OPアンプの1/f雑音を調べてデータシートと比較
図1は,OPアンプを使った,ユニティ・ゲイン・バッファ(出力と入力が等しくなる回路)で,低周波で高く発生するOPアンプの1/f雑音(ノイズ)を調べる回路です.図2は,図1のoutの1/f雑音をプロットした図です.図2の1Hzにおける単位周波数あたりのVonoiseは139nV/√Hzになります.
図2の1/f雑音の場合,0.1Hz~10Hz間の雑音は(a)~(d)のどれでしょうか.ただし,Vp-pの単位はピーク・ツー・ピークで,雑音の最大値のピークと最小値のピークの差を表します.
0.1Hz~10Hz間の雑音は(a)~(d)のどれでしょうか.
雑音の実効値は,青線のプロットの内側(水色部分)の面積.
(a)0.3μVp-p (b)0.9μVp-p (c)1.8μVp-p (d)5.4μVp-p
まず,図2のX軸の周波数のプロットから雑音の実効値(青線のプロットの内側の面積)を求めます.次に雑音の実効値とピーク・ツー・ピーク(最大値と最小値の差)の関係を使って,時間軸における雑音電圧のピーク・ツー・ピークを求めます.
図2の0.1Hz~10Hz間の雑音の実効値は,図2の青のプロットの内側(水色部分)の面積になります.この面積は,青のプロットの1/f雑音の周波数特性を積分すると求めることができ「Vonoise=(K*ln(fH/fL))1/2」になります.ここで,Kは1/f雑音の係数で,図2より「K=139nVrms2」になります.そしてfLが「fL=0.1Hz」,fHが「fH=10Hz」です.この3つを使うと「Vonoise=298nVrms」になります.Vonoiseの単位は,実効値のVrmsであり,その6倍がピーク・ツー・ピークになります.これより「6*298nVrms=1.8μVp-p」になり,(c)が正解になります.
●オーディオ信号は1/f雑音の検討が必要
1/f雑音の呼び方はいろいろあります.低周波で「ちらつく」ことからフリッカ雑音また,雑音の種類を色で表すノイズ・カラーではピンク雑音,低周波で観測される雑音なので低周波雑音とも呼ばれます.どれも同じ雑音のことですが,ここでは「1/f雑音」を使います.1/f雑音の名の由来は,outの雑音電圧をVonoiseとすると,図3のようにVonoise2が周波数(f)に反比例する周波数特性からきています.
Vonoise2は周波数に反比例する特性になる.
1/f雑音は周波数が低くなるほど雑音が高くなり,低周波帯の雑音は1/f雑音で決まります.一方,高周波帯の場合,1/f雑音のコーナ周波数より高い周波数では,熱雑音等で決まることになります.オーディオ信号は低周波帯の信号を含むので,1/f雑音の検討が必要になります.
●雑音のピーク・ツー・ピークは実効値の6倍
図4は,雑音の波形と正規分布の関係になります.図4(a)は雑音の波形,図4(b)は正規分布です.1/f雑音や抵抗の熱雑音,電流のショット雑音の振幅や位相は,図4(a)のように不規則で,ある時間での振幅の予想はできません.
(a) 雑音の波形:振幅や位相は不規則になる.
(b) 正規分布:1σが雑音の実効値になり,ピーク・ツー・ピークは±3σになる.
しかし,雑音の瞬時値を長時間観測すると,図4(b)のように正規分布することが分かっています.雑音の実効値は,正規分布の1σ(シグマ)になります.ここで雑音の実効値はVonoiseの2乗平均平方根で,単位がVrms,σが正規分布の標準偏差です.図4(b)の正規分布は,±3σ以内に99.7%の雑音が入ることになるので,ピーク・ツー・ピークは雑音の実効値の6倍になり,単位はVp-pで表します.
●雑音の計算
ここでは,1/f雑音の机上計算をして答え合わせをします.机上計算は,最初に1/f雑音の周波数特性を式で表します.次に0.1Hz~10Hz間の雑音の実効値を求めます.最後に図4の雑音の波形と正規分布の関係より,雑音のピーク・ツー・ピークを求めます.
