シリコン太陽電池パネルの特性を測定
図1は,シリコン太陽電池パネル(116x116mm)の特性を測定するときの模式図です.負荷抵抗の値を変えて電流と電圧を測定します.このシリコン太陽電池パネルの特性は,解放電圧6.9V,短絡電流0.39Aです.シリコン太陽電池パネルに関する説明として,正しいのは(a)~(d)のどれでしょうか.
(a)このシリコン太陽電池パネルの最大出力電力は6.9V*0.39A=2.69Wである
(b)シリコン太陽電池パネルの解放端電圧は,照射光の強さに比例してほぼ直線的に増加する
(c)シリコン太陽電池パネルの短絡電流は,照射光の強さに比例してほぼ直線的に増加する
(d)シリコン太陽電池パネルと,フォト・ダイオードの動作原理は全く異なっている
(a)の説明 (b)の説明 (c)の説明 (d)の説明
シリコン太陽電池は,シリコン半導体のPN接合部分に光が照射されることで電流が流れる原理を使用しています.解放電圧と短絡電流は,シリコン太陽電池パネルの特性を表すもので,シリコン太陽電池パネルに規定の明るさの光を照射したときの値となっています.解放電圧は負荷抵抗が無限大のときの出力電圧で,短絡電流は出力を短絡したときに流れる電流です.
太陽電池パネルで発生する電流は,光の強さに比例します.そのため(c)が正解です.
(a),(b),(d)は不正解です.その理由は次になります.(a)のシリコン太陽電池パネルの最大出力電力は,解放電圧と短絡電流を掛けたものよりも小さくなります.(b)の解放電圧は,照射光が一定値以上になると,あまり変化しません.(d)のシリコン太陽電池とフォト・ダイオードの動作原理は,どちらも光を当てることでPN接合に電流が流れるので,動作原理は同じです.
●シリコン太陽電池の動作原理
図2は,シリコン太陽電池の構造を表した模式図です.ダイオードと同じ構造で,電子の多いn型半導体とホールの多いp型半導体を組み合わせています.
N型半導体とP型半導体を組み合わせたもので,ダイオードと同じ構造.
n型半導体とp型半導体の接合部分は,電子とホールが結合し,両者が消失した空乏層と呼ばれる領域になります.そして,空乏層のうち,N型領域だった部分は電子が少なくなるためプラスに帯電します.また,p型領域だった部分はホールが不足するためマイナスに帯電することで内部電界が発生します.
この空乏層の部分に光が照射されると,内部で電子とホールが発生し,それぞれが内部電界で移動することで,電流が流れます.電流はn型半導体からp型半導体に向かって流れるため,図2では外部に接続された抵抗を,右から左に向かって電流が流れることになります.
図2の素子をダイオードとして使用する場合は,p型半導体にプラスの電圧を加えたときに,p型半導体からn型半導体に向かって電流が流れます.太陽電池として使用する場合は,ダイオードとして使用する場合と,電流の向きが逆になります.
●シリコン太陽電池の等価回路
シリコン太陽電池は,図3のような等価回路で表すことができます.
I1は,照射された光の強さに比例した電流で,D1はPN接合によってできるダイオードを表しています.また,RPは漏れ電流を表現し,RSは電流経路に直列に存在する電極抵抗等を表しています.
図3から分かるように,シリコン太陽電池の外部に負荷抵抗を接続しない場合,光によって発生した電流はすべてダイオード(D1)に流れます.そのため,シリコン太陽電池の解放電圧は,ダイオードの順方向電圧として表すことができます.I1が十分大きく,RPに流れる電流が無視できる場合は,解放電圧(VO)は式1のように表すことができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
ここで,k:ボルツマン定数,T:絶対温度,g:電子電荷
ISは,逆方向飽和電流ですが,シリコン太陽電池の面積は非常に大きいため,一般的なダイオードよりもかなり大きな値になります.そのため,解放電圧(VO)は一般的なダイオードの順方向電圧よりも低い,0.5V~0.6V程度になります.解放電圧の大きな太陽電池を作る場合,必要な電圧が得られるように,単一セルの太陽電池を多数直列接続して構成します.また,シリコン太陽電池の出力端子を短絡したときの電流は,I1と等しくなります.
●単一セルのシリコン太陽電池の特性をシミュレーションする
図4は,図3の等価回路を使用して,シリコン太陽電池の特性をシミュレーションするための回路図です.負荷抵抗(RL)の抵抗値を変数として,10mΩから1kΩまで変化させ,出力電圧と負荷抵抗に流れる電流を調べます.
図5は,図4のシミュレーション結果です.横軸は負荷抵抗の値となっています.負荷抵抗10Ω以上では,出力電圧はあまり変化せず,ほぼ一定となっています.負荷抵抗を小さくすると負荷電流は増加しますが,1Ω以下で一定となっており,これが短絡電流に該当します.
横軸は負荷抵抗の値となっている.
太陽電池の特性を表す場合,横軸を出力電圧とし,縦軸を負荷電流としたグラフがよく使用されます.図6が図5のグラフの横軸を出力電圧に変更したものです.グラフの横軸を右クリックして「Quantity Plotted」の欄を「V(Vo)」に書き換えることで,横軸を変更できます.
●複数セル直列接続シリコン太陽電池の特性をシミュレーションする
一般的に使用されるシリコン太陽電池は,単一セルの太陽電池を直列接続し,出力電圧を大きくしています.図1のシリコン太陽電池の場合は,12個のセルを直列接続したものになっています.そのような太陽電池のシミュレーションを行う場合,図3の等価回路を12個直列に接続すればよいのですが,素子数が多くなってしまいます.そのため,シリコン太陽電池のシミュレーション用モデルは,ダイオードの特性を,N個直列接続したものとなるよう,ダイオード・モデルを変更したものが,よく使われています.
図7は,単一セルを12個直列接続した,図1のシリコン太陽電池パネルのシミュレーションを行うための回路図です.図4のダイオード・モデル及び,RSとRPの値を変更しています.モデル・パラメータのN(Emission coefficient)は初期値が1となっていますが,これを12に変更することで,順方向電圧が12倍となり,12個直列接続相当の特性とすることができます.
図8は,図7のシミュレーション結果です.横軸を出力電圧として,負荷電流及び負荷抵抗で発生する電力をプロットしています.図8より,解放電圧は約6.9Vで,短絡電流は390mAとなっていることが分かります.また,負荷抵抗で発生する電力の最大値は約2Wで,出力電圧が5.66Vのときに最大になっていることも分かります.
解放電圧は約6.9Vで短絡電流は390mAとなっている.
以上,シリコン太陽電池の特性について解説しました.シリコン太陽電池の基本的な特性をシミュレーションするのであれば,今回使用したような簡単なモデルで十分です.ただし,さらに詳細な特性をシミュレーションしたい場合は,現物の太陽電池パネルの特性データを元に,モデル・パラメータのフィッティングを行う必要があります.
◆参考資料
・太陽電池モジュール 2W SY-M2W
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_041.zip
●データ・ファイル内容
Solar_1cell.asc:図4の回路
Solar_1cell.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
Solar_12cell.asc:図4の回路
Solar_12cell.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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