おおよその雑音を知りたいときの計算方法
図1は,オーディオ周波数帯(約28Hz~49kHz間)の信号を増幅する回路です.図2は,図1のoutの雑音の周波数特性です.図2から,図1のoutの広帯域雑音(10Hz~10MHz)は,概算で(a)~(d)のどれになるでしょうか.
LTspiceのEducationalフォルダ(\LTspiceXVII\examples\Educational)にあるMeasureBW.asc
抵抗やコンデンサの回路定数の一部はオリジナルから修正している.
10Hz~10MHz間の広帯域雑音の概算は(a)~(d)のどれでしょうか.
(a)58μVrms (b)82μVrms (c)116μVrms (d)164μVrms
図1のoutの雑音は,オーディオ周波数帯以外にもあるので,ここでは10Hz~10MHz間の広帯域雑音を調べます.
図2の領域は,広帯域雑音の10Hz~10MHz間を領域1(28Hz以下),領域2(28Hz~49kHz間),領域3(49kHz以上)としています.
outの雑音の実効値は,青のプロットの内側の面積なので,10Hz~10MHz間の広帯域雑音の実効値は,領域1,領域2,領域3の面積のトータルより概算できます.
領域の面積の求め方は次になります.
・領域2の雑音の最大値は,185nVrms/√Hz
・領域3の雑音は,周波数が2倍高くなると1/2倍減少(6dB/octで減少)
雑音の計算は2乗平均値を使います.これより,図2の最大値は「(185nV/√Hz)2」になり,領域の面積の概算は次になります.なお,計算を簡単にするため,10Hz~10MHzの広帯域雑音を0Hz~∞の広帯域雑音とします.
・領域2は,四角形で表し,1辺が「(185nV/√Hz)2」,もう1辺がfHからfLを減じたバンド幅を使って面積を求める
・領域3の6dB/octは,2乗平均値にすると12dB/octになり,fH~∞間でこの変化を持つ曲線の面積を求める
図2の領域1の2乗平均値の面積は「vn2*fL/2」になります.領域2の最大値をvn,バンド幅を「BW=fH-fL」とすると,領域2の2乗平均値の面積は「vn2*BW」になります.領域1と同じように,領域3の2乗平均値の面積は「vn2*fH/1」になります.
これら3つを加えて2乗平均平方根すると,「Vonoise= (vn2 (BW+fL/2+fH))1/2」になります.この式に「vn2=(185nV/√Hz)2」,「BW=48972Hz」,「fL=28Hz」,「fH=49kHz」を入れると「Vonoise=58μVrms」になり,正解は(a)の58μVrmsになります.
●フィルタ特性を持つ回路の雑音計算に便利
広帯域雑音の概算は,フィルタ特性を持つオーディオ回路などの雑音計算に便利です.例えば,低域周波数,中域周波数,高域周波数などを選択的に増幅/減衰させるイコライザがあります.また,可聴周波数の低域側をカットして信号を増幅する高域通過フィルタを内蔵したアンプや,その逆の低域通過フィルタを内蔵したアンプもあります.さらに,今回の図1のように直流信号をC1のコンデンサで通過させずに交流分のみ増幅したい回路です.
このような回路の雑音計算は大変ですが,図1に示した「雑音が平坦になるところの最大値」と「コーナ周波数」と「コーナ周波数前またはコーナ周波数後の雑音の増加率あるいは減少率」の3つが分かると概算ができます.
●広帯域雑音の概算の考え方
図2の周波数特性は,曲線部分もあるので,まず,分かりやすい概算の例として図3(a)の2次帯域通過フィルタで解説します.図3(a)は,R1とC1からなる1次低域通過フィルタと,C2とG1の理想抵抗からなる1次高域通過フィルタを縦続接続した2次帯域通過フィルタになります.
図3(b)は,図3(a)のブロック図です.図3(a)のG1の理想抵抗は雑音を発生しない1kΩの抵抗なので,図3(b)に示すようにoutの雑音は,R1の熱雑音が2次帯域通過フィルタを通過した雑音になります.同じく図3(b)より,2次帯域通過フィルタの低周波側の増加率と高周波側の減少率は,1次低域通過フィルタと1次高域通過フィルタの特性になるので,どちらも6dB/octになります.
