共通インピーダンス・ノイズによる干渉を差動アンプで低減
図1は,差動アンプ1(ゲイン2倍)と差動アンプ2(ゲイン1倍)で増幅する差動アンプです.V1の入力信号をout2から出力します.
図1のI1とI2の電流源は,他の回路から流れ込むGND電流を再現しています.I1とI2の電流は,GNDの配線抵抗R9とR10により電圧降下を発生し,共通インピーダンス・ノイズになり,out1とout2に干渉することがあります.
図1において,共通インピーダンス・ノイズがあるとき,out2の波形として正しいのは,図2の(a)~(d)のどれになるでしょうか.
V1は直流が0V,時間が20ms後の振幅が50mV,周波数が100Hzの信号.
配線抵抗のR9とR10の電圧降下は共通インピーダンス・ノイズとなる.
図1のout2の波形として正しいのは(a)~(d)のどれでしょうか.
(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形
R9の電圧降下(10mV)は差動アンプ1,R10の電圧降下(100mV)は差動アンプ2に干渉することがあります.差動アンプ1のout1がどのようになるのかを検討します.そのout1が差動アンプ2を通りout2ではどうなるかを検討します.
差動アンプ1の入力に加わる差動信号は「V1」になり,R9で発生する電圧降下の共通インピーダンス・ノイズは同相信号になります.差動アンプは,差動信号を増幅し同相信号を増幅しません.この関係より差動アンプ1のゲインは2倍なので,out1は「Vout1=2V1」になります.
次に,R10で発生する電圧降下の共通インピーダンス・ノイズをV10とすると,差動アンプ2の入力に加わる差動信号は,Vout1とV10より「2V1-V10」になります.差動アンプ2のゲインは1倍であること,そしてR5とR8の接続点には共通インピーダンス・ノイズのV10が加わるので,out2は「Vout2=2V1-V10+V10=2V1」になります.
Vout2の式にV1を入れます.図1のV1は直流が0V,時間が20ms後は振幅が50mV,周波数100Hzです.よってout2の波形は,直流が0V,時間が20ms後は振幅が100mV,周波数が100Hzになり,(d)の波形が正解になります.
図1のR9とR10の配線抵抗が0Ωの理想の状態において,out2に期待する波形は(d)になります.これより,図1の差動アンプ1と差動アンプ2の接続例では,共通インピーダンス・ノイズによる干渉を低減し,配線抵抗が0Ωの理想状態に近い波形になります.
●差動アンプは共通インピーダンス・ノイズによる干渉を低減できる
回路単体で問題なく動作する回路を作成しても,それらを他の回路と組み合わせると,期待した特性から外れることがあります.この原因としてGNDの共通インピーダンスがあります.
GNDの共通インピーダンスとは,各回路の共通のGND配線にあるインピーダンスのことで,図1ではR9の1Ω,R10の5Ωになります.この共通インピーダンスはGNDの電流により電圧降下を発生させるので,回路間の干渉の原因になります.
共通インピーダンスによる電圧降下は,共通インピーダンス・ノイズと呼ばれ,差動アンプから見ると同相信号のコモン・モード・ノイズになります.差動アンプの特性として,差動信号は増幅し,同相信号は増幅しない利点があります.この特性を使うと回路間の干渉を低減することができます.
●差動アンプについて
最初に,図1で使用している差動アンプについて解説します.図3(a)はOPアンプを使った差動アンプの回路,図3(b)は電圧制御電圧源を使った差動アンプの等価回路になります.
(a) ゲインが2倍の差動アンプ,(b) 電圧制御電圧源を使ったゲインが2倍の等価回路.
図3(a)は,図1の差動アンプ1を抜き出した回路です.図3(a)の差動アンプは,in+とin-の2つの入力,outが出力,refがoutの直流電圧を調整します.差動アンプは,in+とin-の差動信号「Vin+-Vin-」を増幅し,in+とin-に同時に加わる同じ電圧の同相信号は増幅しません.差動アンプのゲインは「R1=R3」,「R2=R4」のとき「G=R2/R1」になります.図3(a)では「R1=10kΩ」,「R2=20kΩ」なので,ゲインは「G=2」になります.refに直流電圧を加えると,その加えた電圧がoutの直流電圧になります.これらの関係を使って差動アンプの入出力特性を表すと,式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
図3(b)は,式1の差動アンプの動作を,電圧制御電圧源を使った等価回路で表したものになります.電圧制御電圧源も,in+とin-の差動信号を増幅し,同相信号は増幅しません.ゲインは,電圧制御電圧源で指定し,ここでは2倍にしています.ref端子に直流電圧を加えるとoutの直流電圧が変わります.以降では図3(b)の等価回路を使い,回路をシンプルにして解説していきます.
