シュミット・トリガを使用した発振回路




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■問題
ディジタル回路

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,CMOSシュミット・トリガ・インバータを使用した発振回路です.電源電圧が5Vで,OUT端子には,振幅5Vの矩形波が出力されます.使用しているCMOSシュミット・トリガ・インバータは,出力がLow("L")になるしきい値電圧が3Vで,High("H")になるしきい値電圧が2Vとなっています.この回路の発振周波数に最も近いのは,(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 シュミット・トリガ・インバータを使用した発振回路
この回路の発振周波数は?

(a) 159Hz (b) 318Hz (c) 636Hz (d) 1.23kHz

■ヒント

 まず,発振しているときのA点の電圧波形がどのようになるか考えます.その波形とR1,C1の関係から,発振周波数を計算することができます.このとき,R1を定電流源に置き換えて近似計算すると,比較的簡単に求められます.

■解答


(d) 1.23kHz

 R1を定電流源に置き換えると「発振周波数(fOSC)=VDD/(4*(VTH-VTL)*R1*C1)」と近似計算できます.
 ここで,シュミット・トリガ・インバータの出力が,"H"のときの電圧を「VDD」,"H"から"L"となるしきい値電圧を「VTH」,"L"から"H"となるしきい値電圧を「VTL」とします.
 式に数値を代入すると,fOSC=5/(4*(3-2)*1k*0.1μ)=12.5kとなり,(d)の1.23kHzが最も近い値となります.


■解説

●シュミット・トリガ・インバータの動作
 シュミット・トリガ・インバータは,しきい値電圧にヒステリシスを持っており,出力が,"L"となるしきい値電圧と"H"となるしきい値電圧が異なっています.
 図2は,LTspiceに内蔵されているシュミット・トリガ・インバータ(schmtinv)の特性をシミュレーションするための回路です.このシュミット・トリガ・インバータを使用するときは,シンボルを右クリックしてValueの欄に特性を指定するパラメータを記入します.
 図2中には,「Vhigh=5V Vt=2.5V Vh=0.5V Td=10n」と記入してあります.「Vhigh=5V」で出力振幅を指定し,「Vt=2.5V」でしきい値電圧の中央値を指定します.そして「Vh=0.5V」で中央値に対するヒステリシス幅を0.5Vと指定します.「Td=10n」は出力が変化するまでの遅延時間です.
 このように,指定することで,出力が"L"となるしきい値電圧が3Vで,"H"となるしきい値電圧が2Vになります.入力には,0Vから5Vに変化し,再び0Vになる信号を加えます.


図2 シュミット・トリガ・インバータ(schmtinv)の特性をシミュレーションするための回路
Valueの欄に特性を指定するパラメータを記入する.

 図3は,シュミット・トリガ・インバータのシミュレーション結果です.出力が,"L"となるしきい値電圧は3Vで,"H"となるしきい値電圧が2Vになっていることが分かります.


図3 シュミット・トリガ・インバータ(schmtinv)のシミュレーション結果

●シュミット・トリガ・インバータを使用した発振回路の動作
 図4は,シュミット・トリガ・インバータを使用した発振回路の等価回路図と出力波形です.シュミット・トリガ・インバータの出力が,"H"のときの電圧を「VDD」,"H"から"L"となるしきい値電圧を「VTH」,"L"から"H"となるしきい値電圧を「VTL」とします.
 A点の電圧が0Vのとき,スイッチ(S1)は電源(V1)側に接続されています.すると,コンデンサ(C1)は抵抗(R1)によって充電され,A点の電圧は上昇していきます.  A点の電圧がVTLになると,スイッチ(S1)はGND側に接続されます.すると,C1はR1によって放電され,A点の電圧は減少していきます.A点の電圧がVTLになるとS1は再びV1側に接続され,A点の電圧は上昇していきます.この動作を繰り返すことで発振が継続することになります.


図4 シュミット・トリガ・インバータを使用した発振回路の等価回路図と波形

●発振回路の発振周波数の計算
 次に,この発振回路の発振周波数がいくつになるか計算してみます.最初にT1を求めます.図4の放電期間のA点の電圧(VA)は,時間をtとすると,式1で表すことができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 VAがVTLと等しくなったときの時間をT1とすると,式1 は式2のように変形できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 さらに式2は,式3のように変形することができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式3からT1を求めると式4になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 次にT2を求めます.充電期間のA点の電圧の時間的変化は式5で表すことができます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

 VAがVTHと等しくなったときの時間をT2とすると,式5は式6のように変形できます.

・・・・・(6)

 さらに,式6は式7のように変形できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 式7からT2を求めると,式8になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)

 T1とT2(式4と式8)より,発振周波数(fOSC)は式9のように計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・(9)

 図1の数値を当てはめると,発振周波数は式10 のように1.23kHzになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)

●「解答」で示した近似計算
 抵抗とコンデンサの充放電として計算すると上述のように,やや煩雑な計算が必要です.そこで,定電流源によるコンデンサの充放電に近似して考えると,「解答」で示した,もう少しシンプルな近似計算ができます.
 まず,抵抗にVDD/2の電圧が印加されたときの電流を充放電電流(IR)とします.IRは式11で計算できます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)

 IRを使用すると,T1,T2は式11のように表わされます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(12)

 式11,式12より発振周波数を求めると,式13になります.

・・・・・・・(13)

 図1の数値を代入して計算すると,式14のように1.25kHzとなり,近似計算でも式10に近い値が得られます.

・・・・・・(14)

●発振回路のシミュレーション
 図5は,図1のシュミット・トリガ・インバータを使用した発振回路をシミュレーションするための回路です.


図5 図1をシミュレーションするための回路

 図6図5のシミュレーション結果です.A点の電圧の最大値は3Vで最小値は2Vとなっています.また1周期の時間は811μsとなっており,発振周波数は1.23kHzと式10で計算した値と同じになっています.


図6 図5のシミュレーション結果
発振周波数は1.23kHzになっている.

 以上,シュミット・トリガ・インバータを使用した発振回路について解説しました.シュミット・トリガ・インバータを使用すると,非常に簡単にクロック信号を作ることができます.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_023.zip

●データ・ファイル内容
Schmitt_INV.asc:図2の回路
Schmitt_INV.plt:図3のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
Schmitt_trigger_OSC.asc:図5の回路
Schmitt_trigger_OSC.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル

■LTspice関連リンク先


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