コンパレータを使い防犯灯に応用したタイマ回路




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■問題
【 LT1716 】

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,コンパレータ(LT1716)を使ったタイマ回路です.タイマ回路はスイッチを押すとVcの電圧は3Vになり,コンパレータのoutも3Vになります.この回路でスイッチを離してからoutが3Vを継続するタイマ時間として近いのは(a)~(d)のどれでしょうか.



図1 コンパレータを使ったタイマ回路
スイッチを押すとoutは3Vになり,離すとタイマ時間だけ3Vを継続して0V(GND)になる.

(a) 30秒 (b) 40秒 (c) 50秒 (d) 60秒

■ヒント

 図1のタイマ回路は,スイッチを押した後,スイッチを離すとC1は放電を開始し,タイマがスタートします.outは放電に要するタイマ時間が経過した後に0Vに戻ります.
 コンパレータは,反転端子と非反転端子の電圧を比較して,outは,HighまたはLowのデジタル信号にするデバイスです.図1は反転端子のrefの電圧と,非反転端子のVcの電圧を比較しています.Vcの電圧はC1の放電に要する時間があるので,時間の経過と共に徐々に低くなります.Vcの電圧がrefの電圧と交差するまでがタイマ時間になります.

■解答


(d) 60秒

 スイッチを押すと,Vcは電源(V+)の3Vになります.その後スイッチを離すと,C1は放電してVcの電圧は時間の経過と共に低くなります.この放電の時間とVcの電圧の関係は,C1とR2の時定数(τ=C1R2)で決まります.具体的には,時間をTとすると,「T=τ」のときVcの電圧は「Vc=0.368×3V」になります.次にrefの電圧(Vref)は,電源3VをR3とR4で抵抗分圧した電圧なので「Vref=0.367×3V」になります.Vcの「3Vを0.368倍」とVrefの「3Vを0.367倍」は,ほぼ等しいので,Vcの電圧がVrefの電圧と交差するのはC1とR2の時定数の時間になります.時定数は「C1=10μF」と「R2=6.2MΩ」より「τ=62」なので,スイッチを離してから62秒がタイマ時間になります.この時間に近いのは(d)の60秒になります.

■解説

●コンパレータの基本的な動作
 コンパレータは,2つの電圧を比較した結果をHighまたはLowのデジタル信号にするデバイスになります.この動作を図2を用いて確認します.図2のコンパレータはLT1716で,データシートを参照すると,電源は2.7Vの低電圧から動作し,消費電流は35μAと低いのが特徴のコンパレータです.このようなコンパレータは,低消費電流が要求される回路に用いられます.


図2 コンパレータの基本的な動作を確認する回路
V2は1Vで固定,V1は0.95V~1.05V間をスイープし,outの応答を確認する.

 図2は電源が3V,refの電圧はV2の1Vにし,inの電圧はV1で初期値が0.95V,振幅が1.05Vの三角波が入力になります.コンパレータはinの電圧がrefの電圧より高くなるとoutは3Vになります.その逆のinの電圧がrefの電圧より低くなるとoutは0Vになる動作になります.
 図3は,図2のシミュレーション結果になります.シミュレーションはtran解析を用い,inの時間変化でoutの変化はどうなるかをプロットしています.上段はinの時間変化とrefの直流電圧,下段はoutの時間変化になります.このようにrefの電圧を境にして,inの電圧が低いとoutは0V,逆にinの電圧が高いとoutは3Vになるのが分かります.


図3 上段はinとrefのラベルの波形をプロット.下段はoutの波形をプロット
V(in)がV(ref)より低いとV(out)は0V,その逆はV(out)が3Vになる.

●放電時のVcの時間変化と時定数の関係
 次に,図1のC1が放電しているときのVcの時間変化と時定数の関係について,図4を用いて調べます.図4のスイッチは,初期状態がONでVcは3Vです.この状態からスイッチをOFFにして,C1が放電している状態にします.スイッチをOFFにするタイミングは,時間が0秒でスイッチをOFFにできないので,非常に短い1.1nsの時間が経過した後にスイッチをOFFにします.


図4 C1とR2による時定数を確認する回路
スイッチの初期状態はON,1.1ns後にスイッチはOFFになるときの時間応答を調べる.

 Vcの時間変化と時定数の関係について机上計算します.図4のVcの時間変化は式1になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 V+は電源の3V,Tは時間,τは時定数になります.時定数τは,C1の放電先がR2のとき,式2になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 時間Tが時定数τと等しいとき,式1を「T=τ」とすると,Vcは式3になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式3より,「T=τ」のときのVcは,V+を0.368倍した電圧になります. 具体的には,V+が3Vのときは「Vc=1.104V」になります.

●放電時のVcの時間変化をシミュレーション
 図5は,図4のシミュレーション結果で,放電時のVcの時間変化をプロットしました.時定数は式2へ「C1=10μF」と「R2=6.2MΩ」を入れると,「τ=62」です.図5より,「T=τ」とした62秒のVcの電圧は1.103Vであり,この値は式3で求めた1.104Vとほぼ同じになります.


図5 図4のシミュレーション結果
t=C1R2になるとき,VCの電圧は初期状態の0.368倍になる.

