OPアンプを使った便利なクランプ回路
図1は,V2を使って,V1の交流信号に直流電圧を加えるクランプ回路です.V1の交流信号の振幅が1V,V2の直流電圧が3Vのとき,outの信号は,図2の(a)~(d)のどれでしょうか.
(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形
outの信号は,電圧源(V2)とOPアンプ(U1)とダイオード(D1)のクランプ回路により,V1の交流信号にC1の充電電圧が加わった信号になります.C1の充電電圧が落ち着いて直流電圧と見なせるとき,その電圧が何Vになるかを検討すると分かります.
V1の交流信号が,回路に加わると,outの交流信号の最低電圧は,電圧源(V2)とOPアンプ(U1)とダイオード(D1)のクランプ回路により3Vの電圧になります.このときのC1の充電電圧は,クランプした3Vの電圧からV1の負の振幅の-1Vを減じた電圧になり,「VC1=3V-(-1V)=4V」になります.outの信号は,V1とVC1は直列接続なので,V1の「0Vを中心に±1V」の交流信号に,C1の充電電圧4Vが加わった「4Vを中心に±1V」になります.この波形は,図2の(a)になります.
●ダイオードとコンデンサを使ったクランプ回路
図3は,OPアンプを使わず,電圧源(V2),ダイオード(D1),コンデンサ(C1)で構成した基本的なクランプ回路になります.図1のOPアンプを使ったクランプ回路は,図3を改良した回路なので,outへ直流電圧が加わる仕組みは同じになります.この解説では,まず先に,図3のoutは,V1の交流信号にC1の充電電圧が加わった信号になることを机上計算とシミュレーションで検討します.その後,図1について同様の回路解析を行い,図1と図3にあるC1の充電電圧の違いについて検討します.図1はダイオードの順方向電圧が,OPアンプの負帰還の効果により,無視できる回路になります.
●交流信号に直流電圧が加わる仕組み
図3を用いて,outの信号の机上計算をします.図3のV1の信号が正弦波のとき,式1の信号になります.ここで,Vmは,正弦波の振幅になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
outの最低電圧は,ダイオードの順方向電圧をVdとすると,「V2-Vd」でクランプされます.C1の充電電圧VC1は,outの電圧からV1の信号を減じた電圧なので,V1が負の振幅で最大になります.このときのVC1は,V1の負の振幅を-Vmとすると,式2になります.その後,時間が経過してV1が正の振幅になっても,VC1を保持するので,式2の充電電圧が直流電圧になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
V1とVC1は直列接続なので,outの信号は,式1の交流信号に式2の直流電圧が加わった信号になり,式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
このような仕組みで,V1の交流信号に直流電圧が加わります.
●直流電圧が加わる様子をシミュレーション
図4は図3のシミュレーション結果です.上段のV(in)はV1の交流信号です.中段は,「V(out)-V(in)」で計算したコンデンサ(C1)の充電電圧とoutの信号です.下段のI(C1)は,コンデンサの充電電流になります.図4のV1が負になると,コンデンサ(C1)に電流が流れて充電します.outは「V2-Vd」でクランプされ,充電電圧は先程の式2になります.コンデンサへの充電が落ち着くと,outの信号は式3になり,V1の交流信号にC1の充電電圧が加わる様子が確認できます.
outの信号はV1の交流信号にC1の充電電圧が加わった波形になる.
●OPアンプを使ったクランプ回路
図1は,図3にOPアンプを加えたクランプ回路になります.R1は,回路の入力インピーダンスを高くする効果と,C1の充電電流が過大にならないように保護して回路を安定にする抵抗になります.図3の検討と同じように,図1のoutはV1の交流信号にC1の充電電圧が加わった信号になるのを机上計算します.
●ダイオードの順方向電圧を無視でき便利
図1のV1の信号が正弦波のとき,図3と同じようにV1は式1の信号になります.図1のoutの最低電圧は,OPアンプの反転端子と非反転端子はバーチャル・ショートで同じ電圧と見なせるので,V2でクランプされます.C1の充電電圧(VC1)は,outの電圧からV1の信号を減じた電圧なので,V1が負の振幅で最大になります.このときのVC1は,V1の負の振幅を-Vmとすると,式4になります.その後,時間が経過してV1が正の振幅になっても,VC1を保持するので,式4の充電電圧が直流電圧になります.式2の充電電圧と式4のの充電電圧の違いは,式4にはダイオードの順方向電圧(Vd)が無いことです.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
V1とVC1は直列接続なので,outの信号は,式1の交流信号に式4の直流電圧が加わった信号になり,式5になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式5へ,図1の「V2=3V」,「Vm=1V」を入れると「V2+Vm=4V」なので,V1の交流信号に直流電圧4Vを加えた信号になります. このように図1のOPアンプを使ったクランプ回路は,バーチャル・ショートによってダイオードの順方向電圧(Vd)を無視でき便利で,outの直流電圧はV2とVmで決まります.ダイオードの順方向電圧は温度や流れる電流で変わるので,これらの変化がoutに与える影響を無くすことができます.
●OPアンプを使ったクランプ回路のシミュレーション
図5は,図1のシミュレーション結果です.図4と同じように,上段のV(in)は,V1の交流信号です.中段は,「V(out)-V(in)」で計算した,コンデンサ(C1)の充電電圧とoutの信号です.下段のI(C1)はコンデンサの充電電流になります.図1のV1が負になると,コンデンサ(C1)に電流が流れて充電します.outはバーチャル・ショートのV2でクランプされ,充電電圧は式4になります.コンデンサへの充電が落ち着くと,outの信号は式5になり,V1の交流信号に直流電圧が加わる様子が確認できます.
C1の充電電圧はV2とVmで決まり,Vdは無視できる.
●トリマで直流電圧を調整する回路
図6は図1の応用回路で,OPアンプの非反転端子に加える電圧を半固定抵抗器(トリマ)で変えて,outの直流電圧を調整する回路になります.C2は非反転端子の電圧を安定化します.U2のOPアンプはユニティ・ゲイン・バッファで,outの後段につく回路の影響が,前段のOPアンプを使ったクランプ回路に及ばないようにします.トリマの調整は,R2とR3のn値を変えています.
トリマで非反転端子の電圧を変えてoutの直流電圧を調整する.
図7は,図6のシミュレーション結果です.トリマのn値が0.4,0.5,0.6をプロットしました.「n=0.4」のとき,非反転端子は-3Vになり,outはV1の信号に直流電圧-2Vを加えた信号になります.このプロットは図2の(c)と同じになります.「n=0.5」のとき,非反転端子は0Vになり,outはV1の信号に直流電圧1Vを加えた信号になります.「n=0.6」のとき,非反転端子は3Vになり,図2の(a)と同じになります.このように,V1の振幅が同じ交流信号を,トリマで非反転端子の電圧を変えて,outの直流電圧を調整できます.
以上のように,OPアンプを使ったクランプ回路は,ダイオードの順方向電圧を無視できます.ここではシミュレーションしませんでしたが,図1のダイオードの向きを反対にすると,図2の(b)の波形になります.添付の回路を修正して,outの波形を確認してみてください.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_028.zip
●データ・ファイル内容
Active Clamp.asc:図1の回路
Active Clamp.plt:図1のプロットを指定するファイル
Basic Clamp.asc:図3の回路
Basic Clamp.plt:図3のプロットを指定するファイル
Active Clamp DC adjustment.asc:図6の回路
Active Clamp DC adjustment.plt:図6のプロットを指定するファイル
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