2種類の異なる抵抗を使用したD-Aコンバータ




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■問題
ディジタル回路

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,R-2Rラダー型と呼ばれる4ビットのD-Aコンバータです.D1~D4が4ビットのディジタル・データで,この信号をアナログ信号に変換します.B1~B4はバッファで,“H”レベルのとき5Vを出力し,“L”レベルのとき,0Vを出力します.D1からD4まで全て“L”レベルのとき,Out端子の電圧は0Vでした.ここで,D1が“H”レベルで,D2,D3,D4が“L”レベルとなったとき,Out端子の電圧は(a)~(d)のどれになるでしょうか.ただし,バッファ(B1~B4)の出力抵抗は無視できるものとします.


図1 R-2Rラダー型と呼ばれる4ビットのD-Aコンバータ
D1だけが“H”レベルとなったとき,Out端子の電圧はいくつ?

(a)0.156V (b)0.313V (c)1.25V (d)2.5V

■ヒント

 図1は,ディジタル・データをアナログ信号に変換するためのD-Aコンバータです.抵抗値が2倍異なる2種類の抵抗が,はしご状に接続されているため,R-2Rラダー型と呼ばれています.
 図1において,バッファ(B)を,バッファ出力が“L”レベルのときGNDに置き換え,バッファ出力が“H”レベルのとき5V電圧源に置き換えると,出力電圧は分圧回路の計算で求めることができます.
 そのとき,20kΩの抵抗を2本並列接続したときの抵抗値が10kΩであること利用すると,比較的簡単に計算できます.

■解答


(b)0.313V

 図1で,B1を5V電圧源に置き換え,B2~B4をGNDに置き換えてD点の電圧を計算します.D1~D4が“H”レベルのときを1とし,D1~D4が“L”レベルのときを0とすると,D点の電圧は,「D1*5/16+D2*5/8+D3*5/4+D4*5/2」という式で表すことができます.「D1=1」で「D2~D4=0」とすると,D点の電圧は「5/16=0.313V」となり,Out端子も同じ電圧となるため,Bが正解です.


■解説

●D1が“H”レベルのときの動作
 図2は,図1のR-2Rラダー型ADコンバータのバッファ部分をスイッチに置き換えたものです.スイッチの向きは,D1のみが“H”レベルで,D2~D4は“L”レベル相当としてあります.また,バッファの出力電圧はVddとしてあります.


図2 図1のバッファ部分をスイッチに置き換えた回路
D1のみが“H”レベルで,D2~D4は“L”レベルのときを表している

 Out端子の電圧を計算するため,まず,図2のA点から左の部分について考えます.図3の左側は,図2のA点から左を取り出したものです.図3の左側の回路は,図3の右側の回路のように10kΩの抵抗とVdd/2の電圧源に置き換えることができます.


図3 図2のA点から左を取り出したもの
10kΩの抵抗とVdd/2の電圧源に置き換えることができる.

 次に,図2のB点から左側を見た回路について考えます.図4の左側は,図3の右側の回路を使用し,図2のB点から左側を見た回路を取り出したものです.10kΩのR3と直列に10kΩの抵抗が接続されているため,合成抵抗は,20kΩになります.そのため,図4の左側の回路は,図4の右側の回路のように,10kΩの抵抗とVdd/4の電圧源に置き換えることができます.


図4 図3の右側の回路を使用し,B点から左側を見た回路
10kΩの抵抗とVdd/4の電圧源に置き換えることができる.

 図は省略しますが,同様に,図2のC点から左を見た回路を取り出し,等価回路に変換すると,10kΩの抵抗とVdd/8の電圧源に置き換えることができます.
 さらに,D点から左を見た回路を取り出し,等価回路に変換すると10kΩの抵抗とVdd/16の電圧源に置き換えることができます.
 つまり,D1のみが“H”レベルのとき,D点の電圧はVdd/16となり,Out端子も同じ電圧になります.
 D点の右側に同様な回路を追加してビット数を増加させた場合も,同様の手法で電圧を計算することが可能です.1ビット分の回路を追加するごとに,電圧は1/2になっていきます.

