2つのトランジスタで作る電圧制御電流源
図1は,PNPトランジスタ(Q1:2N2907)とNPNトランジスタ(Q2:2N2222)で作った電圧制御電流源です.電圧制御電流源は,V1の電圧を抵抗で電流に変換して,出力(ジャンパ端子)となるQ2のコレクタから電流を吸い込み,負荷電流(IRL)になります.図1のV1に直流2Vを中心に振幅が2Vの正弦波を加えたとき,負荷電流(IRL)の波形は,図2の(a)~(d)のどれでしょうか.ただし,Q1とQ2のベース・エミッタ間電圧は等しいとします.
正しいのはどれでしょうか.
(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形
負荷電流(IRL)の波形は,V1の正弦波に対して同相/逆相のどちらの関係になるか,また,負荷電流(IRL)の振幅は何mAになるかを検討すると分かります.
図1のQ1とQ2のベース・エミッタ電圧が等しいとすると,R2にV1の電圧がかかり,R2の電流はV1の振幅に応じて同相で変化します.負荷電流(IRL)はR2の電流と同じとみなせるので,V1と同相になります.この検討より,V1と逆相の電流波形である(a)と(c)は消えます.次に負荷電流(IRL)は,V1の「直流2Vを中心に振幅が2V」の信号をR2の1kΩで除算した電流なので,「直流2mAを中心に振幅が2mA」になります.この波形になるのは(d)になります.
●電圧制御電流源の机上計算
図3(a)は,図1のV1を2Vに固定した電圧制御電流源です.V1を固定しているので,図3(a)の波線内の回路は,図3(b)の電流源(I1)と同じ働きになります.ここでは図3(a)を使ってV1と負荷電流(IRL1)の関係について机上計算し,図3(b)の電流源(I1)と同じ電流になることを確かめます.
Q2のベース電圧(VB2)は,V1にPNPトランジスタのベース・エミッタ電圧(VBE1)を加えた電圧なので,式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
Q2のエミッタ電圧(VE2)は,Q2のベース電圧(VB2)からNPNトランジスタのベース・エミッタ電圧(VBE2)を減じた電圧なので,式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
PNPトランジスタとNPNトランジスタのベース・エミッタ電圧はほぼ等しいとすると,式2のエミッタ電圧(VE2)は式3の近似式になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
エミッタ電圧(VE2)は抵抗(R2)の両端にかかる電圧なので,式3のV1をR2で除算した電流がR2の電流です.そして,R2の電流はQ2のコレクタを介して負荷電流(IRL1)になります.この回路動作より,負荷電流(IRL1)は式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
これにより,図3(a)の負荷電流(IRL1)は,式4のV1をR2で除算した電流になるので,V1を制御電圧にした電圧制御電流源になります.図3(a)の具体的な負荷電流(IRL1)は,「V1=2V」,「R2=1kΩ」を使うと,「IRL1=2mA」になります.この検討より,図3(a)の波線内の回路は,図3(b)の電流源(I1)の2mAと同じになります.
なお,電圧制御電流源のQ2が動作するには,Q2のコレクタにかかる電圧VC2が必要になります.図3(a)の波線の外側でみると,VC2は,電源電圧(VCC1)から負荷抵抗(RL1)の電圧降下「IRL1RL1」を減じた式5になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
一方,波線の内側で見たとき,Q2が動作する最低のコレクタ電圧VC2は,Q2のエミッタ電圧(VE2)より高くしなければなりません.このことから,Q2のコレクターエミッタ間の飽和電圧をVSAT2とすると,式6の大小関係が必要になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式5と式6より,式7の大小関係が成り立つときにQ2コレクタに適切な電圧が加わり,電圧制御電流源が動作することになります.VSAT2は,トランジスタによって,約0.1V~0.3Vの範囲で変わります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
●V1を固定にしたときのシミュレーション
ここでは,図3(a)と図3(b)が同じ特性になるかシミュレーションで確かめます.シミュレーションは電流源の特性である「負荷が変化しても一定の電流になる」を調べます.具体的には,図3(a)の負荷抵抗(RL1)と図3(b)の負荷抵抗(RL2)を10Ω~2kΩ間を10Ωステップで変化させて,負荷電流(IRL1)と負荷電流(IRL2)を調べています.
図4は,図3(a)と図3(b)のシミュレーション結果で,負荷電流(IRL1)と負荷電流(IRL2)をプロットしました.このように2つの特性は,ほぼ同じになり,負荷抵抗(RL1)と負荷抵抗(RL2)が変化しても2mAの電流源になるのが確認できます.
図3(a)と図3(b)は,ほぼ同じ特性.
●V1をスイープしたときのシミュレーション
次に,図5の電圧制御電流源を用いて,電圧制御電流源の特性である「制御電圧により電流源の値が変わる」をシミュレーションで調べます.具体的には,図5のV1を0V~5V間を10mVステップでスイープしたとき,負荷電流(IRL)は式4の関係になるかを確認します.
V1の電圧は,0V~5V間を10mVステップでスイープしている.
図6がシミュレーション結果です.比較のため,Q1のベース電圧をV(in)とし,式4を使った「IRL=V(in)/1kΩ」の机上計算もプロットしました.図6より,シミュレーション結果と机上計算はほぼ一致し,V1の変化で負荷電流(IRL)が変化する電圧制御電流源になることが分かります.
シミュレーションと机上計算はほぼ一致している.
●V1に正弦波を加えたときのシミュレーション
最後に,図1のV1に正弦波を加えたときのRLの電流波形について調べて答え合わせをします.図7が図1のシミュレーション結果で,V1の正弦波はV(in)のプロット,RLの電流波形はI(Rl)のプロットになります.このようにV1とRLの電流波形は同相で変化します.負荷電流は,V1の「直流2Vを中心に振幅が2V」の信号をR2の1kΩで除算した電流なので,「直流2mAを中心に振幅が2mA」になり,図2(d)の波形が正解になります.
解答の(d)の波形になる.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_010.zip
●データ・ファイル内容
2Tr VCCS tran.asc:図1の回路
2Tr VCCS tran.plt:図1のプロットを指定するファイル
2Tr Current Source.asc:図3の回路
2Tr Current Source.plt:図3のプロットを指定するファイル
2Tr VCCS.asc:図5の回路
2Tr VCCS.plt:図5のプロットを指定するファイル
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