●タイマ時間の計算
 ここでは,図1のタイマ時間の机上計算をします.その後,シミュレーションと一致するか確かめます.
 スイッチを押した状態からスイッチを離したときのVcの電圧変化は先程の式1であり,式1の「T=τ」とすると式3です.式3のVcと同じ直流電圧をref端子に加えると,時定数τの時間でコンパレータのoutは切り替わります.図1のrefの電圧(Vref)は,電源(V+) をR3とR4の抵抗で分圧した電圧なので,式4になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 ここで式4中の抵抗を「R3=620kΩ」,「R4=360kΩ」の抵抗値に設定します.そうすると,式3の「T=τ」としたVcの電圧と,式4のVrefの電圧はほぼ同じになり,この電圧がコンパレータの切り替わりの電圧になります.Vcの時間変化の時定数τは式2なので,「C1=10μF」と「R2=6.2MΩ」を代入するとタイマ時間は62秒になります.以上の検討より,解答は(d)になるのが分かります.図1はこのような回路定数の選び方をすると,タイマ時間は式2の時定数の計算で簡単に求まるので便利です.

●タイマ時間のシミュレーション
 図6は,図1をシミュレーションする回路になります.スイッチのON/OFFはV1の電圧でコントロールしており,V1が0VでスイッチがOFF,V1が3VでスイッチがONになるようにしています.


図6 図1をシミュレーションする回路

 分かりやすくスイッチの開閉でみると,初期状態はOFF,10秒後にON,11秒後にスイッチはOFFになるようにV1を設定しています.シミュレーションはtran解析を用い,「.tran 120」で120秒までの回路の時間応答を調べます.
 図7は,図6のシミュレーション結果になります.上段はスイッチをON/OFFする信号をSWのラベルでプロット,中段は,Vcとrefの電圧のプロット,下段はoutのプロットになります.スイッチが初期のOFFから10秒後にONに変わると,Vcの電圧は3Vになり,outは3Vになります.その後11秒後でスイッチがOFFになるとタイマがスタートします.11秒後からC1は放電を始めて,時間の経過と共にVcの電圧は低下します.コンパレータはVcとrefの電圧が交差する直前までoutは3Vを継続し,Vcの電圧がrefの電圧より低くなるとoutは0Vに戻ります.
 このような動作をするアプリケーションとして,自転車のタイヤの空気を入れるシステムで,「コインの投下後に決まった時間だけコンプレッサが動き,空気を入れられる機材」,自動車のドアの開閉による車内灯の点灯システムで,「ドアが開いたら点灯,ドアを閉めてからしばらくは車内灯が点灯を継続してその後は消灯」,防犯ブザーで「スイッチを押したら警報音を一定時間鳴らす」等に応用できます.


図7 図6のシミュレーション結果
スイッチを離してから,62秒後にoutは0Vになる.

●電源電圧が変化してもタイマ時間は変わらない
 図1の回路の利点として,式3で決まるVcの電圧と,式4で決まるrefの電圧は,共に電源(V+) の電圧から同じ割合で作っているので,電源(V+) が変動してもタイマ時間は変わりません.
 図8の回路は,屋外に設置する防犯灯をの想定し,電源(V+) が変動したときのタイマ時間をシミュレーションします.


図8 防犯灯に応用したアプリケーション例
検知してからおおよそ2分間は点灯を継続する.
電源(V+) が変化してもタイマの時間は変わらない.

 侵入を検知したらoutがHighになり防犯灯が点灯,非検知になってもしばらくの間は防犯灯の点灯は継続し,その後outがLowになると消灯です.タイマ時間内に再び侵入があり,検知したらタイマ時間はリセットされます.野外の設置なので気温の変化が激しくV+の電圧も気温によって変化してしまう環境です.図8ではV+の電圧が変化したときの電圧として,3Vと5Vの2種でシミュレーションします.タイマ時間は「τ=C1R2=123秒」になります.
 図9は,図8のシミュレーション結果になります.上段は検知/非検知を模擬するV1の電圧で,SWのラベルでプロット,中段はVcとrefの電圧のプロット,下段はoutのプロットになります.

図9 図8のシミュレーション結果
最後の非検知になってから123秒(おおよそ2分)は点灯を継続する.
電源(V+) が3V,5Vに変わっても点灯を継続する時間は変わらない.

 10秒後の1回目の検知でoutはHigh(3Vまたは5V)になり,防犯灯が点灯します.20秒後に非検知となりますが,タイマ時間内の40秒で2回目の侵入を検知すると,タイマの開始時間はリセットされ,60秒後の非検知から再スタートします.
 中段のプロット(Vcとref)と下段のプロット(out)にはV+の電圧が3V,5Vのときのプロットがあります.中段プロットより,V+の電圧が変化してもVcとrefの交差するところは変わりません.なので,下段のoutのプロットはV+の電圧が変化してもタイマ時間が変わらないのが分かります.タイマ時間が過ぎるとoutは0Vになり,防犯灯は消灯します.
 以上,コンパレータを使ったタイマ回路について解説しました.図1はシンプルなタイマ回路ですが,何かの出来事に反応し,それをある時間だけ継続するシステムに適しています.

◆参考・引用*文献
アナログ・デバイセズ:LT1716のデータシート


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_010.zip

●データ・ファイル内容
Input output characteristics.asc:図2の回路
Input output characteristics.plt:図2のプロットを指定するファイル
time constant.asc:図4の回路
time constant.plt:図4のプロットを指定するファイル
One push timer.asc:図6の回路
One push timer.plt:図6のプロットを指定するファイル
One push timer application.asc:図8の回路
One push timer application.plt:図8のプロットを指定するファイル
SPST.asc:スイッチのサブ・サーキット
SPST.asy:スイッチのシンボル

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