電流をモニタする回路




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■問題
トランジスタ回路

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,負荷電流をモニタする回路です.電源(V1)から負荷へ流れる電流を,電圧に換算して,outでモニタします.赤枠が負荷で,通常は負荷回路ですが,ここではILoadの負荷電流に置き換えています.図1において,ILoadが0.5Aのとき,outのモニタ出力電圧は(a)~(d)の何Vになるでしょうか.ただし,OPアンプは理想とし,Q1トランジスタのベース電流は無視します.


図1 負荷電流をモニタする回路
負荷電流が0.5Aのとき,outのモニタ出力は何V?

(a) 0.1V,(b) 0.5V,(c) 1.0V,(d) 2.0V

■ヒント

 V1から負荷へ流れる電流は,Rsenseによりわずかな,電圧降下を発生します.その電圧降下を負帰還回路で増幅して,outでモニタします.outの電圧はR2の電圧降下なので,R2の電流が分かると計算できます.

■解答


(c) 1.0V

 OPアンプの反転端子と非反転端子は,バーチャル・ショートなので,RsenseとR1の両端にかかる電圧は同じになります.R1はRsenseより1000倍高い抵抗値なので,R1の電流はRsenseの電流の1/1000倍になります.Rsenseの電流はILoadの0.5Aなので,R1の電流は0.5mAになります.この電流はQ1を通ってR2の電流となり,R2の電圧降下は「0.5mA×2kΩ=1.0V」になります.以上より,(c)が正解になります.


■解説

●電流を低抵抗で測定する
 電流をモニタする回路は,負荷電流や電源電流を測定するときに使われます.モニタ出力は,測定する電流に比例した電圧となり,回路の電流が過電流にならないように制御する信号として使われます.電流の測定は,低抵抗(図2ではRsenseの0.1Ω)を入れて,抵抗の電圧降下を利用します.低抵抗を使うのは,電圧降下を低くして,測定抵抗を入れる前と後で回路の電圧が極端に変わるのを防ぐためです.Rsenseの電圧降下は低いので,OPアンプの入力電圧は電源(V1)付近の電圧になります.このため使用するOPアンプは,電源付近の入力信号で動作する入出力レール・ツー・レールのOPアンプを用います.R3は,OPアンプの入力バイアス電流による誤差を小さくするための抵抗です.

●負荷電流とモニタ電圧の関係
 図2は,図1と同じ回路ですが,解説のため図1の回路にIsense,IR1,IR2,IB1の各電流と,Vsense,VR1の電圧を図示しました.ここでは図2の回路記号を用いて,負荷電流とモニタ電圧の関係を机上計算で調べます.


図2 解説のため,図1の回路内の電流と電圧を図示した回路

 電流の測定はRsenseの電圧降下を用いています. 図2のRsenseの電圧降下(Vsense)は式1になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 回路中のR1の電圧降下(VR1)は式2になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 図2より,式1のVsenseはOPアンプU1の反転端子に伝わり,式2のVR1は非反転端子に伝わります.OPアンプU1とNPNトランジスタは負帰還回路になり,反転端子と非反転端子はバーチャル・ショートなので,式1と式2は等しくなります.式1と式2が等しいので,IsenseとIR1の関係は式3になります.「ILoad=0.5A」,「Rsense=0.1Ω」,「R1=100Ω」より,IR1はIsenseを1/1000倍した0.5mAになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 次にoutのモニタ出力の電圧について検討します.outの電圧は,R2の電圧降下になり,このときのR2の電流は,Q1のエミッタ電流です.Q1のエミッタ電流は,Q1のコレクタ電流になるR1の電流(IR1)とベース電流(IB1)の和なので,outの電圧は式4になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 Q1の電流増幅率は非常に高く,ベース電流を無視すると,式5の近似が成り立ちます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 式5へ式3を代入すると,outの電圧は式6になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 Isenseの電流はILoadの電流なので,ILoadとoutの電圧の関係は式7になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 問題の答え合わせをします.式7へ「ILoad=0.5A,Rsense=0.1Ω,R1=100Ω,R2=2kΩ」を入れると,outのモニタ出力の電圧は「Vout=1.0V」なので,(c)が正解になるのが分かります.
 outのモニタ出力からILoadの電流を求めるには,式7をILoadで整理した式8になります.式8へ回路定数を入れると,モニタ出力を0.5倍した電流がILoadになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

●各部の電流と電圧をシミュレーションで確認する
 図3は,図1のILoadを0A~1.0Aまでスイープしたシミュレーション結果で,上段はR1とR2の電流,下段はoutのモニタ出力の電圧をプロットしました.
 図3上段より,トランジスタの電流増幅率は高いので,Q1のベース電流が無視でき,R1とR2の電流はほぼ等しくなるのが分かります.先程の式3より,R1はRsenseより1000倍高い抵抗なので,R1の電流はRsenseの電流の1/1000倍になります.この関係を図3上段で調べると,ILoadが0.5AのときのR2の電流(=R1の電流とほぼ等しい)は0.502mAなので,式3の関係になるのが分かります.outのモニタ出力の電圧はR2(2kΩ)の電圧降下なので,「Vout=0.502mA×2kΩ=1.004V」になり,図3下段のシミュレーション値になります.このように,シミュレーションでも回答の(c)が正解になるのが分かります.


図3 図2のIR1,IR2,Voutをプロットした図
IR2は0.502mAになり,outのモニタ出力は1.004Vになる.

●PチャネルMOS FETを使った回路例
 図4は,図1と同じ動作をする回路例になります.図1との違いは,NPNトランジスタをPチャネルMOS FETへ変更しています.Pチャネル MOS FETは,NPNトランジスタのベース電流に相当するゲート電流は無いので,先程の式4から式5へのベース電流を無視した近似が必要ありません.注意点として,負帰還回路にするには,Pチャネル MOS FETのときは,NPNトランジスタのときから位相が反転するので,OPアンプの反転端子と非反転端子の接続は,図1から入れ替わります.


図4 図1のNPNトランジスタをPチャネルMOS FETに変えた回路
ベース電流の近似が必要ない.

●PチャネルMOS FETを使ったときのシミュレーション
 図5は,図4のシミュレーション結果で,プロットは図3と同じです.ここでは机上計算のR2の電流(0.5mA)とoutのモニタ出力(1.0V)に対して,図3図4のどちらが近くなるかを検討します.
 机上計算のR2の電流は,R1の電流になり,式3より0.5mAです.図3のR2の電流と机上計算の差は「0.502mA-0.5mA=2μA」です.これはベース電流を無視した近似の影響です.一方,図4はベース電流の近似が必要ないので「0.4997mA-0.5mA=-0.3μA」となり,差が小さくなります.R2の電流の差が小さくなるのでoutのモニタ出力の差も,図3は「1.004V-1.0V=4mV」に対し,図4は「0.9994V-1.0V=-0.6mV」と小さくなり,図4の方が机上計算に近くなります.


図5 図2のIR1,IR2,Voutをプロットした図
IR2は0.4997mAになり,outのモニタ出力は0.9994Vになる.

■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_036.zip

●データ・ファイル内容
Current Monitor 1.asc:図1の回路
Current Monitor 1.plt:図2のプロットを指定するファイル
Current Monitor 2.asc:図4の回路
Current Monitor 2.plt:図5のプロットを指定するファイル

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