カメラ・フラッシュ用昇圧回路
図1は,フラッシュ用コンデンサを充電するIC(LT3468)を使用した,カメラ・フラッシュ用の昇圧回路です.図1の回路において「L1=20μH,OUT端子の電圧(VOUT)=313V」の場合,L2のインダクタンス(μH)は(a)~(d)のどれでしょうか.
ただし,LT3468のデータシートより,昇圧トランスの1次側コイル(L1)と2次側コイル(L2)の巻き数比(N)は式1で計算します.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
「L1=20μH,VOUT=313V」の場合,L2のインダクタンスは?
昇圧トランスの巻き数比は,式1を使用することで簡単に計算できます.図1のL1とL2はトランスとして動作し,結合係数は1となっています.トランスの巻き数比が式1で計算した値となる,L2のインダクタンスの値を計算してください.
式1から,巻き数比はN=(313+2)/31.5=10となります.そして,コイルのインダクタンスは巻き数の2乗に比例します.そのため,巻き数比が10の場合,インダクタンスは「102=100倍」となります.
L1が20μHなので,L2は2000μHとなります.
●カメラ用フラッシュ・ランプの構造
図2は,カメラ用ラッシュ・ランプの構造の模式図です.円筒形のガラス管の中にキセノン・ガスが封入されており,両端にアノード電極とカソード電極が取り付けられています.そして円筒の周囲にトリガ用の電極が取り付けられています.
アノード電極とカソード電極に充電されたコンデンサを接続し,トリガ電圧により発光させる.
使用方法は,アノード電極とカソード電極に300V程度に充電されたコンデンサを接続し,発光させるタイミングで,トリガ電極に数千ボルトの電圧を印加します.すると,トリガ電圧により,ガラス管内部のキセノン・ガスがイオン化し,アノードからカソードに瞬間的に大電流が流れ,発光します.
●カメラ用フラッシュ・ランプの駆動回路
図3は,カメラ用フラッシュ・ランプの駆動回路です.LT3468により,C1を300V程度に充電した後,TRIGGER信号でIGBTをONさせると,トリガ用昇圧トランスが高電圧のTRIGGER信号を発生させ,フラッシュ・ランプを発光させます.
C1を300V程度に充電した後,TRIGGER信号でIGBTをONさせると発光する.
●トランスの巻き数比とインダクタンスの関係
LT3468は,昇圧トランスを使用していますが,LTspiceでトランスを含む回路をシミュレーションする場合,トランスの巻き数比は2つのコイルのインダクタンスの比として記述します.
コイルは,導体を巻いたものですが,そのインダクタンスは巻き数(n)の2乗に比例します.図1の昇圧トランスの1次側コイルのインダクタンスをL1とし,その巻き数をn1とすると,その関係は比例係数kを使用して,式2のように表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
同様に,2次側コイルのインダクタンスをL2とし,その巻き数をn2とすると式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
2式と3式からL1とL2の比を求めると,式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
コイルの巻き数比をNとすると,式4を変形して,式5のようにL2の値を求めることができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
図1の回路でVOUT=313Vとするための昇圧トランスの巻き数比Nは,式6のように10となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
L1を20μHとすると,L2は式7のように2000μHになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
●LT3468の内部ブロック図と動作
図4は,LT3468のデータシートに記載されている内部ブロック図です.LT3468は,昇圧トランスをスイッチングすることで昇圧し,コンデンサを充電します.このブロック図を使用して,動作の概要を説明します.
スイッチ・トランジスタQ1をON/OFFさせて昇圧動作を行う.
CHARGE端子をハイレベルにすると,スイッチ・トランジスタQ1がONし,昇圧トランスの1次側コイルに電流が流れます.すると,コイルの電流は直線的に増加していきます.この電流を電流検出抵抗で検出し,一定値以上になると,Q1をOFFします.すると,電流を流し続けようとするコイルの性質により,Q1がOFFした瞬間にSW端子の電圧が跳ね上がり,電源電圧よりも高くなります.このとき,TO点には,SW端子の電圧をトランスの巻き数比倍した電圧が発生し,2次側コイルに電流が流れて,出力コンデンサを充電します.コンデンサの充電が進み,2次側コイルの電流が0になると,SW端子の電圧は低下しますが,一定値以上低下したことを検出すると,再びQ1をONさせる,ということを繰り返します.
●LT3468の特長
Q1のON/OFFを繰り返していくと,SW端子のピーク電圧は,出力コンデンサのチャージ電圧に合わせて徐々に上昇していきます.「SW端子電圧検出回路」により,SW端子の電圧が電源電圧よりも31.5V以上高くなったことを検出すると,昇圧動作を停止します.このように,2次側電圧ではなく,1次側電圧で出力コンデンサの充電完了を検知するのが,LT3468の特長の1つです.
●昇圧回路の動作を確認する
図5は,図1の回路にL2の値を入れた昇圧動作をシミュレーションする回路です.昇圧トランスの巻き数比Nが10となるように,L2のインダクタンスの値は,L1のインダクタンスの102倍としています.
L2のインダクタンスの値は,L1のインダクタンスの102倍としている.
図6は,図5のシミュレーション結果です.
SW点の昇圧電圧を,昇圧トランスでさらに昇圧し,C1を315Vまで充電する.
上段がSW点の電圧波形です.SW点のピーク電圧は徐々に大きくなっていき,SW点の電圧が36.5V(電源電圧+31.5V)になると,昇圧動作を停止しています.
下段が,TO点とOUT点の電圧波形です.昇圧トランスの2次側のTO点には,SW点の電圧をコイルの巻き数比倍にした電圧が現れます.SW点の電圧はダイオードD1で整流され,OUT点には昇圧された直流電圧が出力されています.
つまり,コンデンサC1は昇圧された電圧でチャージされます.図6ではC1の最終電圧は315V程度となっています.
●LT3468のスイッチング動作を確認する
図7は,図5の回路のSWとL1,L2のシミュレーション結果の時間軸を拡大し,LT3468のスイッチング動作を確認するためのものです.
L1の電流は直線的に増加し,その電流が1.2Aに達するとSW点の電圧は立ち上がる.
上段がSW点の電圧波形で,中段がL1の電流波形,下段がL2の電流波形です.昇圧開始直後の40μs~100μs(図7:左半分)と,昇圧完了時の2.59ms~2.65ms(図7:右半分)の波形を表示しています.
L1の電流は直線的に増加しており,その電流が1.2Aに達すると,IC内部のスイッチ・トランジスタがOFFするため,SW点の電圧は立ち上がっています.
次にL2に電流が流れ,その電流が0になると,SW点の電圧は立下ります.SW点がローレベルになっている時間(L1に電流が流れている時間)は常に一定ですが,時間の経過とともに,SW点がハイ・レベルになっている時間は短くなっていき,SW点の電圧は上昇しています.
以上,カメラ・フラッシュ用昇圧回路ICのLT3468について解説しました.カメラ・フラッシュ用昇圧回路については,「アプリケーションノート95:携帯電話/カメラのフラッシュ照射用のシンプルな回路」に詳しく解説されています.また,一般的な昇圧回路に関しての情報は,「LTspice電源&アナログ回路入門:昇圧スイッチング電源の基礎」を参照してください.
◆参考・引用*文献
アナログ・デバイセズ:LT3468のデータシート
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_009.zip
●データ・ファイル内容
LT3468.asc:図5の回路
LT3468.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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