コンデンサと同じ特性の薄型「圧電スピーカ」の駆動回路
図1は,薄型の「圧電スピーカ」を使用して,オーディオ信号(Va)を再生する回路です.圧電スピーカのドライブICとして,LT3469を使用しています.図1で使用している圧電スピーカの説明として,最も適切なのは(a)~(d)のどれでしょうか.
圧電スピーカの説明として,最も適切なのは.
(b) インダクタンスが大きいため,大きな出力電圧のアンプが必要
(c) オーディオ周波数対では,純抵抗とみなせる
(d) アンプからみると,容量性負荷となる
圧電スピーカは,セラミックスに電圧を加えると変形する,逆圧電効果を利用して,電気信号を音に変換するものです.セラミックスを2枚の電極ではさんだ構造となっています.ピエゾ・スピーカやセラミック・スピーカと呼ばれることもあります.
圧電スピーカは,セラミックスを2枚の電極ではさんだ構造となっており,セラミック・コンデンサと類似した構造となっています.そのため,圧電スピーカのインピーダンスの周波数特性は,コンデンサと同等な特性となるため,(b),(c)は不正解となります.また,容量性負荷とは,コンデンサ負荷のことなので,(d)の「アンプからみると,容量性負荷となる」が正解となります.次に,圧電スピーカは,インピーダンスが高いため,駆動に高い電圧が必要になることから,(a)も不正解となります.
●圧電スピーカの構造と等価回路
図2は,圧電スピーカの構造を簡略化した模式図です.圧電材料(セラミックス)を電極ではさんだ構造となっています.誘電体を金属板ではさんだものがコンデンサですが,圧電スピーカはコンデンサと類似した構造となっています.
圧電材料(セラミックス)を電極ではさんだ構造となっている.
そのため,圧電スピーカのインピーダンスの周波数特性は,コンデンサと同等な特性になります.圧電材料に電圧を印加すると,若干変形します.そして,印加する電圧の極性を反転すると,反対方向に変形します.この圧電材料の変形により,振動版が振動することで,音が発生します.
図3は,圧電スピーカの等価回路と簡易等価回路となります.機械的共振特性等を含めた圧電スピーカの等価回路は,図3(a)のようになりますが,コンデンサが支配的なために,ほぼ容量性負荷(コンデンサ)とみなすことができます.そのため,簡易等価回路としては,図3(b)のように,1個のコンデンサで代用することができます.
ほぼ容量性負荷とみなすことができる.
●圧電スピーカとダイナミック・スピーカの特徴
現在最も一般的に使われているのは,ダイナミック・スピーカです.ただし,ダイナミック・スピーカは構造上,ある程度の厚さが必要です.一方,圧電スピーカは,非常に薄いため,機器の薄型化が可能です.表1はダイナミック・スピーカと圧電スピーカの特徴をまとめたものです.
●圧電スピーカの駆動に必要な電圧と電源
圧電スピーカは,ダイナミック・スピーカと比較すると,インピーダンスが高いため,小型のスピーカでも,駆動するためには15VPPといった,大きな電圧を印加する必要があります.そのため,広く使用されている,5V電源を使用したアンプでは直接駆動することができません.そこで,LT3469には,最大35Vの電源を作ることができる昇圧回路が内蔵され,5V電源を使用したアンプでも圧電スピーカが駆動できます.図4がLT3469の昇圧回路部分のブロック図です.
R1,R2により,VCC端子の昇圧電圧を設定することができる.
Q1がスイッチング動作を行うことで,VCC端子に昇圧された電圧が出力されます.昇圧電圧(VCC)は式1で計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
●圧電スピーカの駆動用アンプ
負帰還のかかったアンプに,容量性の負荷を接続すると,不安定となり発振してしまうことがあります.圧電スピーカは,かなり大きな容量性の負荷となるためアンプの選定には注意が必要です.LT3469は,駆動用のアンプをgm(トランス・コンダクタンス)アンプとすることで,この問題に対応しています.図5は,LT3469の仕様書に記載されているアンプ部分の等価回路です.容量性負荷を駆動するように設計された,gmアンプとなっています.
容量性負荷を駆動するように設計された,gmアンプとなっている.
gmアンプのオープン・ループ・ゲインは,gmと負荷インピーダンスの積で決まるため,容量性負荷を接続すると,オープン・ループ・ゲインは6dB/octで減少し,位相変化は90度までとなります.そのため,負帰還をかけても安定に動作させることができます.
図6は,gmアンプに容量負荷を接続したときの特性をシミュレーションするための回路です.電圧制御電流源をgmアンプとして使用しています.
負荷容量(CCSP)の値を0.1μFと0.2μFに変化させる
R1とR2で負帰還をかけており,ゲインは20dBに設定しています.そして,負荷容量(CCSP)の値を0.1μFと0.2μFに変化させたときの特性をシミュレーションします.
図7は,図6のシミュレーション結果です.青線がOUT端子までのゲインで,20dBとなっています.赤線はOUT端子の電圧をInP端子とInM端子の差電圧で割ったもので,オープン・ループ・ゲインを表しています.オープン・ループ・ゲインは6dB/octで減少しています.
オープン・ループ・ゲインは6dB/octで減少している.
●圧電スピーカの駆動回路確認する
図8は,LT3469を使用した,圧電スピーカの駆動回路をシミュレーションするための回路です.
VCCの電圧は約20Vで,アンプのゲインは20dBとなるよう定数設定している
入力電圧は5Vで,VCCの昇圧電圧は式2のように,約20Vとなるよう,R1とR2の値を設定しています.負荷は,圧電スピーカの代りに0.1μFのコンデンサを接続しています.
・・・・・・・・・・・・・・・(2)
また,アンプのゲイン(G)は式3のように10倍(20dB)となるよう,R3とR4の値を設定しています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
オーディオ入力信号(Va)は直流電圧が1Vで振幅が1.6VPP,周波数が1kHzの正弦波です.
図9が図7のシミュレーション結果です.VCC端子の電圧とOUT端子の出力波形を表示しています.VCC端子の電圧は,19.6Vに昇圧されており,OUT端子には16VPPの正弦波が出力されています.このように,LT3469を使用することで,5V電源でも圧電スピーカを十分大きな電圧で駆動できることがわかります.
VCC端子の電圧は,19.6Vで,OUT端子には16VPPの正弦波が出力されている.
以上,圧電スピーカ・ドライブIC(LT3469)の動作について解説しました.LT3469の詳細な使い方に関しては,LT3469のデータシートを参照してください.
◆参考・引用*文献
アナログ・デバイセズ:LT3469のデータシート
アナログ・デバイセズ:セラミック・スピーカ・アプリケーションのアンプに関する考察
LTspiceで学ぶオーディオ回路入門:オーディオ用ダイナミック・スピーカの構造と等価回路
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_011.zip
●データ・ファイル内容
gmAMP_CL.asc:図6の回路
gmAMP_CL.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LT3469.asc:図8の回路
LT3469.plt:図9のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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