絶縁型ゲート・ドライバICの使い方
図1は,絶縁型ゲート・ドライバIC(ADuM4120)の使用例です.NchパワーMOSFETを使用した,降圧スイッチング電源を簡略化した回路図です.この回路で使用している絶縁型ゲート・ドライバICの説明として,正しくないのは,(a)~(d)のどれでしょうか.
NchパワーMOSFETを使用して降圧スイッチング電源を構成している.
(b) ハーフ・ブリッジ回路の,ハイサイド側MOSFETを効率的に駆動できる
(c) 安全のため,高電圧回路ブロックと低電圧回路ブロックを絶縁分離するために使用する
(d) すべての絶縁型ゲート・ドライバICは,フォト・カプラの原理を使用している
図1の絶縁型ゲート・ドライバICの使用例を見ると,正しい選択肢はどれかが分かります.
(a)の説明:高耐圧MOSFETのゲートの駆動には,10Vといった比較的高い電圧が必要です.しかし,絶縁型ゲート・ドライバICを使用すると,低い電圧のロジックICで,このようなMOSFETを駆動できます.
(b)の説明:図1のM2がハーフ・ブリッジ回路の,ハイサイド側MOSFETです.絶縁型ゲート・ドライバICはM2のゲート・ソース間の電圧を効率的にコントロールできます.
(c)の説明:絶縁型ゲート・ドライバICの入力側と出力側は,完全に絶縁されているため,高電圧回路ブロックと低電圧回路ブロックを安全に分離できます.
(d)の説明:絶縁型ゲート・ドライバICの入力側と出力側を分離する手法としては,フォト・カプラだけではなく,オン・チップ・トランス,コンデンサなどによる分離もあります.
上記説明より,(a)~(c)が正しく,誤っているのは,(d)ということになります.
●絶縁型ゲート・ドライバICの構造
絶縁型ゲート・ドライバICの主要部分は,入力バッファ回路や絶縁型信号伝達回路,出力バッファ回路で構成されています.絶縁型信号伝達の方法は,3つあります.図2は,この3つの方法により構成した絶縁型ゲート・ドライバICの主要部分のブロック図です.
図2(a)は古くから使用されている方式で,LEDを発光させ,その光をフォトダイオードで検出することで信号伝送を行います.この方式は回路構成が比較的シンプルですが,入力チップ,LED,フォト・ダイオード,出力チップと複数の半導体が必要で,消費電流も大きくなります.
そのため,最近では,図2(b)のようにコンデンサ結合で信号を伝送するものや図2(c)のようにICチップに内蔵可能な微小コイルでトランスを構成し,信号伝送を行うものが増えています.
コンデンサやトランスでは,直流情報を直接伝送することができないため,高周波信号を変調して情報を伝達する必要があります.そのため,エンコーダとデコーダの回路規模が大きくなりますが,光伝送よりも消費電流を抑えることが可能です.
絶縁型信号伝達回路には3種類の方式がある.
図3は,ADuM4120のデータシートに記載されているブロック図です.このブロック図を見ると分かるように,ADuM4120は,トランスによる絶縁型信号伝達方式を採用しています.
ADuM4120は,トランスによる絶縁型信号伝達方式を採用している.
●絶縁型ゲート・ドライバICのレベル・シフタとしての動作
図4は,絶縁型ゲート・ドライバICの,レベル・シフタとしての動作をシミュレーションするための回路です.M1は600V耐圧のパワーMOSFETです.十分なオン状態とするためには,ゲート・ソース間に10Vの電圧を印可する必要があります.
このM1を5V振幅のロジック信号でコントロールするために,絶縁型ゲート・ドライバIC(U1)を使用します.U1のVdd1端子には5Vを印可し,Vdd2には10Vを印可しています.そしてVin端子にはピーク電圧が5Vで100Hzのパルス波を入力しています.
M1は600V耐圧で10V駆動のパワーMOSFET
図5は,図4のシミュレーション結果です.U1のVin端子に5V振幅の入力信号を加えることで,U1のVout端子(M1のゲート)には10V振幅の信号が出力されています.その結果,M1がON/OFFしOut端子には,400Vの信号が出力されています.
5V振幅の入力信号を加えることで,U1のVout端子には10V振幅の信号が出力される.
●ハーフ・ブリッジ回路の,ハイサイド側MOSFETの駆動方法
図6は,図1の出力段部分を取り出したものです.入力電圧(Vin)は400Vとなっています.NchMOSFETのM1とM2が直列に接続されていますが,このような接続の回路を,ハーフ・ブリッジ回路と呼びます.
M2とM1が交互にON/OFFすることで,降圧スイッチングレギュレータとして動作します.ロー・サイド側のM1は,ゲートに10V振幅のパルス波を加えることで,ON/OFFすることができます.一方,ハイサイド側のM2をON/OFFさせるために,図6(a)のようにGND基準でゲートを駆動する場合,ゲートにはVinよりも10V高い410V振幅のパルス波を加える必要があります.
ここで,図6(b)のように,M2のソース端子基準で信号を加えることができれば,その振幅は10Vあればよいことになります.M2のソース端子基準で信号を加えるためには,Vckhという信号源は,GNDとは絶縁されている必要があります.そこで,このような場所には,絶縁型ゲート・ドライバICが使用されることになります.
(a)はM2のゲートをGND基準で駆動.(b)はM2のソース基準でゲートを駆動.
●降圧スイッチング電源を確認する
図7は,絶縁型ゲート・ドライバICを使用した,降圧スイッチング電源をシミュレーションするための回路です.入力電圧(Vin)は400Vで,Out端子の出力電圧は約40Vとなるよう,CKHとCHLのパルス幅を設定しています.
絶縁型ゲート・ドライバICのU1がローサイド側MOSFETを駆動し,U2がハイサイド側MOSFETを駆動します.U2のGND2端子はM2のソース端子に接続されています.また,U2のVdd2端子には,V2の10Vの電圧をダイオード(D1)経由で供給しています.そしてブート・ストラップ・コンデンサ(C1)をM2のソース端子とVdd2端子に接続することで,Vdd2端子にはVinよりも約10V高い電圧が発生します.
Out端子の出力電圧は約40Vとなるよう,CKHとCKLのパルス信号を設定.
図8が絶縁型ゲート・ドライバICを使用した,降圧スイッチング電源のシミュレーション結果です.Outの電圧は約40Vとなっており,降圧スイッチング電源として正しく動作していることが分かります.
出力電圧は約40Vとなっており,降圧スイッチング電源として正しく動作している.
図9は,時間軸を拡大したシミュレーション結果です.上段がU2のVdd2端子の電圧です.ブート・ストラップによって,ピーク電圧は入力電圧(Vin)よりも約10V高い,410Vになっています.
中段は,U2のVdd2とGND2間の電圧です.このグラフから,U2の2次側の電源電圧は,10Vでほほ一定の電圧となっていることが分かります.
下段のM1とM2のゲート・ソース間電圧は,どちらも10V振幅のパルスとなっており,M1,M2を正しく駆動できています.
M1とM2のゲート・ソース間電圧は,どちらも10V振幅のパルスとなっている.
以上,絶縁型ゲート・ドライバICについて解説しました.絶縁型ゲート・ドライバICの解説は,下記のページにもあります.
・絶縁型ゲート・ドライバとは何か,なぜ必要なのか,どう使うのか?
・絶縁型ゲート・ドライバの基礎
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_003.zip
●データ・ファイル内容
ADuM4120A_LVLSFT.asc:図4の回路
ADuM4120A_STPDWN.asc:図7の回路
ADuM4120A_STPDWN.plt:図9のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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