水溶液の導電率の測定方法
図1は,円筒形の容器の中に入っている水溶液の,導電率を測定する装置の一部のブロック図です.電極AとBは,薄い板状の金属電極です.電極Aに電圧を印加し,Out端子の電圧の測定を行い,計算により導電率を算出します.電極Aに加える電圧(V1)として,最も適切なものは(a)~(d)のどれでしょうか.
電極Aに加える電圧として,最も適切なものは?
(a) +0.1Vの直流電圧
(b) -0.1Vの直流電圧
(c) 0.1VPPの正弦波電圧
(d) -1Vの直流に0.1VPPの正弦波電圧を重畳したもの
食塩水のような水溶液では,イオンによって電流が流れます.イオンには,+イオンと-イオンがあります.イオンを含んだ水溶液に電圧を加えたときに,どのような現象が起こるかを考えると正解が分かります.
イオンを含んだ水溶液の中に電極を刺して,直流電圧を印加すると,+側の電極には-イオンが集まり,-側の電極には+イオンが集まります.このような現象を分極と呼び,電圧を印加した瞬間は電流が流れますが,その後ほとんど流れなくなります.
一方,交流電圧を印加した場合,+イオンと-イオンは,2つの電極の間を交互に移動することになり,電流が流れます.そのため,水溶液の導電率を測定する場合は交流信号を使用する必要があります.(a)~(d)の中で,交流電圧のみが印加されるのは(c)なので,正解は(c) 0.1VPPの正弦波電圧ということになります.
●水溶液の導電率の測定方法
色々な水溶液の電流の流れやすさ(導電率)は,その水溶液に溶け込んでいる物質の濃度によって変化します.そのため,導電率を測定することで,濃度を知ることができます.分かりやすい事例とししては,食塩水の導電率を測定することで,塩分濃度が分かります.
水溶液の導電率(電気伝導率ともいう)は,水溶液に刺した金属電極間に電圧を印加し,流れる電流から抵抗を求め,その逆数をとったものです.JIS規格では,図2のように縦横1mで面積1m2の2枚の電極を,1mの距離をとって配置したときの抵抗の逆数を導電率としています.導電率の単位は[S/m]となります.ただし,この条件で実際に測定することは難しいため,実際はもっと小さな電極で測定し,測定に使用した電極の係数(k)を掛けてJIS規格の導電率に換算します.
●水溶液の電気的な等価回路
水溶液に電流が流れるのは,イオンの働きによるものです.イオンを含んだ水溶液に直流電圧を印加すると,分極が発生し,あまり電流が流れません.ところが,交流電圧を印加した場合は,イオンが電極間を交互に行き来するため,電流が流れます.そして交流電圧を印加したときの電流の流れやすさは,水溶液に溶けている物質の濃度によって変化します.直流抵抗が大きく,交流抵抗が小さいという特徴から,水溶液を電気的な等価回路に置き換えると,図3のように表すことができます.直流抵抗(RDC)の値はかなり大きく,交流抵抗(RAC)の値の1000倍以上となることがあります.
直流抵抗(RDC)の値はかなり大きく,交流抵抗(RAC)の値の1000倍以上となることがある.
●導電率を測定する装置の等価回路
図4は,図1の「導電率を測定する装置のブロック図」を等価に置き換えた等価回路です.
ここで,V1の交流電圧の周波数を,C1およびRACで決まるカットオフ周波数よりも十分大きいものとし,さらにRDCは,RACよりも十分大きいものとすると,Out端子の出力電圧(VOut)は式1で表すことができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
RACの逆数に,電極係数(k)を乗じたものが導電率(σ)なので,σは式1を変形して式2のように求めることができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
●導電率を測定する回路をシミュレーションする
図5は,図4を使用して,水溶液の導電率を測定するシミュレーション回路です.図4の回路にピーク検波回路が追加されています.Out端子に出力された信号を,ピーク検波回路で直流電圧に変換します.この直流電圧をA-Dコンバータで変換し,マイコンで計算することで,導電率を求めることができます.
水溶液の等価回路のRACの値はRxという変数にしています.このRxの値には,水溶液の導電率に相当する“sigma”という変数の逆数を代入します.そして,“sigma”の値は「.step 」コマンドで1m,2m,3mと変化させます.また,「.meas」コマンドを使用して,ピーク検波出力である,DC_Out端子の電圧の平均値を求め,その値から,式2を使用して,導電率(Msigma)を計算しています.
図4の回路にピーク検波回路が追加されている.
図6が図5のシミュレーション結果です.“sigma”の値に対応して,Out端子の出力が変化しています.また,DC_out端子の直流電圧も,“sigma”の値に対応して,変化していることが分かります.
“sigma”の値に対応して出力が変化している.
図7は「.meas」コマンドで計算した導電率(Msigma)をプロットしたものです.このグラフを表示する方法として,まず,「Ctrl+L」キーを押してエラー・ログを表示します.そしてエラー・ログの中でマウス右クリックし,「Plot .step'ed .meas data」を実行します.そして表示された画面でマウス右クリックして「Add Traces」を実行し“Msigma”を選択してプロットします.
図7の横軸は「.step」コマンドで変化させた水溶液の導電率に相当する“sigma”の値で,縦軸は「.meas」で計算した導電率の“Msigma”の値です.“sigma”と“Msigma”は,ほぼ同じ値となっており,図5の回路で導電率が計測できていることが分かります.
“sigma”と“Msigma”は,ほぼ同じ値となっている.
以上,水溶液の導電率の測定に関して解説しました.一般的に水溶液の導電率は温度によって変化します.そのため,水溶液の濃度を計測する目的で,導電率の測定を行う場合等は,温度も同時に測定して補正する必要があります.
◆参考資料
Interface2021年7月号
第10章 製作例3・・・水溶液の塩分濃度センサ
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_033.zip
●データ・ファイル内容
Conductivity.asc:図5の回路
Conductivity.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
Conductivity.log.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
■LTspice関連リンク先
(01) LTspice ダウンロード先
(02) LTspice Users Club
(03) LTspice メール・マガジン全アーカイブs
(04) ◆LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(05) ◆LTspiceアナログ電子回路入門アーカイブs
(06) ◆LTspice電源&アナログ回路入門アーカイブs
(07) ◆IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(08) ◆オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(09) ◆LTspiceエデュケーショナル・ファイルで学ぶアナログ回路アーカイブs
(10) ◆LTspiceドット・コマンドから学ぶアナログ回路アーカイブs