単電源OPアンプを使った全波整流回路
図1は,単電源OPアンプ(U1,U2)を使った全波整流回路です.v1の交流信号を整流してoutから出力します.v1の振幅が1Vの正弦波のとき,outが1Vの全波整流になるR1とR2の抵抗は(a)~(d)のどれでしょうか.
全波整流になる抵抗は(a)~(d)のどれでしょうか.
(a) R1=10kΩ,R2=20kΩ
(b) R1= 5kΩ,R2=10kΩ
(c) R1=20kΩ,R2=10kΩ
(d) R1=10kΩ,R2=10kΩ
単電源OPアンプの特徴は,反転端子と非反転端子の電圧がグラウンド(0V)まで低くなっても動作します.この特徴より,U1とU2の非反転端子と反転端子はグラウンド,またはバーチャル・グラウンドでも回路は動きます.それを前提にして,v1が正の半波と負の半波のときの2つの回路動作より,outの振幅が1Vの全波整流になるR1とR2を検討すると分かります.
図1の全波整流回路は,交流信号(v1)を負帰還アンプ(R1,R2,U1)で増幅し,outの信号になります.図1は,U2の非反転端子のグラウンド(0V)を境に,v1が正の半波と負の半波で,xの電気的な状態が切り替わります.この切り替わりにより,負帰還アンプは2通りの動作になります.
v1が正の半波のとき,D1が非導通になってOFFになります.D1がOFFになると,U2のOPアンプ出力は,xから電気的に切り離されます.このときの負帰還アンプは,非反転アンプと反転アンプを重ね合わせた動きになり,outがR1とR2に関係なく「vout=v1」になります.「vout=v1」なので,v1が正の半波のとき,outはv1と同じ振幅の正の半波になります.
v1が負の半波のとき,D1が導通になってONになります.D1がONになると,U2のOPアンプに負帰還がかかり,xの電圧はバーチャル・グラウンドになります.xの電圧がバーチャル・グラウンドなので,負帰還アンプは,反転アンプになり,outが「vout=-(R2/R1)v1」になります.v1が負の半波のとき,outをv1と同じ振幅の正の半波にするには,「R1=R2」の関係にすると「vout=v1」になります.この検討より,R1とR2が同じ抵抗になる(d)が正解になります.
●ダイオードのON/OFFで回路を切り替える
図1にあるxの電気的な状態は,D1のON/OFFで決まります.この状態を検討するため,図2は,図1からv1,R3,D1,U2を抜き出しました.ここでは図2を使い,v1が正の半波と負の半波の2通りで,xの電気的な状態を調べます.
v1が正の半波でD1はOFF,v1が負の半波でD1はONになる.
最初に,v1が正の半波のとき,U2の反転端子が正の電圧,非反転端子がグラウンドなので,U2の出力はグラウンドに近い電圧まで低くなります.この状態は,D1に逆方向の電圧がかかるので,D1が非導通になって,OFFになります.D1がOFFなので,xとU2の出力は電気的に切り離され,xがv1の正の半波の状態になります.
次に,v1が負の半波のとき,U2の反転端子は,負の電圧に下がろうとします.このとき,非反転端子はグラウンドなので,U2の出力が正の電圧になり,D1が導通になってONになります.D1がONになると,U2に負帰還がかかり,xはバーチャル・グラウンドの状態になります.
このように,xは,v1が正の半波と負の半波で電気的な状態が切り替わります.この切り替わりで,図1の負帰還アンプ(R1,R2,U1)の動作を変えています.
●v1が正の半波のとき非反転アンプと反転アンプの両方を解析する
図3は,図1のv1が正の半波のときの回路になります.図1のD1がOFFのとき,xの電気的な状態はv1の信号になるので,回路解析しやすいように図1のv1を2つに分けて,反転アンプ側のv1と非反転アンプ側のv1としています.
非反転アンプと反転アンプの両方になる.
図3のoutは,反転アンプ側のv1を増幅した信号と,非反転アンプ側のv1を増幅した信号の和になります.この解析は重ね合わせの理を使うと便利です.重ね合わせの理は,複数個ある電圧源,電流源を1つ残して各々回路解析し,その結果を重ねる(解を加え合わせる)ことにより回路解析します.回路の電圧源や電流源を1つ残すとき,他の電圧源をショート,他の電流源をオープンにして計算します.
