単電源OPアンプを使った半波整流回路
図1は,単電源OPアンプを使った半波整流回路で,V1の交流信号を整流してoutから出力します.V1の振幅が1Vの正弦波のとき,outの波形として正しいのは図2の(a)~(d)のどれでしょうか.ただし,図1の電源は+5Vの正の電源が1つです.
V1は振幅が1Vの正弦波.
正しいのはどれでしょうか.
(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形
回路の電源は,+5Vの正の電源であることから,V1の交流の正側と負側のどちらをoutから出力するかを検討して波形を絞り込みます.絞り込んだ波形で,回路のゲインによりoutの振幅は何Vになるかを検討すると分かります.
回路の電源は,+5Vの正の電源であることから,outは負の電圧にはならず,正の電圧になります.このことから,図2の波形で負の電圧になる(c)と(d)は消え,正の電圧になる(a)と(b)のどちらかになります.
次に,図1は,反転アンプなので,回路のゲインはR1とR2の抵抗比で決まり,「G=-2倍」になります.このゲインより,V1が-1Vの振幅のとき,outの振幅は+2Vの正の電圧になるので,正解は(a)の波形になります.このように,図1はV1の負側の振幅のみを増幅してoutから正の電圧で出力する,反転型の半波整流回路になります.
●単電源OPアンプについて
OPアンプの種類には,単電源OPアンプと両電源OPアンプがあります.単電源OPアンプは正の電源が1つのとき,入力電圧範囲にグラウンド(0V)が含まれます.一方,両電源OPアンプは正の電源が1つでも動作しますが,入力電圧範囲にグラウンドが含まれないという違いがあります.
図1は単電源OPアンプの入力電圧範囲にグラウンドが含まれることと,正の電源は1つなので出力は負の電圧にならないことを利用した半波整流回路になります.
●入力電圧範囲にグラウンドが含まれたときの動作
入力電圧範囲にグラウンド(0V)が含まれること(入力電圧範囲が0Vでも使用できる)について,言葉では分かりづらいところがあるので,図3の回路のシミュレーションで調べた結果を用いて解説します.
図3は,単電源OPアンプを使った,入力と出力の値が同じになるユニティ・ゲイン・バッファです.回路の電源はV2の+5V,入力はV1になります.ここではDC解析でV1を-2Vから5V間の範囲で,1mVステップでスイープし,V1からoutまでの入出力特性を調べます.調べた入出力特性より,入力電圧範囲にグラウンドが含まれたときの動作はどうなるかを検討します.
ユニティ・ゲイン・バッファの入出力特性を調べる.
●単電源OPアンプは入力0Vで出力0Vになる
図4は,図3のシミュレーション結果です.V1からoutまでの入出力特性をプロットしました.ユニティ・ゲイン・バッファなので,負帰還が成り立って回路が正常に動作すると,非反転端子と反転端子はバーチャル・ショートになり,V1の電圧が非反転端子から反転端子に伝わり,outに現れます.図3の単電源OPアンプは入力電圧範囲にグラウンド(0V)が含まれるので,図4のoutの出力結果のように,V1が0Vのとき,outはほぼ0Vになります.ほぼ0Vとは,OPアンプの出力飽和電圧(数mV~数10mV)があるので,僅かに0Vからずれた電圧になります.これが単電源OPアンプの特徴です.
図3の単電源OPアンプを使ったユニティ・ゲイン・バッファのoutは,入力電圧(V1)が0Vを境にした整流回路になります.具体的には,入力が0Vより高い正の電圧で出力が応答し,出力電圧は「Vout=V1」になります.0Vより低い負の電圧では,出力電圧はほぼ「Vout=0V」になります.このような整流特性を反転アンプに応用したのが,図1の半波整流回路になります.
単電源OPアンプは入力電圧が0Vで出力がほぼ0Vになる.
●単電源OPアンプを使った半波整流回路の入出力特性
図5は,図1の特性を分かりやすく調べるめに,入力電圧(V1)を直流電圧源にした回路です.回路の電源はV2の+5Vです.図5を用いて単電源OPアンプを使った半波整流回路の動きを検討します.
V1を-2Vから5V間の範囲で,1mVステップでスイープする.
図5の非反転端子の入力バイアス電流が無視できるほど低いとすると,R3の電圧降下が無視でき,OPアンプの非反転端子はグラウンド(0V)とみなせます.単電源OPアンプは,入力電圧範囲にグラウンドを含むので,反転端子の電圧は非反転端子と同じのバーチャル・グラウンド(0V)になります.反転端子がバーチャル・グラウンドなので,V1が0VのときR1とR2に電流が流れず,outはほぼ0Vになります.このV1が0Vの状態を境に,回路の動きが変わります.
最初にV1が0Vより低い負の電圧のときを考えます.図5は,反転アンプなので,outは正の電圧になります.回路のゲインはR1とR2の抵抗比で決まり,入力電圧(V1)と出力電圧Voutの関係は式1になります.具体的な電圧で考えると,V1が-1Vのとき,outは+2Vの正の電圧になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
次に,V1が0Vより高い正の電圧のときを考えます.式1のV1を正にするとVoutは負になる計算になります.しかし,回路の電源は+5Vの正の電源しかないので,Voutは負の電圧にはなりません.このときのVoutは,回路の最低電圧であるグラウンドの電圧とほぼ等しくなり,式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
以上の机上計算の検討より,図5は,入力電圧(V1)が0Vを境にして,V1が負の電圧で出力が応答し,V1が正の電圧のときは出力がほぼ0Vになる整流特性を持つことが分かります.
●入出力特性のシミュレーション
図6は,図5のシミュレーション結果で,outまでの入出力特性と反転端子の電圧を調べた出力結果です.V1は,-2Vから5V間の範囲で,1mVステップでスイープしています.
図6のoutの出力結果は,先程の机上計算の検討のとおり,入力電圧(V1)が0Vの状態を境に回路の動きが変わります.V1が負の電圧のとき,OPアンプの反転端子はバーチャル・グラウンドになり,入力と出力の関係は式1になります.V1が正の電圧のときは,回路の最低電圧のほぼ0Vで一定になる式2の関係になります.このように,図5は反転型の半波整流回路になります.
入力電圧(V1)が負の電圧で出力が応答する半波整流特性になる.
●正弦波を入力したときの出力波形
最後に,入力を交流信号にして,問題の答え合わせをします.図7は,図1のシミュレーション結果です.V1の入力振幅が1Vの正弦波とoutの波形を出力しました.V1は0Vを中心に正負に振れる信号なので,V1が正のときoutはほぼ0Vになり,V1が-1Vの振幅とき,outは+2Vの振幅になります.図7のoutの波形は,解答の図2(a)になるのが分かります.
解答の図2(a)になるのが分かる.
単電源OPアンプを使った反転アンプは,入力電圧0Vを境にした反転型の半波整流回路になります.図1は反転アンプなので,入力インピーダンスはR1で決まります.R1を低くすると入力インピーダンスが低下するので,1MΩの高い抵抗を使用しています.ただし,抵抗を高くすると出力雑音も高くなるので注意してください.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_020.zip
●データ・ファイル内容
Half-Wave Rectifier Single Supply.asc:図1の回路
Half-Wave Rectifier Single Supply.plt:図1のプロットを指定するファイル
Unity Gain Buffer Single Supply.asc:図3の回路
Unity Gain Buffer Single Supply.plt:図3のプロットを指定するファイル
Half-Wave Rectifier Single Supply DC.asc:図5の回路
Half-Wave Rectifier Single Supply DC.plt:図5のプロットを指定するファイル
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