トランス・インピーダンス・アンプの雑音の考え方
図1は,I1の電流信号を帰還抵抗(Rf)で電圧に変換して出力するトランス・インピーダンス・アンプです.iniは,トランス・インピーダンス・アンプの全ての雑音を入力側の雑音電流で表した,入力換算雑音電流になります.図1において,回路の温度が27℃のとき,入力換算雑音電流(ini)の値は(a)~(d)のどれでしょうか.
ただし,「Rf=1MΩ」,OPアンプの入力雑音電圧は「vn=8nV/√Hz」,OPアンプの入力雑音電流は「in=0.8pF/√Hz」,1/f雑音は無視します.
入力換算雑音電流(ini)を求める.
(a) 9.0pA/√Hz
(b) 1.7pA/√Hz
(c) 0.9pA/√Hz
(d) 0.8pA/√Hz
入力換算雑音電流(ini)は,Rfの熱雑音を電流換算した雑音電流(if)と,OPアンプの入力雑音電圧(vn)と,OPアンプの入力雑音電流(in)の3つで表すことができます.iniをifとvn,inで表し,図1の具体的な定数を入れて計算します.
図1の入力換算雑音電流(ini)は,Rfの熱雑音電圧を電流換算した雑音電流(if)「if2=4kT(1/Rf)」とOPアンプの入力雑音電圧(vn),OPアンプの入力雑音電流(in)を使って表すと式1になります.ここで,kはボルツマン定数「k=1.38×10-23JK-1」,Tは絶対温度で回路の温度が27℃のとき「T=300K」です.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1に「Rf=1MΩ」,「vn=8nV/√Hz」,「in=0.8pF/√Hz」を入れると,「ini=0.8pA/√Hz」になるので,(d)が正解になります.
帰還抵抗(Rf)は,トランス・インピーダンス・アンプのゲインの要求から決まります.図1の帰還抵抗が高い(ここでは1MΩ)とき,入力換算雑音電流(ini)はOPアンプの入力雑音電流(in)が支配的になり,おおよそiniとinは等しくなります.この理由により,OPアンプは,入力雑音電流(in)が低いものを選びます.
●雑音の検討には入力換算雑音を使う
トランス・インピーダンス・アンプに限らず,アンプ回路の雑音を調べるときは,回路で発生する全ての雑音を入力換算し,アンプ回路は無雑音として検討します.入力換算した雑音は2つあり,入力換算雑音電圧(vni)と入力換算雑音電流(ini)になります.この2つの入力換算雑音を使うと,回路で発生するバラバラな雑音が入力側でひとかたまりになるので評価が容易になります.
図1のトランス・インピーダンス・アンプの雑音は,帰還抵抗とOPアンプで構成されるので,帰還抵抗の雑音電流(if)と,OPアンプの入力雑音電圧(vn)と,OPアンプの入力雑音電流(in)の3つの雑音が関係します.以降では,トランス・インピーダンス・アンプの入力換算雑音電流(ini)を机上計算し,式1になることを解説します.その後,式1に具体的な値を入れて,シミュレーションと一致するかを確かめます.
●入力換算雑音電流(ini)を検討する回路
図2(a)は,図1の3つの雑音を表した回路になります.3つの雑音は,Rfの熱雑音を電流換算した雑音電流(if)と,OPアンプの入力雑音電圧(vn)と,OPアンプの入力雑音電流(in)になります.図2(b)は,図2(a)の3つの雑音を入力側に換算し,トランス・インピーダンス・アンプの入力換算雑音電圧(vni)と入力換算雑音電流(ini)とした回路になります.雑音は,図1の電流信号(I1)が無いときに回路で発生するので,図2(a)と図2(b)からI1は取り除き,in端子はオープンになります.図2(a)と図2(b)を用いて,図2(a)のoutの雑音と,図2(b)のoutの雑音は同じになることから,iniはifとvn,inで表すとどうなるかを検討します.
(a)のoutの雑音と,(b)のoutの雑音は等しいことを利用して計算する.
