脈流を直流電圧に整流した直流電源を作る




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■問題
【 LT1236/LT1007 】

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,10Vの高精度リファレンスIC(LT1236)を使った直流電源回路です.高精度リファレンスICのIN端子に加わるV+の電圧は,Ref_outで直流の10Vになり,その電圧を調整してoutから出力します.outの電圧はR1とR2で示した可変抵抗で調整します.可変抵抗の調整量を表したnが0.2のとき,outの直流電圧は(a)~(d)のどれでしょうか.ただし,OPアンプは理想として検討します.


図1 高精度リファレンスICを使った直流電源回路
可変抵抗の調整量がn=0.2のとき,outの直流電圧は(a)~(d)のどれ?

(a) -6V (b) -2V (c) +2V (d) +6V


■ヒント

 図1のV+の電圧からoutの直流電圧を作るには,高精度リファレンスICの直流出力電圧(Ref_out)を元に作るやり方があります.
 図1の動作は,Ref_outの電圧がR3に加わり,可変抵抗を表すR1とR2で分圧した電圧がOPアンプの非反転端子に加わります.可変抵抗の調整量を表すnが0.2のとき,この2つの電圧がLT1007とR3とR4からなる負帰還回路の入力になり,outから電圧を出力しています.以上の動作を用いてoutの電圧を計算します.

■解答


(a) -6V

 高精度リファレンスIC(LT1236)の出力(Ref_out)は直流の10Vになります.その電圧がR3に加わります.そしてRef_outの10Vの電圧は,R1とR2の可変抵抗により分圧され,OPアンプの非反転端子に加わります.具体的には可変抵抗の調整量を表す「n=0.2」のとき,「R1=8kΩ」,「R2=2kΩ」になり,分圧した電圧は2Vになります.
 次に,LT1007とR3とR4を使った負帰還アンプは「R3=R4」なので,R3側から見るとゲインは「G=-1倍」の反転アンプ,非反転端子側から見るとゲインは「G=2倍」の非反転アンプです.先程のR3に加わる10Vを増幅した電圧をVout1とすると「Vout1=-1×10V=-10V」,非反転端子の2Vを増幅した電圧をVout2とすると「Vout2=2×2V=4V」になります.
 outの電圧をVoutとすると,重ね合わせの理より「Vout=Vout1+Vout2=-6V」になるので,(a)が正解になります.このように図1の直流電源回路は,高精度リファレンスICの出力電圧を元にして作られています.

■解説

●直流電源について
 図2は,直流電源の動作を解説するブロック図になります.電源の入力電圧は安定した電圧ではなく,直流と低周波の交流が重なった脈流のようなときがあります.このような脈流を直流電圧にするのが高精度リファレンスICになります.高精度リファレンスICの出力が直流なので,その電圧を元に次段の回路で電圧調整できます.この調整は図1の電圧調整回路が担います.また図1のOPアンプの電源は正と負の両電源であり,電圧調整回路は負の直流電圧も作ることができます.
 ここでは,高精度リファレンスIC(LT1236)の基本的な動作について確認します.その後、高精度リファレンスICを使った図1の直流電源回路について解説します.


図2 図1の動作を解説するブロック図

●高精度リファレンスICの使い方
 高精度リファレンスICの基本的な使い方について解説します.図3LT1236のデータシートにある高精度リファレンスICの標準的な接続例になります.高精度リファレンスICは,INとGND間にあるV1の電圧から直流電圧を作って出力します.「LT1236-10」の製品名の後ろにくる数字は,Ref_outの電圧が10Vであることを表しています.


図3 LT1236の基本的な使い方

●V1が変化したときのRef_outの変化
 V1が変化したときRef_outの電圧がどれくらい変化するかは,データシートの規格より分かります.具体的にはLT1236-10のデータシートにある電気的特性の「Line Regulation」の項目になります.「Line Regulation」を参照すると,次になっています.

・測定条件が「11.5V≦VIN≦14.5V」において,Ref_outの変化は「標準で1.0ppm/V,最大で4ppm/V」(VINは図3のV1に相当)

 この意味は,V1が1V変化するとRef_outの電圧は標準で1ppm変化します.具体例を挙げると,V1が12VのときRef_outの電圧が10Vとします.この状態からV1が13Vへ1V変化すると,Ref_outの電圧変化は標準で10μV(outの電圧10Vから1ppm)の変化になります.このように高精度リファレンスICは,図3のV1が変化してもoutの変化が極めて低く,直流電圧にみなせることが分かります.

●高精度リファレンスICの動作確認
 図4は,図3のシミュレーション結果になります.図4のプロットは,「.dc V1 0 40 10m」の .dcコマンドで,V1を0V~40Vまで10mVステップでスイープし,このときのRef_outの出力電圧をプロットしました.
 図4よりV1がおおよそ11V以上で高精度リファレンスICが動作を始め,それ以上の電圧では出力電圧は10Vの直流になるのが分かります.図1では,この10Vを元にして後段で電圧調整しています.


