電源の出力電圧を内部基準電圧以下に設定する
図1の回路は,降圧スイッチング電源IC(LT3970,内部基準電圧:1.21V)を使用した,出力電圧3.3Vの電源の基本的な回路図です.図1の回路では,出力電圧を内部基準電圧1.21V以下とすることはできません.
ただし,図2のように回路を変更することで,出力電圧を内部基準電圧以下の0.5Vに設定することが可能になります.図1との違いは,R2の下端を,GNDではなく,外部電圧源(Vb)に接続するように変更され,R2が,1113kΩとなっています.図2の回路で,出力電圧を0.5Vにする外部電圧源(Vb)の電圧は,(a)~(d)のどれでしょうか.
出力電圧を0.5Vするための外部電圧源(Vb)の電圧は?
(a)0.5V (b)1V (c)1.5V (d)2V
LT3970は,FB端子の電圧が1.21Vとなるようにスイッチング波形のデューティ比をコントロールします.図2の回路で,FB端子の電圧が1.21Vとなっているとき,出力端子の電圧を0.5Vとするためには,Vbをいくつにすればよいかを考えれば答えは,分かります.
補足として,図1で,LT3970の内部基準電圧は1.21Vで,図1の回路の出力電圧(VOUT)は「VOUT=1.21*(R1+R2)/R2」で計算することができます.図1では,R1が1M(1000k)Ω,R2=579kΩとなっており「VOUT=1.21*(1000k+579k)/579k=3.3V」となります.
図2の回路で,出力電圧を内部基準電圧以下とするためには,R1のFB端子側から出力端子に向かって電流が流れ,電圧降下が発生している必要があります.その電流値は,FB端子の電圧を1.21Vとすると,(1.21V-0.5V)/1MkΩ=0.710μAとなります.この電流は,VbからR2を経由して,R1に流れます.R2の電流を0.710μAとするためのVbの電圧は1.21+0.71μA*1113k=2Vとなります.
●降圧スイッチング電源の内部回路と出力電圧
図3は,降圧スイッチング電源の簡略化した内部回路図です.
R1とR2で出力電圧を設定する.
スイッチ(SW)を一定の周期でON/OFFさせますが,SWがONするデューティ比を大きくすると出力電圧が高くなります.そして,内部基準電圧源(Vref)の電圧と,FB端子の電圧を比較し,両者が同じ電圧になるように,制御回路でSWがONするデューティ比をコントロールします.図3の回路で,出力電圧(VOUT)は式1で計算することができます.図3の定数の場合は,3.3Vになります.
・・・・・・・・・・・(1)
式1から分かるように,R2を大きくすれば出力電圧は小さくなります.図3の回路で出力電圧が一番小さくなるのは,R2を接続せずにオープンにした場合です.そのときの出力電圧は,Vrefと同じ,1.21Vになります.
●降圧スイッチング電源の出力電圧を内部基準電圧以下に設定する
通常,降圧スイッチング電源の出力電圧は,使用する電源ICの内部基準電圧以下に設定することはできません.もし,内部基準電圧よりも低い電圧の電源が必要になった場合,図4のように,電圧源(Vb)を追加することで,内部基準電圧以下の出力電圧の電源を構成することができます.
電圧源(Vb)を追加することで,内部基準電圧よりも低い出力電圧が得られる.
図4の回路で電圧源(Vb)の電圧は,電源ICの内部基準電圧(Vref)よりも高い電圧とします.電源ICが正常に動作している場合,FB端子の電圧は,Vrefと同じになります.そのため,電流(Ib)は図4の矢印の向きに流れます.そして,Ibの値は式2で計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
FB端子には電流は流れ込まないので,IbはすべてR1に流れます.すると,R1にはIb*R1という電圧降下が発生します.そのため,出力電圧(VOUT)は式3のようになり,図4の定数を代入すると0.5Vになります.
・・・・・(3)
式3を,出力電圧からVbを求める式に変形すると,式4になります.
・・・・・(4)
●内部基準電圧よりも低い出力電圧の降圧スイッチング電源を確認する
図5は,図2と同じ内部基準電圧よりも低い出力電圧の降圧スイッチング電源をシミュレーションするための回路です.
図6は,図5のシミュレーション結果です.出力電圧は,式3で計算した値と同じ0.5Vになっていることがわかります.
出力電圧は式3で計算した値と同じ0.5Vになっている.
●外部電圧源をICで構成する
図5は,出力電圧を設定する外部電圧源を,理想電圧源で構成していました.図7は,この外部電圧源をシャント・レギュレータ(LT1634)とOPアンプ(LT6016)を組み合わせて構成しています.シャント・レギュレータで1.25Vの電圧を発生させ,OPアンプLT6016でこの電圧を1.6倍して,2Vの電圧源を構成しています.
シャント・レギュレータとOPアンプを組み合わせて電圧源を構成.
図8は,図7のシミュレーション結果です.OPアンプの出力電圧は2Vとなっており,電源ICの出力電圧は図6と同様0.5Vとなっています.
出力電圧は図6と同じ0.5Vになっている.
以上,降圧スイッチング電源ICを使用して,出力電圧を内部基準電圧以下に設定する方法を紹介しました.ほとんどの電源ICで同様の手法が使えますが,入力電圧が高く,出力電圧が低い場合,スイッチング波形のON時間が非常に短くなるため,最小ON時間のスペックに注意が必要です.
◆参考資料
・標準的なレギュレータを使って,非常に低い電圧を生成する
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_039.zip
●データ・ファイル内容
3970_0.5V.asc:図5の回路
3970_1634_0.5V.asc:図7の回路
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