単電源OPアンプを使ったAC-DCコンバータ
図1は,単電源OPアンプ(U1,U2)を使った,交流を直流に変換するAC-DCコンバータです.outはv1の交流電圧に比例した直流電圧になります.v1の交流は,振幅が1Vの正弦波のとき,outの直流電圧は(a)~(d)のどれでしょうか.ただし,R6とC1の時定数は,v1の周期より十分大きいものとします.
outの直流電圧は(a)~(d)のどれ?
(a) 0.5V (b) 1.0V (c) 1.5V (d) 2.0V
図1のxの信号は,v1の交流を整流した全波整流の信号になります.zの信号は,xの信号を非反転アンプで増幅した全波整流の信号になります.outは,zの信号をR6とC1のフィルタで平滑した直流電圧になります.この回路動作より,zの全波整流の振幅を求め,その信号が平滑回路を通過した後の直流電圧を検討すると分かります.
図1は「全波整流回路」「非反転アンプ」「平滑回路」の3つのブロックからなるAC-DCコンバータです.まず,xの信号は,v1の正の半波と負の半波の両方で,振幅が0.5Vの全波整流信号になります.次に,zの信号は,xの信号を非反転アンプで増幅した信号なので,振幅が1.572Vの全波整流信号になります.最後に,outの信号は,zの全波整流信号をR6とC1のフィルタで平滑した直流電圧になります.平滑後の電圧は,zの振幅に2/πを乗じた電圧なので1.001Vになります.それで,正解は(b)になります.
●3つのブロックからなるAC-DCコンバータ
図1のAC-DCコンバータは,v1の交流信号をR1,R2,R3,U1の「全波整流回路」で整流します.全波整流の信号は,R4,R5,U2の「非反転アンプ」で増幅し,R6,C1の「平滑回路」で直流電圧になります.このように,図1は3つのブロックからなるAC-DCコンバータのシステムになります.
今回は,単電源OPアンプ1個で作る全波整流回路の動作と,非反転アンプで増幅した全波整流信号を平滑回路で直流にしたときの電圧について解説します.
●単電源OPアンプ1個で作る全波整流回路
図2は,図1のR1,R2,R3,U1で構成された,単電源OPアンプ1個で作る全波整流回路を抜き出した回路です.入力のv1が,振幅1Vの正弦波で,出力がxになります.図2を使い,v1が正の半波と負の半波のときの回路動作より,xの全波整流回路出力の振幅を調べます.
xの出力振幅を調べる.
▼v1が正の半波の場合
図2のv1が,正の半波のとき,単電源OPアンプの反転端子に正の電圧が加わります.単電源OPアンプの出力(y)は,負の電圧にならないので,グラウンド(0V)とみなせます.このとき,xの信号(vx)は,v1を「R1+R2」とR3で分圧した信号なので,式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1に「R1=20kΩ,R2=10kΩ,R3=30kΩ,v1=1V」を代入すると,xの振幅は「vx=0.5V」の正の半波になります.
▼v1が負の半波の場合
v1が負の半波のとき,R1,R2,R3,U1は反転アンプになります.それで,yの信号(vy)は式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2に「R1=20kΩ,R2=10kΩ,R3=30kΩ,v1=-1V」を代入すると,yの振幅は「vy=2V」の正の半波になります.
yの振幅が「vy=2V」の正の半波のとき,単電源OPアンプに負帰還がかかります.負帰還がかかった反転端子はバーチャル・グラウンドになります.それで,xの信号はyの信号をR2とR3で分圧した信号になります.xの信号は,式2とR2とR3より,式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式3へ「R1=20kΩ,R2=10kΩ,v1=-1V」を代入すると,xの振幅は「vx=0.5V」の正の半波になります.これで,図2は正の半波と負の半波の両方で,vxの振幅が0.5Vの正の半波になり,v1の振幅を0.5倍にした全波整流回路になります.
●全波整流回路のシミュレーション
図3は,図2のシミュレーション結果です.上段がv1の交流信号,中段がyの信号,下段がxの信号をプロットしました.図3のv1が正の半波のとき,yの電圧はグラウンド(0V)になります.yがグラウンドなので,式1で検討したように,v1の振幅が1Vのとき,xの信号は振幅が0.5Vの正の半波になります.
次にv1が負の半波で振幅が-1Vのとき,式2で検討したように,yの信号は,振幅が2Vの正の半波になります.yの信号は振幅が2Vなので,式3で検討したように,xの振幅が0.5Vの正の半波になります.先程の机上計算と同じように,正の半波と負の半波の両方で,xの振幅が0.5Vの正の半波になり,図2の回路は,全波整流になることがシミュレーションで確認できます.
xは全波整流になる.
●outの直流電圧の机上計算
図1のoutの直流電圧は,zの全波整流の信号をR6とC1の平滑回路で,直流電圧にします.R6とC1の時定数が十分大きいとき,outの直流電圧は全波整流信号を平均した電圧と同じになります.ここでは図4のzの全波整流波形のプロットを使って,outの直流電圧(Vout)を机上計算します.
Voutは正の半波を平均した電圧になる.
図4の全波整流波形は,図1のv1の正弦波の1周期の時間をTとすると,式4に示した0~T/2区間の正の半波を繰り返す信号になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
ここで,式4のVmは,全波整流波形の振幅になります.具体的には,Vmの振幅は,式1と式3で検討したxの振幅「vx=0.5V」を非反転アンプのゲインで増幅したものなので,式5になります.
・・・・・・・・・・(5)
図4の0~T/2区間の平均した電圧は,斜線で示した正の半波の面積と,青で示した四角形の面積を等しくするVoutになります.斜線で示した正の半波の面積は式6になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
青で示した四角形の面積は,式7になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
式6と式7が等しいとき,Voutは式8になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
「ωT=2π」なので,式8は式9になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
式9に式5の「Vm=1.572V」を入れると,outの直流電圧は「Vout=1.001V」になります.T/2以降も同じ正の半波が繰り返されるので,outの直流電圧が続くことになります.
●AC-DCコンバータのシミュレーション
図5は,図1のシミュレーション結果です.上段がv1の交流信号,中段がzの信号,下段がoutの信号をプロットしました.zの振幅は,xの振幅を非反転アンプのゲインで増幅した式5になります.outは,式9で検討したように,直流電圧が1Vになるのがシミュレーションで確認できます.
v1の入力信号,zの信号,outの信号をプロットした.outはvzを平滑した直流1Vになる.
以上,単電源OPアンプを使ったAC-DCコンバータについて解説しました.図1は式2で検討したように,yの信号がv1の信号の2倍になります.このため,正常に動作するv1の振幅の上限は,yの振幅が単電源OPアンプの出力電圧範囲内になるv1になります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_026.zip
●データ・ファイル内容
AC to DC Converter:図1の回路
AC to DC Converter.plt:図1のプロットを指定するファイル
Full Wave Rectifier.asc:図2の回路
Full Wave Rectifier.plt:図2のプロットを指定するファイル
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