流れる電流:I1)を,低い抵抗(R1)を使って電流を検出する,ローサイド電流検出回路です.出力はoutになり,ローサイドの電流を電圧に換算した値が得られます.outとOPアンプ出力の間にはダイオード(D1)がありますが、この役割として正しいのは(a)~(d)のどれでしょうか.
 ただし,ADA4097の出力電圧はデータシートより, 最大値がV+(図1は5V)から2.5mV低い4.9975V,最小値は0.24Vです.


図1 R1の電圧降下でGNDへ流れる電流を検出し,電圧に換算して出力するローサイド電流検出回路
回路を評価するため,検出するローサイド電流としてI1を用いている.

(a) outの温度変化を補償する
(b) ローサイドの電流(I1)が低電流のときのoutの電圧精度を向上させる
(c) outからOPアンプ出力に流れる電流を遮断する
(d) 非反転アンプのoutの電圧は,バーチャル・ショートの電圧と同じになる

■ヒント

 図1で使用しているADA4097のOPアンプは,出力電圧範囲が0.24V~4.9975Vです.この出力電圧範囲のとき,D1がある回路とない回路を比較すると,D1の役割が分かります.

■解答


(b) ローサイドの電流(I1)が低電流のときのoutの電圧精度を向上させる

 ADA4097のOPアンプの最小の出力電圧は,0.24Vです.D1がない状態(D1をショート)を考えると,outとOPアンプの出力は同じ電圧になるので,outが0.24Vより低くなるローサイドの電流のときバーチャル・ショートが成り立ちません.このためoutはVR1を「G=1+R3/R2」のゲインで増幅した電圧からずれが生じます.D1があると,OPアンプ出力電圧はoutの電圧より順方向電圧(おおよそ0.7V)だけ高くなります.この状態はOPアンプの最小の出力電圧にならないので,ずれが生じません.これより正解は,(b)の「ローサイドの電流(I1)が低電流のときのoutの電圧精度を向上させる」になります.
 また,不正解の理由として,(a)は,outの電圧にD1の順方向の電圧と温度変化は関係しないので不正解です.(c)は,D1が逆方向にバイアスした状態を示したものなので不正解です.(d)は,非反転アンプのoutの電圧は,バーチャル・ショートの電圧にR3の電圧降下を加えた電圧になるので不正解です.
 

■解説

●ローサイド電流検出回路について
 図1のローサイド電流検出回路は,回路からGND側に流れる過電流の検出や,バッテリで動作させる回路の電流検出等に使われます.回路はシンプルで,図1のR1の低い抵抗に発生する電圧降下を非反転アンプで増幅し,電圧換算でローサイドの電流を検出します.この回路はADA4097のデータシートにある回路になります.
 図1のローサイドの電流とoutの電圧の関係を机上計算で調べます.図1では回路を評価するため,検出するローサイドの電流をI1としています.ローサイドの電流(I1)とR1で発生する電圧降下は式1になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 式1のVR1が非反転アンプの入力電圧となるので,outは式2になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 「R2=1kΩ,R3=9.09kΩ」なので,outではI1の電流を1.009倍した電圧換算で検出することができます.式2より,図1のVoutはローサイドの電流が0Aに近いとき,outの電圧は0Vに近くなります.検出したいローサイドの電流が低いときは,入力が0V(=GND)でも動作し,かつ出力も0V付近まで出力できる入出力電圧範囲が広いOPアンプを選びます.図1のADA4097は入出力がレール・ツー・レールのOPアンプなので,この条件に近いOPアンプになります.

●データシートからOPアンプの入出力電圧範囲を調べる
 ここでは,図1で使ったADA4097の入出力電圧範囲を調べます.データシートで入力電圧範囲を調べるときは,入力の同相入力電圧範囲を用います.ADA4097のデータシートでは5V電源のとき次の規格になります.

「Common-Mode Input Range」最小で-0.1V,最大で+70V

 図1のVR1の最小は,ローサイド電流(I1)が流れない0Aなので0Vになり,最小の-0.1Vより高いので同相入力電圧範囲内です.またVR1の最大は,ADA4097の電源電圧を超えて最大で+70Vまで動作できることになります.
 次に出力電圧範囲を調べるときは,出力電圧スイングを用います.ADA4097のデータシートでは,次の規格になります.シンク電流はOPアンプが吸い込む電流,ソース電流はOPアンプが吐き出す電流です.

「Output Voltage Swing Low」シンク電流が 5mAのとき標準で240mV,最大で325mV
「Output Voltage Swing High」ソース電流が 5mAのとき標準で2.5mV,最大で5mV

 この規格の標準値を図1の5V電源に当てはめると,出力電圧が低い方は0.24V,出力電圧が高い方は5Vから2.5mV低い4.9975Vになります.

