AC/DC変換のリプル率




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■問題
【 電源 】

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,V1のAC(交流)をブリッジ回路により振幅が140V,周波数が50Hzへ全波整流し,抵抗(R1)とコンデンサ(C1)のリプル・フィルタでDC(直流)に変換するAC/DC変換回路です.
 図1のコンデンサ(C1)を100μFで固定し,抵抗(R1)を1.0kΩ,1.5kΩ,1.8kΩ,2.0kΩと変えた場合,outのリプル率が最も低くなるのは,(a)~(d)のどの抵抗値でしょうか.



図1 交流から直流を作るAC/DC変換回路
リプル率が最も低いR1の抵抗はどれ?

(a) 1.0kΩ (b) 1.5kΩ (c) 1.8kΩ (d) 2.0kΩ


■ヒント

 ACからDCへの変換の効率は,リプル率で表し,リプル率が低いほど,outの直流の電圧変動が小さくなり安定します.
 図1のリプル率は,「50Hzの第2次高調波成分÷全波整流の平均値」で計算します.第2次高調波成分は,抵抗(R1)とコンデンサ(C1)の時定数に関係します.

■解答


(d) 2.0kΩ

 図1のinに表した全波整流の平均値は,リプル・フィルタの抵抗(R1)とコンデンサ(C1)に関係なく同じ電圧になります.次にリプル・フィルタの時定数は,抵抗(R1)とコンデンサ(C1)の積であり,「R1C1」になります.リプル・フィルタは時定数が低いとoutの直流が時間と共にわずかかに変化して第2次高調波成分が生まれ,リプル率は高くなります.逆に時定数が高いと第2次高調波成分は低くなり,リプル率は低くなるのでoutの直流は安定します.
 この関係より,C1が固定のときはR1を高くするとリプル率は低くなるので,R1が最も高い(d)の2kΩの場合,リプル率が最も低くなります.

■解説

●AC/DC変換の効率を表す指標としてリプル率を用いる
 オーディオ回路を安定に動作させるには,回路を動かす直流電圧が安定していることが求められます.直流電圧が安定すると,回路のバイアス電圧の変動が低くなります.直流電圧の変動は外来雑音のように見えることから,直流電圧が安定すると回路が安定することになります.AC/DC変換の回路例として,図1に示したブリッジ・ダイオードを使った全波整流回路とリプル・フィルタを組み合わせた回路がよく用いられます.このようなAC/DC変換回路の効率を表す指標としてリプル率が使われます.

●リプル率の定義
 リプル率は,ACからDCに変換したoutの波形の第2次高調波成分と,全波整流波形の平均値の比で表し,具体的には式1になります. 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 全波整流の平均値は,直流成分なので,直流成分に第2次高調波成分がどれくらいあるかを表しています.図1の例では,50HzのACを全波整流してDCに変換する回路なので,リプル率は50Hzの2倍の高調波になる100Hzの高調波成分と全波整流の平均値の比になります.

●回路定数から求めるリプル率の机上計算
 ここでは,図1の回路定数を使い,AC/DC変換のリプル率について机上計算します.図1において,outの電圧が時間と共にわずかに変動する波形のとき,outの波形のフーリエ級数は式2になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 式2中の右辺第一項「2Vm/π」は全波整流回路の平均値,右辺第二項は偶数次項(n=2次,4次,6次…)の高調波成分からなります.式2の右辺第一項である全波整流の平均値は,全波整流の振幅(Vm)から計算できます.図1の全波整流の振幅は「Vm=140V」なので式3になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 次に,式1のリプル率は50Hzの2倍の高調波(n=2)になる100Hzの高調波成分を使います.cos関数の最大値は1であることより,式2の右辺第二項の2次高調波成分は式4になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 式4を実効値のRMSに変換すると式5になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 式5の電圧と抵抗(R1)による電流は式6になり,コンデンサ(C1)へ流れます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 式6の100Hzの電流は,コンデンサ(C1)のリアクタンスにより,リプル電圧になり式7になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 ここでのコンデンサ(C1)のリアクタンスの周波数は100Hzなので,「1/2ωC1」になります.
 式1へ式3の全波整流の平均値と,式7の第2次高調波成分を代入してリプル率を求めると式8になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 式8を整理すると,リプル率は式9になります.このようにリプル率は50Hzの角周波数(ω)とコンデンサ(C1)と抵抗(R1)で求めることができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

 表1は,式9を使いコンデンサ(C1)を100μFで固定して,抵抗(R1)を1.0kΩ,1.5kΩ,1.8kΩ,2.0kΩとしたときのリプル率になります.表1より抵抗(R1)が高くなるとリプル率は低くなり,図1のoutの直流は安定します.

表1 R1とC1を使って計算したリプル率

●リプル率のシミュレーション
 図2は,図1の4つの抵抗のリプル率をシミュレーションで求める回路になります.図2ではドット・コマンド「.tran 0 10 0 100u」で,0秒から10秒までを100μsの間隔でtran解析し,outの波形を観測します.その後ドット・コマンド「.four 50Hz V(out)」でフーリエ変換して第2次高調波成分を求め,リプル率を求めます.「.options plotwinsize=0」は,シミュレーションのデータ圧縮をOFFにする指定で,フーリエ変換の精度が悪化しないようにしています.4つの抵抗は「.step param Res list 1k 1.5k 1.8k 2k」のステップ・コマンドにより抵抗値を変化させています.


図2 図1をシミュレーションする回路
outの第2次高調波をフーリエ変換で調べ、リプル率を調べる.

 図3は,図2のシミュレーション結果で,全波整流の波形V(in)とoutの波形V(out)になります.抵抗(R1)が高くなるほどoutの波形の振幅が低くなる様子が分かります.


図3 図2のシミュレーション結果
全波整流した波形をリプル・フィルタで平滑したプロット.

●第2次高調波成分からリプル率を求める
 次に,図3の4つの抵抗におけるV(out)についてフーリエ変換を実行後,第2次高調波成分を抜き出したものが以下の表2表5になります.第2次高調波成分は「Harmonic Number」の「2」で示されており,具体的な第2次高調波成分は赤字で示しました.フーリエ変換の結果はログ・ファイル中にあり,回路図上で「Ctrl+L」(コントロール・キーとLを同時押し)で確認できます.

表2 R1=1kΩ,C1=100μFのoutのフーリエ変換結果


表3 R1=1.5kΩ,C1=100μFのoutのフーリエ変換結果


表4 R1=1.8kΩ,C1=100μFのoutのフーリエ変換結果


表5 R1=2.0kΩ,C1=100μFのoutのフーリエ変換結果


 表2表5の第2次高調波成分と,式3の全波整流の平均値を使い,リプル率を求めたものが表6になります.先程の表1に示した回路定数から求めたリプル率と,シミュレーションで求めた表6のリプル率はおおよそ同じになるのが分かります.

表6 第2次高調波成分と全波整流の平均値から求めたリプル率


 以上の解説のように,図1のAC/DC変換回路のリプル率は,式5に示した角周波数(ω)とコンデンサ(C1)と抵抗(R1)から求めることができます.リプル率を低くするにはリプル・フィルタの時定数を大きくすることでoutの直流は理想に近づいていきます.


◆参考文献
(1) 低雑音電子回路の設計 東大教授 斎藤正男監訳 近代科学社


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice9_043.zip

●データ・ファイル内容
AC DC comverter.asc:図2の回路
AC DC comverter.plt:図2のプロットを指定するファイル

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