オーディオ用2ウェイ・スピーカの構成方法




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■問題
【 スピーカ 】

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1の(a)~(d)は,オーディオ用2ウェイ・スピーカのネットワーク回路です.使用するスピーカは,定格インピーダンスが,それぞれ8Ωのウーファ(Woofer:WF)とツイータ(Tweeter:TW)です.この回路の目的は,パワー・アンプの出力に含まれる,3kHz以上の音をTWから出力し,3kHz以下の音をWFから出力することです.図1の(a)~(d)の中で,所望の特性が得られるのはどれでしょうか.


図1 オーディオ用2ウェイ・スピーカのネットワーク回路
所望の特性が得られるのはどれ?

(a)の回路 (b)の回路 (c)の回路 (d)の回路

■ヒント

 スピーカ・ネットワーク回路は,フィルタとして動作します.スピーカの定格インピーダンスが8Ωであることを踏まえて,所望の特性とするためにはどのような特性のフィルタとなっていれば良いかを考えれば,答えは簡単に分かります.

■解答


(d)の回路

 3kHz以上の音をツイータ(TW)から出力し,3kHz以下の音をウーファ(WF)から出力するためには,TW側にハイパス・フィルタを入れ,WF側にローパス・フィルタを入れる必要があります.このようなフィルタとなっているのは,(b)と(d)です.ただし,スピーカの定格インピーダンスが8Ωのため,(b)の回路では所望の特性にはなりません.そのため正解は(d)の回路ということになります.

■解説

●オーディオ用2ウェイ・スピーカ
 一般的に,人が聞こえる音の周波数範囲は,20Hz~20kHzと言われています.この周波数範囲の音を,1つのスピーカで正確に出力するのは簡単ではないため,周波数範囲を分割し,複数のスピーカで出力するようにしたものが,2ウェイ・スピーカや3ウェイ・スピーカです.
 2ウェイ・スピーカで低音を担当するスピーカを,ウーファ(Woofer)と呼びます.また,高音を担当するスピーカはツイータ(Tweeter)と呼びます.
 図2は,フォスター電機株式会社(FOSTEX)FW208HSというウーファ(WF)の仕様書に掲載されている周波数特性です.音圧特性を見ると,低音は低い周波数まで伸びていますが,高音は5kHz以上で減衰していることが分かります.


図2 ウーファの周波数特性の一例
フォスター電機株式会社(FOSTEX)のFW208HSというウーファの周波数特性.

 図3は,同社のFT28Dというツイータ(TW)の仕様書に掲載されている周波数特性です.低音は伸びていませんが,高音は20kHz以上までフラットな特性となっています.


図3 ツイータの周波済特性の一例
フォスター電機株式会社(FOSTEX)のFT28Dというツイータの周波数特性.

●シンプルな2ウェイ・スピーカの構成方法
 図4は,最もシンプルな2ウェイ・スピーカの構成方法です.ウーファ(WF)には,フィルタを挿入せず,ツイータ(TW)側にのみコンデンサ(C1)を挿入しています.


図4 最もシンプルな2ウェイ・スピーカの構成方法
TW側にのみコンデンサ(C1)を挿入している.

 TWに低音信号を加えると,ボイス・コイルが大きく振動することによる不具合が発生するため,C1を挿入し,C1とスピーカのインピーダンスにより,ハイパス・フィルタを構成します.この構成の場合,WF自身の周波数特性で高域が減衰するのを,TWが補償することになります.

●2次スピーカ・ネットワークを使用した2ウェイ・スピーカの構成方法
 図5は,コイルとコンデンサによるスピーカ・ネットワークを使用した2ウェイ・スピーカの構成方法です.これは,図1の(d)と同じです.


図5 コイルとコンデンサによるスピーカ・ネットワークを使用した2ウェイ・スピーカ
2次のハイパス・フィルタと2次のローパス・フィルタを構成している.

 C1とL1およびツイータ(TW)のインピーダンスで,2次のハイパス・フィルタを構成しています.また,L2とC2およびウーファ(WF)のインピーダンスで,2次のローパス・フィルタを構成しています.
 TWの極性が,WFの極性と逆になっています.これは,フィルタによる位相回転により,それぞれのスピーカに印可される信号の極性が反転するためです.位相に関しては,この後,シミュレーションで確認します.

●2次特性スピーカ・ネットワークを設計する
 図6は,図5の回路のスピーカを抵抗に置き換えた,シミュレーション用の回路図です.C1,L1,RTWでハイパス・フィルタを構成し,L2,C2,RWFでローパス・フィルタを構成しています.


図6 2次特性スピーカ・ネットワークのシミュレーション用の回路図
図5のスピーカを抵抗に置き換えている.

 ハイパス・フィルタおよびローパス・フィルタのカットオフ周波数が3kHzとなるよう,定数を決めていきます.ここで「L1=L2=L,C1=C2=C,RTW=RWF=R」とすると,ハイパス・フィルタおよびローパス・フィルタのカットオフ周波数(fc)は式1で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 また,フィルタの肩特性を決めるQは式2で表されます.カットオフ周波数の時の,フィルタのゲインは,Qの値と同じになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 ここで,ハイパス・フィルタ出力とローパス・フィルタ出力を加算した時の周波数特性が,フラットになるようにするため,Qを0.5に設定します.Qを固定して,LとCの値を求めるため,まず,式2を式3のように変形します.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式3を式1に代入すると,式4になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 式4を変形してCを求めると,式5になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 ここで,Q=0.5,fc=3kHz,R=8としてCを求めると,式6のように3.3μFとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 Lは式7のように,0.84mHと求まります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

●2次スピーカ・ネットワーク回路をシミュレーションする
 図7は,図6の2次特性スピーカ・ネットワーク回路のシミュレーション結果です.青線がウーファ(WF)に加わる電圧を表しており,ローパス・フィルタ(LPF)特性となっています.また赤線がツイータ(TW)に加わる電圧で,ハイパス・フィルタ(HPF)となっています.


図7 スピーカ・ネットワーク回路のシミュレーション結果
HPF出力とLPF出力を合成したものは,フラットな周波数特性となっている.

 それぞれ2次特性のフィルタのため,カットオフ周波数以降の減衰特性は-40dB/decとなっています.Qを0.5に設定したため,カットオフ周波数(3kHz)でのゲインは-6dB(0.5倍)となっています.

●WFとTWの合成出力はフラットな周波数特性
 ローパス・フィルタ出力の位相は,カットオフ周波数で90°遅れ,ハイパス・フィルタ出力の位相はカットオフ周波数で90°進んでいます.その結果,ローパス・フィルタ出力とハイパス・フィルタ出力の位相は180°反転していることになります.
 そのため,ハイパス・フィルタ出力を反転してローパス・フィルタ出力に加算すると,カットオフ周波数の時の振幅は0.5+0.5=1となり,周波数特性がフラットになります.
 図7の緑線がローパス・フィルタ出力にハイパス・フィルタ出力を反転加算したもので,フラットな周波数特性となっていることが分かります.図5の回路で,ツイータ(TW)の極性を反転しているのは,これらの理由によります.

 以上,スピーカ・ネットワーク回路について解説しました.ここでは,理想的な状態の設計例を示しましたが,実際はツイータ(TW)とウーファ(WF)の能率の違いや,スピーカの周波数特性の「あばれ」などを考慮した設計が必要になります.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice9_011.zip

●データ・ファイル内容
SPntwk.asc:図3の回路
SPntwk.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル

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