可変抵抗の代わりに相互コンダクタンス・アンプを使う
図1は,相互コンダクタンス・アンプを使ったロー・パス・フィルタ回路です.可変抵抗の代わりにI1の電流でフィルタのコーナ周波数が調整できます.I1が10μAのとき,コーナ周波数は,(a)~(d)のどれに近いでしょうか.
コーナ周波数が最も近いのは(a)~(d)のどれ?
(a) 3kHz (b) 6kHz (c) 30kHz (d) 60kHz
Q1~Q11のトランジスタで作るアンプは,相互コンダクタンス・アンプになります.相互コンダクタンス・アンプに負帰還をかけると,入力電圧と出力電流の関係は抵抗に見え,I1を調整すると可変抵抗の代わりに使えます.この抵抗とC1で作るロー・パス・フィルタのコーナ周波数を求めます.
図1の相互コンダクタンス・アンプのgmは,Q1とQ2のコレクタ電流をIC,熱電圧をVTとすると「gm=IC/VT」になります.ここで熱電圧は常温27℃のとき「VT=26mV」,I1が10μAのとき「IC=5μA」です.相互コンダクタンス・アンプに負帰還をかけると,入力電圧と出力電流の関係は抵抗に見えます.そのときの抵抗値をReqとすると,「Req=1/gm」になります.
これにより,図1の相互コンダクタンス・アンプの抵抗は「Req=5.2kΩ」になります.次に図1のロー・パス・フィルタのコーナ周波数はReqとC1で決まるので,コーナ周波数をfcとすると「fc=1/2πReqC1」になります.「C1=1000pF」なので「fc=30.6kHz」になり,(a)~(d)の周波数の中で近いのは(c)の30kHzになります.
●相互コンダクタンス・アンプについて
図1の相互コンダクタンス・アンプは,入力になるQ1とQ2のベースに加わる差動電圧によってQ1のコレクタ電流(IC1)とQ2のコレクタ電流(IC2)に差が発生します.このときのIC1とIC2の差電流「Iout=IC1-IC2」が出力から流れるアンプになります.差動電圧の変化に対するIoutの変化率は相互コンダクタンス(gm)で表します.相互コンダクタンス(gm)はI1の電流で変わることから,図1の相互コンダクタンス・アンプのgmはI1で制御できます.
●負帰還の効果
相互コンダクタンス・アンプは,図2(a)の三角形のアンプの記号と2つの重なった円で示した電流源の記号で表します.図2(a)は相互コンダクタンス・アンプの出力と反転端子を接続した負帰還をかけています.この接続は図1と同じなので,ここでは図2(a)を使って負帰還の効果について検討します.
図2(a)の相互コンダクタンス・アンプの中身は図1のQ1~Q11の回路とすると,相互コンダクタンス(gm)は式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1のVTは熱電圧で常温27℃のとき「VT=26mV」,負帰還の効果により,反転端子と非反転端子がバーチャル・ショートの状態では,I1の電流が半分ずつQ1とQ2に流れることから,「IC=IC1=IC2=I1/2=5μA」になります.
図2(a)は相互コンダクタンス・アンプの出力と反転端子を接続しているので,Ioutの電流は式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2を変形して「電圧÷電流」の関係にすると式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式3より,「電圧÷電流」は抵抗を表すので,相互コンダクタンス・アンプに負帰還をかけると,図2(b)のように抵抗の両端の差電圧が「Vin-Vout」のとき,流れる電流がIoutになる等価抵抗「Req=1/gm」になるのが分かります.具体的な等価抵抗(Req)を求めると,式1へ「VT=26mV」と「IC=5μA」を入れ,式3の関係を使うと「Req=5.2kΩ」になります.
●コーナ周波数の机上計算
次にロー・パス・フィルタのコーナ周波数を求めます.図1のコンデンサ(C1)は図3の位置に接続されます.
コーナ周波数は式4になる.