図3では,2つのv1があるので,最初に反転アンプ側のv1を残し,非反転アンプ側のv1をショートします.このときの図3は反転アンプになるので,出力電圧vout1は式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
次に,非反転アンプ側のv1を残し,反転アンプ側のv1をショートします.このときの図3は非反転アンプになるので,出力電圧vout2は式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式1と式2を重ねる「vout=vout1+vout2」と,図3の出力電圧voutは式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式3より,図3はv1が正の半波のとき,R1とR2に関係なくoutはv1と同じ振幅の正の半波になります.
●v1が負の半波のとき反転アンプになる
図4は,図1のv1が負の半波のときの回路になります.図1のD1がOFFのとき,xの電気的な状態は,バーチャル・グラウンドになるので,xをGNDに接続しています.
Xはバーチャル・グラウンドなので,反転アンプになる.
図4は,反転アンプになるので,出力電圧voutは式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式4を「R1=R2」の関係にすると式5になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
このように,図4はv1が負の半波のとき,R1とR2を同じ抵抗にすると,outはv1と同じ振幅の正の半波になります.
●全波整流回路のシミュレーション
図5は,図1のシミュレーション結果です.上段がv1の交流信号,中段がxの信号,下段がoutの信号をプロットしました.図5の0ms~5ms間のv1が正の半波のとき,xはv1と同じ正の半波になります.outは,式3で検討したように,v1と同じ振幅の正の半波になります.次に,5ms~10ms間のv1が負の半波のときxはバーチャル・グラウンドなので0Vになります.outは,式4と式5で検討したように,「R1=R2=10kΩ」なので,v1と同じ振幅の正の半波になります.このように,v1の交流信号の1周期になる0ms~10ms間では,正の半波と負の半波の両方で,outは振幅が1Vの全波整流になるのが分かります.v1の交流信号の2周期以降もこの動作は繰り返し続きます.
outは全波整流になる.
●両電源OPアンプを使うと全波整流にならない
ここでは,図1の単電源OPアンプを両電源OPアンプに換えるとどうなるかをシミュレーションしてみます.図6は,図1のU1,U2のOPアンプを両電源OPアンプ(LT1001)に変更した回路で,「R1=R2=10kΩ」です.電源は,+10Vの単一電源にしました.両電源OPアンプはグラウンドを基準にV+に正の電源,V-に負の電源を加えて使うのが一般的ですが,例えば±5Vの両電源を,+10Vの単一電源のようにしても使えます.注意しなければならないのが,両電源OPアンプを単一電源で使うとき,0Vの入力電圧を扱えないことです.
図7は,図6のシミュレーション結果です.上段がv1の交流信号,中段がxの信号,下段がoutの信号をプロットしました.両電源OPアンプの入力は,0Vを扱えないので,xの電圧はバーチャル・グラウンドの0Vになりません.このためxの電気的な状態は単電源OPアンプと異なり,outは全波整流として動作しないことが分かります.両電源OPアンプで全波整流回路を作るとき,過去のメルマガ「OPアンプを使った全波整流回路」のような回路にします.
両電源OPアンプに換えるとoutは全波整流にならない.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_024.zip
●データ・ファイル内容
Full wave Rectifier using Single Supply Opamp:図1の回路
Full wave Rectifier using Single Supply Opamp.plt:図1のプロットを指定するファイル
Full wave Rectifier using Dual Supply Opamp.asc:図6の回路
Full wave Rectifier using Dual Supply Opamp.plt:図6のプロットを指定するファイル
■LTspice関連リンク先
(01) LTspice ダウンロード先
(02) LTspice Users Club
(03) LTspice メール・マガジン全アーカイブs
(04) ◆LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(05) ◆LTspiceアナログ電子回路入門アーカイブs
(06) ◆LTspice電源&アナログ回路入門アーカイブs
(07) ◆IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(08) ◆オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(09) ◆LTspiceエデュケーショナル・ファイルで学ぶアナログ回路アーカイブs
(10) ◆LTspiceドット・コマンドから学ぶアナログ回路アーカイブs