図4は,図3(a)のoutの雑音の周波数特性になります.Y軸は雑音計算するためにVonoise2(f)の2乗平均値で示し,最大値はvn2で表します.
fLは2次帯域通過フィルタの低域側のコーナ周波数です.コーナ周波数より低域側の領域では,周波数が2倍あたりVonoise2(f)はN1dBで増加します.そしてfHは2次帯域通過フィルタの高域側のコーナ周波数です.コーナ周波数より高域側は,周波数が2倍あたりVonoise2(f)はN2dBで減少します.図3(b)に示した2次帯域通過フィルタの低周波側の増加率と高周波側の減少率は共に6dB/octなので,Vonoise(f)も同じように変化します.N1とN2は2乗平均値の変化なので,Vonoise(f)が6dB/octのときは2乗平均値のVonoise2(f)は12dB/octになります.広帯域雑音は,領域1と領域2と領域3の面積を加えて2乗平均平方根した値がoutの実効値の概算になります.
●広帯域雑音の概算
ここでは図4の領域1,領域2,領域3の3つを使い,広帯域雑音の概算をする一般式を検討します.
▼領域1の概算
領域1は0Hz~fLまでの面積です.概算するためfLの2乗平均雑音をvn2とすると,fLより低域側の周波数特性は式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1の周波数特性で0Hz~fLまでの内側の面積を求めると式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
▼領域2の概算
領域1はfL~fH間の面積です.バンド幅を「BW=fH- fL」とし,バンド幅内の雑音は周波数に関係なく一定とすると式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式3を使ってバンド幅の内側の面積を求めると式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
▼領域3の概算
領域3はfH~∞までの面積です.概算するためfHの2乗平均雑音をvn2とすると,fHより高域側の周波数特性は式5になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式5の周波数特性でfH~∞までの内側の面積を求めると式6になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
▼広帯域雑音の概算
最後に式2,式4,式6を加えて2乗平均平方根にすると式7になります.図4中に示した「vn2=0.00414fV2/Hz」,「fL=8Hz」,「fH=32kHz」,「N1=N2=12」を入れると「Vonoise=515nVrms」の概算になります.
・・・・・・・・・・・(7)
●広帯域雑音をシミュレーションする
図3(a)の広帯域雑音をシミュレーションした結果と,式7の概算の比較を行います.図3(a)には雑音をシミュレーションする.noiseコマンドと,.measコマンドがあります.これらのコマンドは,「.noise V(out) V1 oct 30 0.1 10Meg」のコマンドで,0.1Hz~10MHz間の雑音の周波数特性を調べます.調べた雑音の周波数特性より「.meas Vno INTEG V(onoise)」のコマンドで積分し,0.1Hz~10MHz間の雑音の実効値を測定します.測定結果は変数Vnoに入ります..measの結果はシミュレーション後のログ・ファイル中に記録されます.
図5は図3(a)のシミュレーション後のログ・ファイルになります.0.1Hz~10MHz間の雑音の実効値は455nVrmsになり,式7の概算に近い値になります.
10Hz~10MHz間の雑音は455nVrmsになる.
●図1の広帯域雑音の概算とシミュレーション
最後に,図1の広帯域雑音の概算とシミュレーションの比較を行います.式8は先ほど検討した式7の広帯域雑音の概算の一般式に,図2に示した「fL=28Hz」,「fH=49kHz」と,2乗平均で表した「vn2=(185nV/√Hz)2」「N1=6」,「N2=12」を入れた結果になります.式8より「Vonoise=58μVrms」の概算になり,回答の(a)が正解になるのが分かります.
・・・・・・・・・・・(8)
図6は,図1のシミュレーション回路で「.noiseコマンド」で10Hz~10MHz間のノイズ解析を行い,調べた雑音の周波数特性より10Hz~10MHz間の雑音の実効値を測定します.
図7は,図6のシミュレーション後のログ・ファイルのスクリーン・ショットになります.10Hz~10MHz間の雑音の実効値は51μVrmsになり,式8の概算に近い値になります.
10Hz~10MHz間の雑音は51μVrmsになる.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice9_034.zip
●データ・ファイル内容
wideband noise.asc:図3(a)の回路
wideband noise.plt:図3(a)のプロットを指定するファイル
CE noise.asc:図6の回路
CE noise.plt:図6のプロットを指定するファイル
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