反転端子の入力インピーダンスが高く,反転端子の電流は無視できるほど低いとすると,Ioutの電流はC1へ流れるとみなせます.このときのコーナ周波数は等価抵抗(Req)とコンデンサ(C1)より式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式4より,図3の負帰還をかけた相互コンダクタンス・アンプの等価抵抗は「Req=5.2kΩ」なので,「C1=1000pF」を使うと「fc=30.6kHz」になります.以上の検討より,解答の(c)になります. また,I1を調整すると相互コンダクタンス・アンプのgmが変わるので,ロー・パス・フィルタのコーナ周波数を調整することができます.
●周波数調整できるフィルタのシミュレーション
図4は,図1のロー・パス・フィルタの周波数特性を調べる回路になります.周波数特性はAC解析を用い「.ac oct 30 1 1meg」の指定で,1Hz~1MHz間を周波数が2倍あたり30ポイントでスイープします.
I1の電流は1μA,10μA,100μAの3種でシミュレーションする.
図1のI1は10μAでしたが,図4ではI1の電流値をItailの変数で表し,1μA,10μA,100μAの3種でコーナ周波数の変化を調べます.具体的なステップ・コマンドは,「.step param Itail list 1u 10u 100u」で,Itailを3種の電流に変えています.
図5は図4のシミュレーション結果になります.I1が10μAのときのコーナ周波数は,先ほど検討した30kHzになるのが分かります.I1が1μAのときのコーナ周波数は「Req=52kΩ」となり,「fc=3KHz」,I1が100μAのときのコーナ周波数は「Req=520Ω」となり,「fc=300KHz」になります.このようにI1により周波数特性を変えることができます.
I1が10μAのときのコーナ周波数は30kHzになる.
I1を変えると周波数特性のコーナ周波数が変わるのが分かる.
●同じI1の電流とC1のコンデンサでコーナ周波数を低くする
図1のロー・パス・フィルタのコーナ周波数を低くするには,I1を低くするか,またはC1の容量を大きくする方法があります.しかし,それ以外に相互コンダクタンス・アンプのgmを回路で低くする方法があります.ここでは図1の応用例として,同じI1の電流とC1のコンデンサを使い,図5で調べたコーナ周波数より低くする方法について解説します.具体的には,図6のR1,R2とR3,R4の分圧回路を加えることにより,等価抵抗を高くしてコーナ周波数を低くします.
図6の抵抗値の関係は「R1=R4」と「R2=R3」を用います.図6の後段にあるOPアンプはユニティ・ゲイン・バッファでIoutの電流をC1へ流し,R3とR4の分圧回路へは流れないように分離をしています.
●分圧回路を加えたロー・パス・フィルタのコーナ周波数
ここでは,図6のコーナ周波数について机上計算します.図6のR1,R2とR3,R4の分圧回路のゲインをβとし,「R1=R4」と「R2=R3」になるようにすると式5になります.式5のように設定すると,相互コンダクタンス・アンプの反転端子の電圧は「βVout」,非反転端子の電圧は「βVin」になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
相互コンダクタンス・アンプの差動電圧は「βVin -βVout」なので,Ioutは式6になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式6より,等価抵抗(Req)は式7になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
R1,R2とR3,R4の分圧回路があるときの等価抵抗の式7と,先ほど検討した等価抵抗の式3を比べると,Reqは1/β倍になります.図6の「R1=R4=100kΩ」と「R2=R3=1kΩ」を使うと,Reqは101倍の高い等価抵抗になるので,コーナ周波数は1/101倍低くすることができます.
●分圧回路を加えた回路のシミュレーション
図7は,図6の分圧回路を加えた具体的な回路になります.図7のシミュレーションの指定は,図4と同じになります.
I1とC1は図1と同じ値を用いている.
コーナ周波数は1/101倍低くなる.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice9_046.zip
●データ・ファイル内容
Frequency adjustable LPF1.asc:図4の回路
Frequency adjustable LPF1.plt:図4のプロットを指定するファイル
Frequency adjustable LPF2.asc:図7の回路
Frequency adjustable LPF2.plt:図7のプロットを指定するファイル
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