●共通インピーダンス・ノイズによる干渉の4例
図2では,共通インピーダンスによる干渉の波形として(a)~(d)の4例を示しました.共通インピーダンス・ノイズの発生源となるR9とR10の配線抵抗が0Ωの理想の状態では,out2に期待する波形は(d)になります.以降では,この4例になる差動アンプの接続例1~接続例4について,共通インピーダンス・ノイズの干渉を解説し,この解説の中で解答の答え合わせを行います.
▼(a)の波形の接続例1
図4は,差動アンプの等価回路を使った,(a)の波形の接続例1になります.図4のE1を使った等価回路が図1のゲインが2倍の差動アンプ1,図4のE2を使った等価回路が図1のゲインが1倍の差動アンプ2になります.
R9とR10で発生する共通インピーダンス・ノイズの電圧降下は,V9とV10の電圧源で表しています.図1と図4の配線で違うところは,赤でハイライトしたE1とE2の反転入力端子(-端子)がGNDに繋がっている配線になります.
図4より,E1の差動信号は共通インピーダンス・ノイズのV9を含んだ「V1+V9」になります.E1のゲインは2倍なので,out1は「2(V1+V9)」になります.次に,E2の入力はout1になります.E2のゲインは1倍であること,そしてref2には共通インピーダンス・ノイズのV10が加わるので,out2は式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2より,接続例1は,共通インピーダンス・ノイズのV9とV10の両方の干渉があります.
V1の直流は0V,時間が20ms後は振幅が50mV,周波数が100Hzです.V9の電圧降下は10mV,V10の電圧降下は100mVです.これを式2へ入れると,out2の波形は直流が120mV,時間が20ms後は振幅が100mVになります.
図5は,図4で示した接続例1について,具体的にシミュレーションする回路です.図1との違いは,図5の赤でハイライトした配線です.このシミュレーションでout2の波形を確認します.
図1との違いは赤でハイライトした配線.
図6は,図5のシミュレーション結果になります.式2で検討したように,out2の波形は直流が120mV,時間が20ms後は振幅が100mVになります.このように接続例1は,共通インピーダンス・ノイズのV9とV10の両方が干渉した波形になるのが確認でき,図2の(a)と同じ波形になります.
図2の(a)と同じ波形になる.
▼(b)の波形の接続例2
図7は,差動アンプの等価回路を使った,(b)の波形の接続例2になります.2つの差動アンプの等価回路E1とE2,2つの共通インピーダンス・ノイズの電圧降下であるV9とV10は図4と同じです.図1と図7の配線で違うところは,図7の赤でハイライトしたE2の反転入力端子(-端子)がGNDに繋がっている配線になります.
図7より,E1の差動信号は「V1」になります.共通インピーダンス・ノイズのV9は同相信号になるので増幅しません.これよりout1は「2V1」になります.次に,E2の入力はout1になります.E2のゲインは1倍であること,そしてref2には共通インピーダンス・ノイズのV10が加わるので,out2は式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式3より,接続例2は,共通インピーダンス・ノイズV10の干渉があります.
V1の直流は0V,時間が20ms後は振幅が50mV,周波数が100Hzです.V10の電圧降下は100mVです.これを式3へ入れると,out2の波形は直流が100mV,時間が20ms後は振幅が100mVになります.
図8は,図7で示した接続例2について,具体的にシミュレーションする回路です.図1との違いは,図8の赤でハイライトした配線です.このシミュレーションでout2の波形を確認します.
図1との違いは赤でハイライトした配線.
図9は,図8のシミュレーション結果になります.式3で検討したように,out2の波形は直流が100mV,時間が20ms後は振幅が100mVになります.このように接続例2は,共通インピーダンス・ノイズのV10が干渉した波形になるのが確認でき,図2の(b)と同じ波形になります.
図2の(b)と同じ波形になる.
