任意の出力電圧に設定できる3端子レギュレータ
図1は,電圧可変3端子レギュレータ(LT1083)の使い方を示した回路図です.図1の,R1とR2の抵抗値を変えることで,出力電圧を任意の値に設定することができます.LT1083が正常に動作しているとき,OUT端子とADJ端子の電圧差はVREFという値になります.そして,ADJ端子からはIADJという一定の電流が流れだします.図1の回路の,出力電圧(VOUT)を表す式として正しいのは,(a)~(d)のどれでしょうか.
出力電圧(VOUT)を表す式として正しいのは?
(b)
(c)
(d)
まず,OUT端子とADJ端子の電圧差がVREFであることを利用して,R1の電流を求めます.この電流から,R2に発生する電圧を求めれば,VOUTの式を導くことができます.
OUT端子とADJ端子の電圧差がVREFなので,R1に流れる電流IR1は,IR1=VREF/R1となります.R2に流れる電流はIR1とIADJを足したものなので,R2に発生する電圧VR2は「VR2=R2*(IR1+IADJ)」となります.VOUTはVR2とVREFを足したものになり,式を整理すると(a)の式になります.
●電圧可変3端子レギュレータの内部回路
図2は,LT1083の仕様書に記載されている,簡略化されたLT1083の内部回路図です.
OUT端子とADJ端子間の電圧が一定の電圧になるように動作する.
左下の部分が基準電圧回路で,PNPカレント・ミラーの働きにより,トランジスタQAとQBの電流は等しくなります.その電流値(IQ)は,QAとQBのエミッタ面積比をNとすると,式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
そのため,IQは絶対温度に比例した,正の温度係数を持ちます.
ADJ端子から出力される電流(IADJ)は式2で表され,仕様書によるとその電流値は50μAです.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
IADJは出力電流の大きさ等によって変化することはなく,常に一定の電流値になります.OUT端子とADJ端子間の電圧(VREF)は,RBに発生する電圧とQBのベース・エミッタ間電圧(VBE)を足したもので,式3で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
VREFは1.25Vとなるように,内部定数が設定されています.RBに発生する電圧は正の温度係数を持ちます.また,VBEは負の温度係数を持っているため,それぞれの温度係数が打ち消しあいます.そのため,VREFは温度が変化しても変わらず,一定の電圧になります.
OUT端子から出力される電流は,トランジスタQCが供給しますが,OUT端子とADJ端子間の電圧がVREFとなるよう,QCのベース電圧が制御されます.
●LT1038 の出力電圧設定方法
図3は,LT1038の出力電圧(VOUT)がどのように決定されるかを説明する回路図です.
LT1038は,OUT端子とADJ端子の電圧差が,常にVREFとなるように動作します.そのため,R1に流れる電流(IR1)は式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
R2に流れる電流は,IADJとIR1を足したものなので,R2に発生する電圧は式5のように計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
VOUTは,R1の電圧とR2の電圧を足したものなので,式6になります.
・・・・・(6)
式6にはIADJの項があります.ただし,IADJは50μAと非常に小さいため,R2に1kΩ以下の抵抗を使用することで,IADJによる電圧誤差を50mV以下にすることができます.そのため,式6は式7のように簡略化することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
1例としてVOUTを5Vにする抵抗値を求めてみます.式7を式8のように変形し,定数を代入すると,R2/R1=3とすれば良いことが分かります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
ここでは,24シリーズの抵抗で,抵抗比が3になるような抵抗の組み合わせとして,R1=120Ω,R2=360Ωを選択します.この定数を式7 に代入すると,式9のようにVOUTは5Vになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
●R2の抵抗値を変えたときの出力電圧を確認する
図4は,R2の抵抗値を変えたときの,LT1083の出力電圧をシミュレーションする回路です.「.stepコマンド」でR2の値を0Ωから500Ωまで変化させます.なお,抵抗値を0Ωにすると,解析エラーとなっていまうため,R2に1μΩを加算して0Ωとならないようにしています.
「.stepコマンド」でR2の値を0Ωから500Ωまで変化させる.
図5は,図4のシミュレーション結果です.R2の値に比例して出力電圧が変化しており,式9で計算したように,R2が360Ωのときに出力電圧は5Vになっています.
R2の抵抗値を変えたときの,出力電圧のシミュレーション結果.
R2の値に比例して出力電圧が変化している.
●配線抵抗の影響を受けにくい接続方法
電源回路では,出力電流が大きくなったときに,配線抵抗による電圧ドロップが問題となることがあります.LT1083を使用した電源回路において,この配線抵抗の影響を最小限におさえる抵抗の接続方法について考えてみます.
図6はLT1083を使用した,電源回路の配線抵抗による,電圧ドロップをシミュレーションする回路です.50mΩの抵抗RPAとRPBが配線抵抗で,IoutおよびBIoutが負荷として働きます.
LT1083を使用した電源回路では,(A)のように接続する必要がある.
図6の(A)と(B)は抵抗R1AとR1Bの接続場所を変えています.(A)はR1AがICの端子側に接続されており,(B)はR1Bが負荷側に接続されています.
一般的なリモート・センシングの考え方からすると,(B)の接続方法のほうが,負荷電流による負荷端(OUT-B)の電圧変化が少なくなるように思えますが,LT1083を使用した電源回路の場合は(A)の接続のほうが,負荷端(OUT-A)の電圧変化が少なくなります.
LT1083は,OUT端子とADJ端子間の電圧が一定になるように動作します.(B)の接続の場合,配線抵抗に電圧降下が発生すると,R1Bに加わる電圧が小さくなるため,R1Bの電流が少なくなり,R2Bに発生する電圧が小さくなります.すると,ADJ端子の電圧が下がり,OUT-B端子の電圧が下がってしまいます.そのため,LT1083を使用した電源回路では,(A)のように接続する必要があります.
●配線抵抗による電圧ドロップのシミュレーション結果
図7が図6のシュミレーション結果です.図6の回路で,負荷のIoutおよびBIoutの電流を0Aから5Aまで変化させ,負荷端の電圧がどのように変化するかシミュレーションします.
(B)の回路の方が,(A)の回路よりも負荷電流による電圧ドロップが大きい.
(B)の回路の方は,負荷電流が5Aのときに負荷端電圧が1V低下していますが,(A)の回路の場合は250mV低下しているだけです.また,OUT端子とADJ端子間の電圧は,(A),(B)どちらも1.25Vで一定となっています.
以上,電圧可変3端子レギュレータ(LT1083)について解説しました.電圧可変3端子レギュレータは,出力電圧を可変できるよう特別に設計されたものです.一般的な3端子レギュレータを,図1のような接続で使用しても,所望の性能は得られません.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice10_001.zip
●データ・ファイル内容
LT1083_Vout.asc:図4の回路
LT1083_PR.asc:図6の回路
LT1083_PR.plt:図7のグラフを描画するPlot settinngsファイル
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