ミラー効果の有無で変わる差動アンプの特性
図1は,差動アンプの周波数特性を調べる回路です.出力(out)の位相とミラー効果の影響について正しいのは,表1の(a)~(d)のどの組み合わせでしょうか.
出力の位相 | ミラー効果の影響 | |
(a) | 反転 | 有り |
(b) | 反転 | 無し |
(c) | 非反転 | 有り |
(d) | 非反転 | 無し |
(a)の特性 (b)の特性 (c)の特性 (d)の特性
ミラー効果とは,トランジスタのベース・コレクタ間の接合容量が,回路のゲインで,キャパシタの容量が大きく見える作用になります.
ヒントは,差動アンプのin端子とout端子の位相の関係とa点から回路側を見た等価容量が周波数特性に与える影響を検討すると分かります.ミラー効果の影響が有るとコーナ周波数は低くなり,影響が無いとコーナ周波数が高くなります.
まず,in端子とout端子の位相の関係について調べます.Q1とQ2は,差動アンプなので,in端子の信号がQ1のベースに加わってQ2のベース電圧より高くなると,Q1のコレクタ電流が高くなり,逆にQ2のコレクタ電流が低くなります.このときoutの電圧はQ1のコレクタ電流と電源に繋がるR1の電圧降下になるので,outの電圧は低くなります.このようにin端子の電圧とout端子の電圧は反転の関係なので,(c)と(d)は正解ではなく,(a)と(b)のどちらかになります.
次に,a点から回路側を見たときの等価容量を検討します.Q1のコレクタと電源(V+)間にR1があるので,in端子からout端子間では反転アンプのゲインを持ちます.反転アンプのゲインがあるとき,ミラー効果により,ベース・コレクタ間の接合容量(Cbc)を(1+G)倍にした大きな等価容量がa点に見えます.コーナ周波数はR3とa点に見える大きな等価容量で決まるので,図1はミラー効果の影響を受けてコーナ周波数が低くなります.以上より,正解は,(a)の出力の位相が反転し,コーナ周波数がミラー効果の影響を受けるとなります.
●ミラー効果の利点と欠点
ミラー効果の利点は,小さなキャパシタの容量を回路のゲインで大きな容量に見せるときで,フィルタ回路や負帰還回路の位相補償に用いられます.欠点は,アンプの場合,ベースに直列に入る信号源抵抗とミラー効果による大きな容量でロー・パス・フィルタになり,コーナ周波数が低下して高い周波数まで動作しないことになります.図1の差動アンプは,ミラー効果の影響が有るので,コーナ周波数が低い反転アンプになります.高い周波数まで使うアンプのときは,ミラー効果による影響を少なくする回路の工夫が必要になります.
ここでは,「ミラー効果の仕組み」や「「.op解析」を使ったトランジスタ内部の接合容量の調べ方」,「ミラー効果の影響が有る差動アンプと無い差動アンプ」について解説します.
●ミラー効果の仕組み
図2のエミッタ接地アンプを例に,ミラー効果を解説します.図2(a)は,トランジスタ内部のベース・コレクタ間の接合容量(Cbc)を回路図上に表しました.ミラー効果はベース端子からトランジスタ側を見ると,図2(b)のようにCbcが (1+G)倍した等価容量に見えます.この等価容量に見える理由は,図2(a)のベース端子にviの信号を加えるとコレクタは位相が反転したGviの電圧なり,Cbcの両端の電圧は(1+G)倍したviになります.CbcがベースからGNDに接続されているときと比べると,(1+G)倍した交流電流がCbcに流れることになるので,等価的にCbcを(1+G)倍した等価容量なります.
(a)ベース・コレクタ間にCbcの接合容量がある回路
(b)ベースから見ると,Cbcを(1+G)倍した等価容量になる
●トランジスタの内部の接合容量
トランジスタは,P型とN型の半導体でできているので,ベース・コレクタ間の接合容量(Cbc)とベース・エミッタ間の接合容量(Cbe)があります.図3(a)のトランジスタの記号では,接合容量が分かりません.そこで,図3(b)の小信号π型等価回路を使って具体的な接合容量を用いると,周波数特性の検討ができます.図3(b)のCbcとCbeは,後述するLTspiceの「.op解析」で調べることができます.
