OPアンプを使ったサーキュレータ回路
図1は,OPアンプを使ったサーキュレータ回路です.20ms~40ms間にv1の交流信号を印加したとき,yとzの信号の状態は,(a)~(d)のどの組み合わせになるでしょうか.ただし,v1の振幅は2V,OPアンプは理想とします.
(a) yの振幅は2V,zの振幅は2V
(b) yの振幅は2V,zは無信号
(c) yの振幅は1V,zの振幅は1V
(d) yの振幅は1V,zは無信号
v1の交流信号が回路に加わったとき,a点とb点の信号はどうなるかを検討すると,yとzの信号が分かります.
0ms~20ms間のv1が無信号のとき,a点,b点,c点の電圧はグラウンドになります.この状態から20ms~40ms間のv1の振幅が2Vの交流信号が回路に印加したときを考えます.
a点の信号は,v1を1/2に分圧したxの信号を,2倍の非反転アンプで増幅したものなので,振幅が2Vの交流信号になります.
yの信号は,a点の信号を1/2に分圧した信号なので,振幅が1Vの交流信号になります.
b点の信号は,a点の信号が同相入力になる差動アンプを通過した信号なので,OPアンプを理想とすると無信号になり,zも無信号になります.
これで正解は,「(d) yの振幅は1V,zは無信号」となります.
●サーキュレータについて
サーキュレータとは,複数のポートから,加わった信号を隣のポートに伝える受動部品や回路のことです.最初に信号の伝わり方について,図2(a)と図2(b)を用いて解説します.サーキュレータの回路記号は,図2(a)を用います.図2(a)は,3ポートのサーキュレータで,xに加わった信号は,記号内の矢印方向に進み,隣のyに伝わります.同じように,yに加わった信号はzに伝わり,zに加わった信号はxに伝わります.
サーキュレータの分かりやすい例は,図2(b)の高周波無線システムに使った使用例になります.送信回路の信号はxからyに伝わってアンテナから送信します.アンテナで受信した信号はyからzに伝わり,受信回路に入ります.このようにサーキュレータで信号の経路を変えることができます.高周波回路では,磁化されたフェライト材料を用いた受動部品のサーキュレータがあります.
低周波回路では,高周波回路のような受動部品のサーキュレータがないので,アナログ回路で図1のようなサーキュレータ回路を作ります.その一例がOPアンプを使った図1のサーキュレータ回路になります.
(a)ポートに入った信号は矢印方向に進み,隣のポートへ伝わる.
(b)送信信号はxからy,受信信号はyからzに伝わる.
●x,y,zの信号を机上計算
図1のサーキュレータについて,x,y,zの信号を机上計算します.0ms~20ms間はv1が無信号なので,負帰還回路によりa点,b点,c点の電圧はグラウンドになります.この状態から20ms~40ms間にv1の信号が加わると,xの信号はR3とR4で分圧した信号になるので,「R3=R4」より,式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
a点の信号は,xの信号をR1,R2,U1の非反転アンプで増幅した信号になります.式1と「R1=R2」より,a点の信号は式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
yの信号は,a点の信号をR7とR8で分圧した信号になるので,式2と「R7=R8」より,式3になります. このように,v1の信号は隣のyに伝わり,そのときの振幅はv1の1/2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
次にzの信号を考えます.aの信号はR5,R6,R7,R8,U2からなる差動アンプの同相信号になります.差動アンプは同相信号を増幅しないので,b点の電圧は式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
zはb点が式4なので無信号になり,式5になります.このようにv1が加わってもzには伝わりません.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
ここまでの計算は,v1の信号源の位置がx側にあるときの,xからyの信号の伝わり方になります.この一連の計算は,図1のv1の信号源の位置がy側に変わり,yからzへの伝わり方,同様にv1の信号源の位置がz側に変わり,zからxへの伝わり方にも当てはまるので,図1はサーキュレータ回路になります.
