LEDに抵抗を接続する理由




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■問題
電子回路

ボーノ / buonoatsushi

 図1は,導電インクで太さの異なる4つの線を引き,汎用のチップLEDを点灯させる回路を作成したものです.それぞれの線の抵抗値を(a) 294Ω (b) 97Ω (c) 31Ω (d) 18Ωとしたとき,図2の負荷線で表されているのは(a)~(d)の何Ωでしょうか.


図1 導電インクを利用したLED点灯回路

(a) 294Ω (b) 97Ω (c) 31Ω (d) 18Ω



図2 図1のLED点灯回路の負荷線と動作点

■ヒント

 回路に流れる電流をI,ダイオードにかかる電圧をVd,電源電圧をE,抵抗をRとすると,負荷線は「I=E/R-Vd/R」で表せます.

※基礎知識の説明や実機デモをhttps://www.youtube.com/c/BuonoTVに投稿しています.ぜひそちらもご覧ください.

■解答


(a) 294Ω

 電流(I)をVdの関数と考えると,縦軸の接点はE/Rの項で表されるので「R=E/I=5V/17mA=294Ω」となります.横軸の接点は,VdがEと等しくなる点なので抵抗値によらず全て5Vとなります.


■解説

●LEDになぜ抵抗を接続するか
 LEDに抵抗を接続するのは半ば常識的に行われています.しかし,回路を学び始めた方から見ると,そもそもなんで抵抗が必要なのか?と疑問に思われる方が少なくないようです.結論を先にいうと,LEDに抵抗を接続するのは次の3つの理由からです.順に説明していきます.

 理由① LEDを保護するため
 理由② LEDの光量を安定させるため
 理由③ 電源を保護するため

●負荷線の描き方
 ここでは,理由①②を説明するために「負荷線」,「動作点」を利用して解説します.負荷線や動作点を使うと回路を少し異なった視点で捉えられ,回路を多角的に解析するのに便利です.
 図3は,図1のLED点灯回路の1つを回路図にしたものです.Eが電源電圧,Vrが抵抗(R)の電圧降下,VdがLEDの電圧降下(ダイオード電圧),Iが回路電流を表します.


図3 LED点灯回路の回路図

 各部の電圧は,キルヒホッフの第二法則(電圧則とも呼ばれます)より,式1となります.

E=Vd+RI ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 式(1)より,IをVdの関数で表すと式2となります.

I=E/R-Vd/R ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

 式2は,E/Rが切片,傾きが-1/Rの特性を持った1次式なので,図2の負荷線を引けます.図2では切片が17mAなので「E/R=17mA」になります.これに電源電圧の5VをEに代入すると「R=5V/17mA≒294Ω」が求められ,(a)が正解と分かります.

●抵抗を接続し動作点を低い側にシフトさせる
 負荷線の意味は,「回路に流れる電流(I)は,必ずこの線上のどこかに位置する」です.そして,その電流値を決めるのは,横軸であるダイオード電圧(Vd)です. 
 そこで,Vdの特性をグラフ上にプロットしてみます.図2に,今回使用しているLEDの順方向特性を示しました.順方向特性と負荷線の交点は,回路が動作している点で,動作点と呼ばれます.今回の例で言うと,VdがXV,Vrが(E-X)V,IがYAと図3から求められます.
 この負荷線の考え方を利用すると,グラフから色々見えてきます.図4は,図1の抵抗値と0Ωの負荷線をプロットしたものです.


図4 抵抗値による動作点の変化

 図4から,抵抗値が小さいほど負荷線の傾きが急峻になり,これにより,LED順方向特性との交点,動作点は電圧,電流共に徐々に大きい側にシフトしています.そして,抵抗値が0Ωの場合だと負荷線は直角となるため,極めて大きな電流が流れます.
 通常,汎用のチップLEDの定格電流は,数10mA~100mAのオーダですので,このように抵抗0Ωの状態だと,LEDを壊してしまう可能性が出てきます.よって,負荷線を緩やかにし,動作点を低い側にシフトして回路電流を抑制するのが,LEDに抵抗を接続する理由①のLEDを保護するためとなります.