Rpiはベース・エミッタ間の抵抗
Roはコレクタ・エミッタ間の出力抵抗
Gmはトランジスタの相互コンダクタンス
Cbcはベース・コレクタ間の接合容量
Cbeはベース・エミッタ間の接合容量
●ミラー効果の影響が有る差動アンプ
図1は,ミラー効果の影響が有る差動アンプの例です.コーナ周波数が低い反転アンプになります.コーナ周波数は,R3とa点から回路側を見たときの等価容量で決まります.
Q1は,コレクタと電源(V+)間にR1があるので,ゲインを持ちます.a点から回路側を見たときの等価容量は,図3(b)の小信号π型等価回路より,Cbe1とミラー効果による等価容量Cbc1(1+G)の和になり,大きな容量に見えます.
●接合容量を調べてコーナ周波数を机上計算する
図1のQ1のCbe1とCbc1は,LTspiceの「.op解析」で調べることができます.図4は図1の「.op解析」の結果になり,「Cbe1=46.0pF」,「Cbc1=4.81pF」になることが分かります.「Gm1=18.4mA/V」は回路のゲインを計算するのに使います.
「.op解析」でGm,Cbe,Cbcが分かる.
図1の回路のゲインは式1になり,「Gm1=18.4mA/V」と「R1=4.7kΩ」より,43倍のゲインになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
図1のa点のコーナ周波数を机上計算すると,R3とa点から回路側を見たときの等価容量によるロー・パス・フィルタのコーナ周波数なので,おおよそ式2になります.等価容量は「Cbc1(1+G)=211.6pF」になるので,「Cbe1=46.0pF」より大きくなり,コーナ周波数に影響を与えることが分かります.
・・・・・・・・・・・・・・(2)
●周波数特性のシミュレーション
図5は,図1のシミュレーション結果で,上段はa点の周波数特性,下段はoutの周波数特性をプロットしました.outの位相は180°ずれるので反転アンプになります.outのコーナ周波数とa点のコーナ周波数は同じで,式2の机上計算とも一致します.このように図1のコーナ周波数はR3とa点から回路側を見たときの等価容量で決まり,ミラー効果による等価容量がコーナ周波数に影響を与える結果になります.
反転アンプのゲインは32.7dB,コーナ周波数は620kHzになる.
●ミラー効果の影響が無い差動アンプ
図6は,ミラー効果の影響が無い差動アンプの例です.図1と比べると,R1の抵抗とout端子がQ2側へ移動しているので,outの位相は非反転になります.
R1とoutがQ2側へ移動している.
Q1は,コレクタが電源に繋がっており,ベースからコレクタのゲインがないのでCbc1のミラー効果はありません.Q2は,ベースがGNDになるので,ベース接地アンプとなり,同じくCbc2のミラー効果はありません.このように図6はミラー効果の影響が無い差動アンプになり,inからout端子まではコーナ周波数が高い非反転アンプになります.
●コーナ周波数が高い差動アンプのシミュレーション
図7は,図6のシミュレーション結果です.outの位相は0°なので非反転アンプになります.outのコーナ周波数は約3.9MHzになり,図5のミラー効果の影響が有るシミュレーション結果と比べると,高い周波数まで動作するアンプになります.
図5の周波数特性より高い周波数まで動作するアンプになる.
以上,ミラー効果が差動アンプに与える影響について解説しました.差動アンプに限らず,反転アンプの入力と出力間にある負帰還容量は,ミラー効果の影響で大きな等価容量に見えるので,コーナ周波数が低くなります.高い周波数まで動作させるアンプ回路は,カスコード回路やベース接地アンプを使う方法もあります.
関連する過去のメルマガもあります.カスコード回路については「カスコード回路の周波数特性として正しいのはどれ?」ベース接地アンプについては「ベース接地アンプのゲインとコーナ周の求め方」を参照ください.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_016.zip
●データ・ファイル内容
Mirror Effect.asc:図1の回路
Mirror Effect.plt:図1のプロットを指定するファイル
No Mirror Effect:図6の回路
No Mirror Effect.plt:図6のプロットを指定するファイル
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