●入出力電圧範囲を確かめる
 図2は,ADA4097を使い,5V電源のユニティ・ゲイン・バッファの入出力特性を調べる回路になります.ユニティ・ゲイン・バッファは,入力電圧と出力電圧が同じになります.しかし,OPアンプの入出力電圧範囲から外れると,同じ電圧にはなりません.これを利用して簡易的にOPアンプの入出力電圧範囲を調べます.図2のシミュレーションは,入力はV2で0V~5Vを1秒でスイープし,「.tran 1」のドット・コマンドで0s~1sの過渡解析を用います.


図2 レール・ツー・レールOPアンプの入出力特性をユニティ・ゲイン・バッファで調べる

 図3は,図2のシミュレーション結果になります.上段のV(in+)はV2の入力電圧をin+のラベルでプロット,V(out)はユニティ・ゲイン・バッファの出力電圧をプロットしています.下段のV(in+,out)は入力電圧と出力電圧の差電圧になります.
 図3の上段ではV(in+)とV(out)は重なっているように見えますが,下段の差電圧のプロットより明らかに差が広がるのは,V(out)の電圧が0.24Vより低くなるところです.V(out)が0.24V以上は差電圧が0Vに非常に近いのでバーチャル・ショートとみなせますが,V(out)が0.24Vより低くなるとバーチャル・ショートが成り立ちません.これは先ほどのデータ・シートから読み取った出力電圧の下限値0.24V以下の状態であり,この領域は負帰還アンプが正常に動作しないことになります.


図3 図2のシミュレーション結果
上段はin+とoutの電圧をプロット.下段はin+とoutの差電圧をプロット.
outの電圧が0.24Vより低くなるとバーチャル・ショートが成り立たなくなる.

●ダイオード有無による特性差
 次に,図4の2つの回路を用いて,D1のダイオードの有無によりローサイド電流検出回路の特性差を調べます.図4(a)図1と同じD1のダイオードが有る回路,図4(b)はダイオードが無い回路になります.この2つのシミュレーション結果を用いて答え合わせをします.シミュレーションは,図4(a)の入力はI1図4(b)の入力はI2で,2つとも0A~1Aを1秒でスイープし,「.tran 1」のドット・コマンドで0s~1sの過渡解析を実行します.


図4 ダイオード(D1)の有無で,ローサイド電流検出の誤差を調べる2つの回路
(a)はダイオード(D1)がある回路,(b)はダイオードがない回路.

 図5は,図4のシミュレーション結果になります.図5上段のV(A,B)は,図4(a)の非反転端子の電圧Aと反転端子の電圧Bの差電圧のプロット,V(C,D)は図4(b)の非反転端子の電圧Cと反転端子の電圧Dの差電圧のプロットになります.I1とI2の電流は同じ時間変化で与えているので,代表としてI1の電流をI(I1)でプロットしています.図5下段のV(out1)は図4(a)のout1の電圧をプロット,V(out2)は図4(b)のout2の電圧をプロットしたものになります.そして,ADA4097のデータシートで調べたOPアンプの出力電圧の下限値0.24Vは,R1が0.1Ωなので式2から逆算すると,ローサイドの電流は0.24Aに相当します.この0.24Aは,図5上段と図5下段のどの位置になるかを波線で示しています.
 図5下段のダイオードがないV(out2)は,ADA4097の出力電圧の下限値0.24V以下になる0s~0.24sの時間領域で,式2の関係式からずれが生じます.この原因は上段のV(C,D)のプロットで,同じ時間領域でOPアンプの出力電圧の下限値0.24Vより低くなり,バーチャル・ショートが成り立たなくなるためです.
 一方,D1のダイオードがあると,ADA4097の出力電圧は下限値0.24VよりD1の順方向電圧だけ高くなります.この効果により,バーチャル・ショートが成り立つので,図5下段のV(out1)は低いローサイドの電流でも誤差が生じず,精度が向上するのが分かります.以上のシミュレーション結果からも解答の(b)になるのが分かります.


図5 図4のシミュレーション結果
ダイオードがないとoutが0.24Vより低いとバーチャル・ショートが成り立たず誤差が生じる.
ダイオードがあると電流検出の精度が向上する.

 以上,データシートにあるローサイド電流検出回路は,検出する電流が低いとき,ダイオード(D1)で精度が向上することを解説しました.入出力レール・ツー・レールOPアンプの出力電圧範囲は2つのレール(電源とGND)付近まで出力スイングできますが,完全にレールではありません.図1の回路で検出したい電流領域が低いときはダイオードが必要になります.


◆参考・引用*文献
アナログ・デバイセズ:ADA4097-1のデータシート


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_012.zip

●データ・ファイル内容
Unity Gain Buffer.asc:図2の回路
Unity Gain Buffer.plt:図2のプロットを指定するファイル
Lowside current detected.asc:図4の回路
Lowside current detected.plt:図4のプロットを指定するファイル

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