●動作点が低いとLED光量が安定する
 動作点が低い側にシフトすると,電源電圧変動や温度変動に強い回路になる,という特性も押さえておくべきポイントです.
 図5は,電源電圧がΔVだけ変動したときの,抵抗値0Ωと294Ωの場合の負荷線を引いたものです.また,ΔVの変動が発生した際の回路電流の変動分をΔY1,ΔY2で表しています.
 この図を見ると,電圧変動量は同じであってもΔY1とΔY2の大きさには大きな差があり,抵抗が294Ωの場合,抵抗が0Ω,つまりLEDだけが接続された状態に比べて電流の変動が大幅に抑えられています.これは,LEDの順方向特性が線形ではなく,非線形だからです.


図5 電源電圧変動による動作点の変化

 図6は,温度変動によりLED順方向特性がΔVだけ変動した場合の,抵抗値0Ωと294Ωの負荷線を引いたものです.LEDは半導体素子で作られており,温度による影響を大きく受けるため同じ電圧をかけたとしても流れる電流には差が生じます.
 こちらも図5と同様に,順方向特性の変動量は同じであるにも関わらず,抵抗値が294Ωの場合の方が回路電流変動量(ΔY1)が大幅に抑えられています.


図6 環境温度変動による動作点の変化

 LEDは,電流に依存して光量が変動するため,可能な限り電流量を安定化させる必要があります.そして,電流変動は,電源電圧や温度変動によって引き起こされます.しかし,説明したように,抵抗を接続するとこれらの影響による電流変動を抑えられます.これが,LEDに抵抗を接続する理由②のLEDの光量を安定させるためとなります.

●LTspiceで動作点を確認する方法
 動作点について一通り説明したところで,LTspiceを使って具体的な動作点の位置を確認してみましょう.LTspiceではTransient解析やAC解析の他にもさまざまな解析モードが用意されてます.その1つが動作点解析です.
 LTspiceで動作点解析を行うには,回路を作成した上で,図7に示したようにシミュレーション・コマンド編集画面を出し,「DC op pnt」をクリック→「OK」をクリックで実行できます.


図7 動作点解析方法

 図8は,抵抗がない(=0Ω)場合の回路図と動作点解析の結果です.V(vd)と記載されているのがダイオード(D1)に印可されている電圧で,抵抗がないため電源電圧(V1)の電圧と等しくなっています.I(D1)がダイオード(D1)に流れている電流であり,0.5Aと汎用LEDとしては極めて大きな電流が流れてしまっています.


図8 抵抗がない場合の動作点解析結果

 図9は,294Ωの抵抗がある回路です.図9の回路で確認してみると,Vdが1.85V程度であり,I(D1)は10mAに制限されていることが確認できました.ここでは,デフォルトでLTspice内にインストールされているLEDを使用しました.必要に応じて,自分で使用しているLEDのモデルをインポートしてご利用下さい.


図9 抵抗がある場合の動作点解析結果

●電源電圧が変動した場合
 図8図9は,電源電圧や環境温度が一定の場合の動作点です.次に,これらが変動した場合の動作点解析を行ってみます.ここでは,「.op」コマンドに加え「.step」コマンドを併用しています.「.step」コマンドは複数の条件を同時に実行できるコマンドで,今回のように条件違いによる差分を効率良く確認できます.
 図10は,電源電圧が変動した場合の動作点の変化を確認するための回路です.ここでは同様の回路を3つ作成し,電源電圧のみを4.5V,5.0V,5.5Vに変えています.これで,それぞれの電源電圧での動作点を同時に解析することができます.例えば,5.5Vのときに流れる電流(I3)と,4.5Vのときに流れる電流(I1)の差分を計算できます.


図10 電源電圧変動時の動作点解析回路

 また,抵抗R1,R2,R3の値は{Res1}とし「.step」コマンドの中でその値を指定しています.「.step」の中身は,図11のようになっており,ユーザ定義変数Res1に対して,リスト内にある5つの条件の抵抗値(1e-6~294Ω)を代入しています.