▼1/f雑音の周波数特性を式で表す
先程の図3で表した1/f雑音の周波数特性は,「Vonoise2は周波数(f)に反比例する周波数特性」です.この周波数特性は式1になります.式1中のKは1/f雑音の係数になり,デバイスや回路で変わります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1の係数Kは,図2のプロット中に示した「1Hzのとき139nVrms」から求めることができます.具体的には,式1の平方根をとってVonoiseにし,「1Hzのとき139nVrms」を使うと,式2の関係になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2の関係より,式1の係数Kは式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
▼雑音の実効値を求める
0.1Hz~10Hz間のVonoiseの実効値を求めるため,式1のVonoise2を積分して面積を計算します.式1を積分すると式4になります.ここでfL=0.1Hz,fH=10Hzになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式4の平方根をとってVonoiseに整理し,式3のKの値を代入すると,式5になります.式5より,0.1Hz~10Hz間の雑音の実効値は298nVrmsになります.
・・・・・・・・・・・(5)
▼雑音のピーク・ツー・ピークを求める
最後に,図4の雑音の波形と正規分布の関係よりピーク・ツー・ピークを求めると,式6になります.式6より,0.1Hz~10Hz間の雑音のピーク・ツー・ピークは,解答の「(c)1.8μVp-p」になるのが分かります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
●雑音をシミュレーションする
図5は,図1と同じ回路ですが,雑音をシミュレーションする「.noiseコマンド」と「measコマンド」を加えました.具体的には,「.noise V(out) V1 oct 30 0.1 10」のコマンドで,0.1Hz~10Hz間の雑音の周波数特性を調べます.調べた雑音の周波数特性より,「.meas NOISE Vn_1Hz FIND V(onoise) AT 1」で1HzのときのVonoiseを確認します.測定結果は変数Vn_1Hzに入ります.そして「.meas Vno INTEG V(onoise)」のコマンドで積分し,0.1Hz~10Hz間の雑音の実効値を測定します.測定結果は変数Vnoに入ります.「.measコマンド」の結果はシミュレーション後のログ・ファイル中に記録されます.
図6は,図5のシミュレーション後のログ・ファイルのスクリーン・ショットになります.「.measコマンド」の測定結果はここで確認できます.1HzのときのVonoiseは139nVrms/√Hzで図2の1Hzのときの雑音であるのが確認できます.そして0.1Hz~10Hz間の雑音の実効値は299nVrmsになり,式5とほぼ同じになります.雑音の時間軸での変化はシミュレーションできません.そこで,ピーク・ツー・ピークは,以降に示すデータシートの規格値とプロットで比較します.
0.1Hz~10Hz間の雑音は299Vrmsになる.
●データシートとの比較
図1のOPアンプは,AD8691を使用しています.図7はアナログ・デバイセズ社のWebサイトから引用したAD8691のデータシートで「NOISE PERFORMANCE(雑音特性)」を抜き出しました.図7のデータシートは入力換算した雑音になります.図1の回路はoutの雑音(Vonoise)を測定していますが,ユニティ・ゲイン・バッファのゲインは1(入力と出力が同じ)なので,低周波のoutの雑音は,入力換算した雑音と等しいので,データシートと比較ができます.
式6で机上計算した0.1Hz~10Hz間の雑音のピーク・ツー・ピークは1.8μVp-pです.この机上計算に相当するのが,図7の「Voltage Noise」の項目になります.図7の「Voltage Noise」のtyp(標準)のときの雑音の実効値は1.6μVp-pであり,机上計算とほぼ等しいのが分かります.
図8は,AD8691のデータシートにある0.1Hz~10Hzでの入力電圧ノイズの波形の引用になります.図8のX軸は時間で1秒/DIVのスケール,Y軸は入力電圧ノイズで1μV/DIVのスケールになります.図8には式5で机上計算した雑音の実効値の298nVrmsと,式6で机上計算したピーク・ツー・ピークの1.8μVp-pを加えました.このように入力電圧ノイズの波形は,図4に示した雑音の波形と正規分布の関係のとおりピーク・ツー・ピークの電圧は1.8μVp-pに近いことが分かります.
◆参考・引用*文献
(1)AD8691のデータシートの「NOISE PERFORMANCE」(4/12)
(2)AD8691のデータシートの0.1Hz~10Hzでの入力電圧ノイズの波形(9/12)
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice9_032.zip
●データ・ファイル内容
Noise_AD8691.asc:図5の回路
Noise_AD8691.plt:図5のプロットを指定するファイル
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