▼(c)の波形の接続例3
図10は,差動アンプの等価回路を使った,(c)の波形の接続例3になります.2つの差動アンプの等価回路E1とE2,2つの共通インピーダンス・ノイズの電圧降下であるV9とV10は図4と同じです.図1と図10の配線で違うところは,赤でハイライトしたE1の反転入力端子(-端子)がGNDに繋がっている配線になります.
図10より,E1の差動信号は共通インピーダンス・ノイズのV9を含んだ「V1+V9」になります.E2のゲインは2倍なので,out1は「2(V1+V9)」になります.次に,E2の入力はout1から共通インピーダンス・ノイズのV10を減じたものなので「2(V1+V9)-V10」になります.E2のゲインは1倍であること,そしてref2には共通インピーダンス・ノイズのV10が加わるので,out2は式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式4より,接続例3は,共通インピーダンス・ノイズV9の干渉があります.
V1の直流は0V,時間が20ms後は振幅が50mV,周波数が100Hzです.V9の電圧降下は10mVです.これを式4へ入れると,out2の波形は直流が20mV,時間が20ms後は振幅が100mVになります.
図11は,図10で示した接続例3について,具体的にシミュレーションする回路です.図1との違いは,図11の赤でハイライトした配線です.このシミュレーションでout2の波形を確認します.
図1との違いは赤でハイライトした配線.
図12は,図11のシミュレーション結果になります.式4で検討したように,out2の波形は,直流が20mV,時間が20ms後は振幅が100mVになります.このように接続例3は,共通インピーダンス・ノイズのV9が干渉した波形になるのが確認でき,図2の(c)と同じ波形になります.
図2の(c)と同じ波形になる.
▼(d)の波形の接続例4
(d)の波形の接続例4を用いて,図1の答え合わせをします.図13は差動アンプの等価回路を使った接続例4で,図1の回路になります.2つの差動アンプの等価回路E1とE2,2つの共通インピーダンス・ノイズの電圧降下であるV9とV10は図4と同じです.
図13より,E1の差動信号は「V1」になります.共通インピーダンス・ノイズのV9は同相信号になるので増幅しません.これよりout1は「2V1」になります.次に,E2の入力はout1から共通インピーダンス・ノイズのV10を減じたものなので「2V1-V10」になります. E2のゲインは1倍であること,そしてref2には共通インピーダンス・ノイズのV10が加わるので,out2は式5になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式5より,接続例4は共通インピーダンス・ノイズの干渉を最も低減したものになります.
V1の直流は0V,時間が20ms後は振幅が50mV,周波数が100Hzです.V10の電圧降下は100mVです.これを式5へ入れると,out2の波形は直流が0V,時間が20ms後は振幅が100mVになります.以上より,図1の解答は(d)の波形になります.
図14は,図13で示した接続例4について,具体的にシミュレーションする回路で,図1と同じ回路になります.このシミュレーションでout2の波形を確認します.
回路の配線は図1と同じ.
図15は,図14のシミュレーション結果になります.式5で検討したように,out2の波形は直流が0V,時間が20ms後は振幅が100mVになり,解答の(d)の波形になるのが確認できます.このように接続例4は,共通インピーダンス・ノイズのV9とV10の干渉を最も低減した回路例になり,図2の(d)と同じ波形になります.
図2の(d)と同じ波形になる.
以上解説したように,差動アンプを使った回路では,共通インピーダンス・ノイズによる干渉を低減できる接続があります.実際の差動アンプは同相信号を僅かに増幅して出力へ伝えるため,完全に共通インピーダンス・ノイズの干渉を無くす事はできません.しかし差動アンプを使うと今回の例のように干渉を低減できます.共通インピーダンスが回路のどこにあるかは基板の配線によって変わります.差動アンプを使って干渉を低減する検討には,差動アンプを等価回路で表して進めると分かりやすくなります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice9_040.zip
●データ・ファイル内容
a_circuit.asc:図5の回路
a_circuit.plt:図5のプロットを指定するファイル
b_circuit.asc:図8の回路
b_circuit.plt:図8のプロットを指定するファイル
c_circuit.asc:図11の回路
c_circuit.plt:図11のプロットを指定するファイル
d_circuit.asc:図14の回路
d_circuit.plt:図14のプロットを指定するファイル
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