●入力換算雑音電流(ini)の導出
図2(a)のoutの雑音は,式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
図2(b)のoutの雑音は,式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
図2(a)と図2(b)のoutの雑音は,等しいので式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式4をini2で整理すると,式5になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
ここで,if2は,Rfの熱雑音を電流換算したものなので,式6になります.式5に式6を代入してiniで整理すると式1になり,iniはifとvn,inで表すことができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式1のiniが分かると,トランス・インピーダンス・アンプの出力雑音電圧は式7になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
式7は,1Hzあたりの出力雑音電圧なので,雑音帯域幅(BW)が分かると式8の実効値になります.このように,入力換算雑音電流(ini)が分かると,出力雑音電圧やその実効値も容易に計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
●帰還抵抗を変化させたときのトランス・インピーダンス・アンプの雑音
表1は,式1の入力換算雑音電流,式7の出力雑音電圧,式8の出力雑音電圧実効値について,帰還抵抗(Rf)が1kΩ,10kΩ,100kΩ,1MΩと変化したときの雑音を机上計算した一覧表になります.式1については,右辺の第一項,第二項,第三項を各々求め,どの項が支配的かを示しました.式1のように,雑音は,2乗和の平方根で計算することから,仮に2つの雑音の大小を比べた場合,3倍大きな雑音が支配的になります.
表1の帰還抵抗(Rf)が図1の1MΩのとき,トランス・インピーダンス・アンプの入力換算雑音電流(ini)は,0.8pA/√Hzになり,回答の(d)の計算値になります.この値は,OPアンプの入力雑音電流(in)が支配的であるのが分かります.このように,帰還抵抗(Rf)が高いときに入力換算雑音電流(ini)を低くするには,OPアンプの入力雑音電流(in)が低いものを選びます.例を挙げると,CMOS OPアンプやJFET入力のOPアンプなどは入力雑音電流が低いOPアンプになります.
表1の帰還抵抗(Rf)が100kΩ,10kΩ,1kΩと低くなるにつれ,トランス・インピーダンス・アンプの入力換算雑音電流(ini)は,式1右辺第二項の帰還抵抗の雑音電流と,式1右辺第三項のOPアンプの入力雑音に関係するものが見え始め,支配的な雑音が変わっていきます.そして入力換算雑音電流(ini)は高くなっていきます.
出力雑音電圧の実効値を低くするには,雑音帯域幅(BW)を狭くすることにより低雑音にできます.雑音帯域幅(BW)を狭くするには,帰還抵抗と並列にコンデンサを入れて,ロー・パス・フィルタの特性を加える方法があります.
●トランス・インピーダンス・アンプの雑音をシミュレーション
図3は,図1をシミュレーションする回路です.帰還抵抗(Rf)は.stepステートメントで1kΩ,10kΩ,100kΩ,1MΩと変化させています.解析は.noiseステートメントで,1Hz~100kHzの周波数範囲をシミュレーションします.このときの雑音帯域幅(BW)は,100kHzとみなせます.入力換算雑音電流(ini),出力雑音電圧(vno),出力雑音電圧の実効値の3つを調べるため,「.MEAS」ステートメントで自動測定しています.
帰還抵抗は1kΩ,10kΩ,100kΩ,1MΩの4種.
●帰還抵抗(Rf)が変化したときの結果
図4は図3の「.MEAS」の結果になります.「.MEAS」の結果はログ・ファイル中にあるので,回路図上でショート・カット・キーの「Ctrl+L」(コントロール・キーとLキーを同時押し)で表示できます.
図4の結果で,帰還抵抗(Rf)が1MΩのときの入力換算雑音電流(ini)は,0.818pA/√Hzとなり,回答の(d)と同じになるのが分かります.その他の雑音については,ここでは詳しく比較しませんが,先程の表1と同じになるのが分かります.
表1の雑音計算と一致する.
●雑音の周波数特性
図5は,図3のシミュレーションの結果で,トランス・インピーダンス・アンプの周波数特性になります.上段はゲイン周波数特性,中段は入力換算雑音電流(ini)の周波数特性,下段は出力雑音電圧(vno)の周波数特性です.上段のゲイン周波数特性より,トランス・インピーダンス・アンプのゲインは帰還抵抗(Rf)の抵抗値で決まります.中段と下段の入力換算雑音電流(ini)と出力雑音電圧(vno)の周波数特性で,約1kHzより低周波側は1/f雑音が見えています.周波数の変化に関係なく雑音が一定になるホワイト雑音の周波数帯で,10kHzの値を読むと,図4の「.MEAS」の結果で示した値になります.
上段はゲイン周波数特性,中段は入力換算雑音電流(ini)の周波数特性.
下段は出力雑音電圧(vno)の周波数特性.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_046.zip
●データ・ファイル内容
TZAmp_NOISE.asc:図3の回路
TZAmp_NOISE.plt:図3のプロットを指定するファイル
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