●D2が“H”レベルのときの動作
 次にD2のみが“H”レベルのときを考えてみます.図5は,図2の回路のスイッチの状態を,D2のみが“H”レベルのときのものに書き換えたものです.


図5 図2の回路のスイッチの状態を,D2のみが“H”レベルに書き換えた回路 D2のみが“H”レベルで,D1,D3,D4は“L”レベルのときを表している.

 図5は,R2がGNDに接続されているので,B点から左を見ます.ここで,図6は,図5のB点から左を取り出した回路です.R1とR2が並列になっているため,合成抵抗は10kΩとなり,R1とR2の合成抵抗が,10kΩのR3と直列になっているため,合成抵抗は20kΩになります.
 つまり,図6の左側の回路は,図6の中央の回路のように書き換えることができます.さらに,図6の中央の回路は,図6の右側の回路のように10kΩの抵抗とVdd/2の電圧源に置き換えることができます.これは,先に解説した,図2のA点から左の部分を見た,図3の右側の回路と等価になっています.


図6 図5のB点から左を取り出した回路
10kΩの抵抗とVdd/2の電圧源に置き換えることができる.

 次に,図5のC点から左を見た回路は,図は省略しますが,図4と同様の手法で,10kΩの抵抗とVdd/4の電圧源に置き換えることができます.さらに図5のD点から左を見た回路は,10kΩの抵抗とVdd/8の電圧源に置き換えることができます.つまり,D2のみが“H”レベルのとき,D点の電圧はVdd/8となり,Out端子も同じ電圧になります.
 同じ考え方で,D3のみが“H”レベルのときのD点の電圧はVdd/4となり,D4のみが“H”レベルのときのD点の電圧はVdd/2となりす.ここで,D1~D4が“H”レベルのときを1とし,D1~D4が“L”レベルのときを0とすると,Out端子の電圧(VOut)は式1で表すことができます.

・・・・・(1)

 式1からわかるように,VOutはディジタル・データ(D1~D4)の値に比例した電圧となっており,図1の回路はD-Aコンバータとして動作することが分かります.

●R-2Rラダー型D-Aコンバータの動作確認
 図7は,R-2Rラダー型D-Aコンバータをシミュレーションするための回路です.ディジタル・データ(D1~D4)を(0000)から(1111)まで変化させるため,Dフリップ・フロップを使って4ビットのカウンタを構成しています.


図7 R-2Rラダー型D-Aコンバータの動作確認
4ビットのカウンタを使用して, ディジタル・データ(D1~D4)を作っている.

 図8が,R-2Rラダー型D-Aコンバータのシミュレーション結果です.D2~D4は表示を見やすくするため,オフセット電圧を加算しています.D1のみが“H”レベルのときの出力電圧は0.313Vとなっており,ディジタル・データ(D1~D4)の値が大きくなるごとに,Out端子の電圧は大きくなっています.
なお,(D1~D4)がすべて“H”レベルのときの電圧は,4.687Vです.


図8 R-2Rラダー型D-Aコンバータのシミュレーション結果
D1のみが“H”レベルのときの出力電圧は0.313Vとなっている.

 以上,R-2Rラダー型D-Aコンバータについて解説しました.R-2Rラダー型D-Aコンバータは,使用している抵抗値が2種類だけで構成も簡単なため,ビット数を増やして高精度化しやすいという特長があります.
 なお,R-2Rラダー型D-Aコンバータには,反転アンプを使用したタイプもあります.こちらのタイプについては,「DACの働きをする反転加算器の出力電圧はいくら?」を参照してください.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_029.zip

●データ・ファイル内容
R-2R_DAC.asc:図7の回路
R-2R_DAC.plt:図8のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル

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