●サーキュレータの伝わり方を調べる
図3は,サーキュレータの信号の伝わり方を調べるシミュレーション回路です.図1の回路は,x-yの信号だけを見るために,v1(周波数:100Hz,振幅:2V)の信号源しかありません.しかし,図3は,x-y-zの信号の伝わり方も同時に調べるため,v2(周波数:200Hz,振幅:2V)とv3(周波数:400Hz,振幅:2V)の信号源を加えています.なお,周波数を変えているのは,信号を区別するためです.
図1の回路にv2,v3の信号源を加えている.
図4は,図3のv1,v2,v3の信号をin1,in2,in3のラベルでプロットしました.上段がv1の信号,中段がv2の信号,下段がv3の信号になります.伝わる信号を区別しやすいように,周波数と信号が発生する時間を変えています.この3つの信号を回路に加えて,図3のxからy,yからz,zからxへの信号の伝わり方をシミュレーションで確かめます.
伝わる信号を区別しやすいように周波数と信号が発生する時間を変えている.
●x,y,zの信号をプロットした結果
図5は,図3のx,y,zをプロットしたシミュレーション結果です.20ms~40ms間において,図4のv1の周波数が100Hzで振幅が2Vの信号が加わると,xの信号は式1より,図5の振幅が1Vの信号になります.そして,xの信号はyに伝わり,式3より,周波数が100Hzで振幅が1Vの信号になります.このときzの信号は,式5より,無信号の0Vになります.これは解答の(d)と同じになるのが分かります.
同じように,60ms~80ms間の,v2の周波数が200Hzで振幅が2Vの信号は,yからzに伝わって,振幅が1Vの信号になり,そのときxは無信号になります.最後に,100ms~120ms間の,v3の周波数が400Hzで振幅が2Vの信号は,zからxに伝わって,振幅が1Vの信号になり,そのときyは無信号になります.このように,隣のポートに信号を伝えるサーキュレータとして動作するのが分かります.
x,y,zの信号をプロットした.
xからy,yからz,zからxに信号が伝わるのが分かる.
●サーキュレータのアプリケーション例
図6は,2個のサーキュレータを使い,インターフォンに応用した例になります.v1は親機のマイクの信号,z1は親機のスピーカへ伝える信号,v2は子機のマイクの信号,z2は子機のスピーカへ伝える信号になります.図6では,親機のマイクの信号(v1)が,サーキュレータ1のxからyへ伝わり,サーキュレータ2のyからzに伝わって,子機のスピーカ(z2)への信号になります.逆に子機のマイクの信号(v2)は,サーキュレータ2のxからyへ伝わり,サーキュレータ1のyからzに伝わって,親機のスピーカ(z1)への信号になるインターフォンです.
v1は周波数が100Hzで振幅が2V,v2は周波数が200Hzで振幅が2Vの信号.
回路図が大きくなるので,図6の2つのサーキュレータ(Circulator1とCirculator2)は,図7と同じ回路を使用するサブ・サーキットにしています.図7のサブ・サーキットに対応するシンボルは,図6のCirculator1とCirculator2になります.
図8は図6のシミュレーション結果です.上段から順にv1の親機のマイクの信号,v2の子機のマイクの信号,z1の親機のスピーカへ伝える信号,z2の子機のスピーカへ伝える信号のプロットになります.図8より,親機のマイクの信号(v1)が子機のスピーカ(z2)へ伝わり,子機のマイクの信号(v2)が親機のスピーカ(z1)へ伝わるのが分かります.x1,z1,x2,z2の振幅は,v1とv2の振幅を1/2にしたものになります.
x1の信号はz2に伝わり,x2の信号はz1に伝わるのが分かる.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_030.zip
●データ・ファイル内容
Circulator Ex1.asc:図1の回路
Circulator Ex1.plt:図1のプロットを指定するファイル
Circulator Ex2.asc:図3の回路
Circulator Ex2.asc.plt:図3のプロットを指定するファイル
Circulator Application.asc:図6の回路
Circulator Application.plt:図6のプロットを指定するファイル
Circulator.asc:図7のサブ・サーキット
Circulator.asy:図7のシンボル
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