図11 「.step」コマンドの使い方

 図10の回路を動作点解析した結果を図12に示します.横軸はRes1の抵抗値を表します.今回は電源電圧変動による動作点の変化を確認したかったので,I3とI1の電流値の差分とするために,グラフのプロットは-(I(V3)-I(V1))の計算式を入れています.最初の「-」は,電源の電流方向が回路図記号と逆向きに設定されているため,方向を合わせるために付けています.


図12 図10の回路の動作点解析結果

 図12によると,抵抗値が大きくなるほど電流値の差分が小さくなる事が確認できました.これは,LEDに10mAの電流を流したい場合,抵抗がない状態で電源電圧を調整するより,抵抗を接続して抵抗値で調整した方が,電源電圧変動による電流変動分は抑えられるということです.

●環境温度が変動した場合
 図13は,環境温度が変動した場合の動作点の変化を確認する回路です.図10と違い,使用する回路は1つで,その代わりに「.temp」コマンドを使用します.


図13 環境温度変動時の動作点解析回路

 「.temp」コマンドは,シミュレーションを行う環境温度を自由に設定できるコマンドです.「.temp」の後に環境温度を複数指定すると「.step」コマンドと同じように,それぞれの温度でシミュレーションを同時に実行してくれます.ここでは,17℃,27℃,37℃の3条件を指定しています.
 図14は,図13を実行した結果です.


図14 図13の回路の動作点解析結果

 グラフのプロットは-(I(V2)@3-I(V2)@1)としています.これは図15に示すように,3ステップ目(37℃の場合)の回路電流と1ステップ目(17℃の場合)の回路電流の差分を計算するという事を意味しています.


図15 図14のプロットの中身

 LTspiceでは,「@」の後にステップ番号を指定することで,任意のステップの結果だけを抜き出せます.
 図14によると,図12と同様に,抵抗値が大きくなるほど電流値の差分が小さくなっています.ここでもやはり,抵抗を接続した方が環境温度による電流変動を抑えられることが確認できました.

●電源や回路を保護
 LEDを点灯するための直流電源には,次のようなものが使用されます.しかし,どの場合も,流して良い最大の電流値(許容電流,定格電流)が定められています.

・アルカリ電池,ボタン電池等の1次電池
・リチウムイオンポリマー電池等の2次電池
・ACコンセントからスイッチングレギュレータで生成した5V
・5Vからリニアレギュレータで生成した3.3V

 許容された値以上の電流を流そうとすると,電源内部の破壊を引き起こしたり,内蔵された過電流検知機能が作動して出力を停止したりする可能性があります.
 そのため,LEDに抵抗を接続して電流を制限することは,電源の動作や回路そのものを保護する役割もあると言えます.これがLEDに抵抗を接続する理由③の電源を保護するためとなります.
 なお,LTspiceでは電圧源から無限に電流が供給できてしまうため,実際の世界で起きる電源側の不具合や挙動を予測するためには少し注意が必要です.電源側をシミュレーションする際は,単に電圧源を設置するのではなく,電源の中身をできるだけ正確に等価回路で表現し,各部の電力損失やピーク電流,実効値電流等を確認しましょう.

●導電インクについて
 今回の例題で使用した導電インクは,AgICと呼ばれるものを使用しています.AgICはお絵描き感覚で気軽に回路を作れるので,今回みたいな簡単な回路を手早く実装するのに最適です.
 通販サイトで誰でも購入できます.ご興味のある方は遊んでみて下さい.AgIC 回路マーカー&A6回路用紙5枚セット スタートセット


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_009.zip

●データ・ファイル内容
LED_lighting_circuit.asc:図8,図9の回路
LED_lighting_circuit_voltage_change.asc:図10の回路
LED_lighting_circuit_voltage_change.plt:図12のグラフを描画するためのファイル
LED_lighting_circuit_temperature_change.asc:図13の回路
LED_lighting_circuit_temperature_change.plt:図14のグラフを描画するためのファイル

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