図4 図3のシミュレーション結果
高精度リファレンスICが動作を始めると,outの電圧は10Vの直流になる.

●電圧調整回路について
 次に,図1について机上計算し,解答の答え合わせをします.図1では「n=0.2」で固定していましたが,ここでは可変抵抗を広く動かすことを考えて,nの値が線形に推移した一般式で検討します.図1の高精度リファレンスICの出力(Ref_out)は,10Vの直流になります.その電圧がR3に加わります.そしてRef_outの10Vの電圧はR1とR2の可変抵抗により分圧され,OPアンプの非反転端子に加わります.
 この2つの電圧がOPアンプ(LT1007)とR3とR4からなる負帰還アンプの入力電圧になります.Ref_outの10Vは既知なので,分圧回路の出力電圧を一般式で表します.図5(a)図1の分圧回路を抜き出したもの,図5(b)図5(a)の等価回路になります.図5(a)の分圧回路にVRef-outの電圧が加わると,分圧した電圧は図5(b)のように「分圧電圧= nVRef-out」になります.


図5 分圧回路を等価回路に置き換える
(a)は図1の分圧回路で,(b)は分圧回(a)の等価回路.

 図6は,電圧調整回路を解説する等価回路です.図6は,高精度リファレンスICの電圧「VRef-out」と分圧した電圧「nVRef-out」が負帰還アンプに加わった回路になります.負帰還アンプのVout図1の出力電圧です.


図6 電圧調整回路を解説するブロック図

 図6の負帰還アンプは「R3=R4」なので,「VRef-out」の入力から見るとゲインは「G=-1倍」の反転アンプ,「nVRef-out」の入力から見るとゲインは「G=2倍」の非反転アンプになります.重ねあわせの理を使って,「VRef-out」が加わったときの出力電圧をVout1とすると式1になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 同様に,「nVRef-out」が加わったときの出力電圧をVout2とすると式2になります.

・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 Vout1とVout2を重ねる(Vout1とVout2を加算する)と,図6のVoutは式3になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式3より,可変抵抗が中間になる「n=0.5」ではVoutは0Vです.「n>0.5」になるとVoutは正の電圧を出力し,nの値で電圧調整ができます.そして「n<0.5」になるとVoutは負の電圧を出力して電圧調整ができます.図1の「n=0.2」,「VRef-out=10V」のときは,式3より「Vout=-6V」になり,解答の(a)になるのが分かります.このように図1の高精度リファレンスICを使った直流電源回路は,可変抵抗の調整で正電源と負電源の2つの極性になります.図1で使用したOPアンプ(LT1007)は,低雑音OPアンプです.これは直流電源の雑音を低く抑えるのが目的です.

●高精度リファレンスICを使った直流電源回路のシミュレーション
 ここでは,図7を使い,図1の直流電源回路の出力電圧をシミュレーションします.シミュレーションは可変抵抗の調整量のnを「.stepコマンド」で「0.001,0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,0.999」と変化させ「.opコマンド」でoutの電圧を調べます.


図7 図1をシミュレーションする回路
可変抵抗のnの値を変えて出力電圧の変化を調べる.

 図8は,図7のシミュレーション結果です.高精度リファレンスICの出力であるRef_outの電圧は10Vの直流です.そして,可変抵抗の調整量が「n=0.5」を境に,「n>0.5」で正電源,「n<0.5」で負電源になるのが分かります.「n=0.2」では解答の(a)である-6Vになります.


図8 図7のシミュレーション結果
高精度リファレンスICの出力電圧は10Vの直流になる.
nの値で出力電圧を調整でき,n>0.5で正の電圧,n<0.5で負の電圧になる.

●GND接続の注意点
 図1の高精度リファレンスIC(LT1236)に流れる電流は,データシートの「Supply Current」の規格より,標準で0.8mA,最大で1.2mAです.また出力電圧を調整する可変抵抗に流れる電流は「R1+R2=10kΩ」なので,Reg_outが10Vのときは1mAです.このときのGND配線の電流を図9に示しました.GND配線も僅かながら抵抗分があるので電圧降下が起きます.このGND配線の電圧降下の影響を軽減するには,図9のように負荷のGNDの近くで各々のGND配線を接続します.


図9 GND配線の電流
負荷のGND近くで各々のGNDを接続すると,GND配線の電圧降下の影響を軽減できる.

 以上解説したように,高精度リファレンスICは直流電源回路に用いられます.高精度リファレンスICのデータシートには,今回解説したライン・レギュレーションの他に,負荷電流が変化したときの特性を表すロード・レギュレーションや,温度が変化したときの出力電圧の変化,また長期間使用したときの出力電圧の変化等,図1のRef_outの直流電圧がどのくらい安定しているのかが記載されています.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_004.zip

●データ・ファイル内容
LT1236 Basic Connection.asc:図3の回路
LT1236 Basic Connection.plt:図3のプロットを指定するファイル
Adjusting the output voltage 1.asc:図7の回路
Adjusting the output voltage 1.plt:図7のプロットを指定するファイル

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