フォトカプラによる信号伝送
図1は,フォトカプラ(PC817A)を使用して,絶縁した機器間でディジタル信号を伝送するための回路です.V1が信号源で,ピーク電圧5Vで1kHzの矩形波です.Out端子の出力信号は,しきいち電圧2.5Vの信号処理ICに入力されます.使用したフォトカプラのLEDの順電圧が1.2Vで,CTRを100%としたとき,正しく信号伝送できないのは,(a)~(d)のどれでしょうか.
CTRを100%としたとき,正しく信号伝送できないのは,(a)~(d)のどれでしょうか?
(a)の回路 (b)の回路 (c)の回路 (d)の回路
フォトカプラは,LEDとフォトトランジスタを対向してパッケージに封入したものです.LEDの発光により,絶縁した状態で信号を伝えることができます.フォトカプラのスペックのCTR(Current Transfer Ratio)は電流伝達率といい,LEDに流す電流とフォトトランジスタのコレクタ電流の比を%で表したものです.Out端子の出力電圧が,次段のしきいち電圧に達しないのはどれか?と考えれば答えは簡単に分かります.
(d)の回路のLEDに流れる電流(ILED)は,ILED=(5-1.2)/3.3k=1.15mAです.CTRが100%なので,フォトトランジスタのコレクタ電流(≒エミッタ電流)も1.15mAになります.そのため,R2に発生する電圧は,0.8Vとなり,信号処理ICのしきいち電圧に達していないので,信号伝送できません.
(a),(b),(c)の回路のLED電流は「ILED=(5-1.2)/680=5.6mA」で,フォトトランジスタの最大電流も5.6mAになります.これは,3.3kΩの負荷抵抗で5Vの電圧を発生させるのに必要な1.5mAよりも十分大きいので,問題なく信号伝送ができます.
●フォトカプラの構造と特性
フォトカプラは,図2のように,LEDとフォトトランジスタを対向して配置し,ひとつのパッケージに封入したものです.外側のパッケージのモールド樹脂は,光を通さない素材となっており,内部のLEDとフォトトランジスタの間は光が通過できるような素材で充填されています.
LEDとフォトトランジスタを対向して配置し,ひとつのパッケージに封入している.
LEDに電流を流すことで発光させ,その光をフォトトランジスタが受けることで,フォトトランジスタのベースに電流が供給されてコレクタ電流が流れます.フォトカプラの重要な特性の1つが,電流伝達率(CTR:Current Transfer Ratio)です.LEDに流す電流をIFとし,一定のコレクタ電圧を加えたときに流れるコレクタ電流をICとすると,CTRは式1で計算できます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
このCTRの値は,製品ごとに異なります.また,IFの値やコレクタ電圧,温度によって変化し,経時変化により小さくなっていきます.そのため,フォトカプラのLEDに流す電流の値は,CTRの最悪値を考慮して決める必要があります.
フォトカプラのLEDに電流を流す場合,一般的には抵抗(R)を介して電圧を加えます.フォトカプラの仕様書には特定の電流を流したときのLEDの電圧が記載されています.この電圧は,流す電流によって多少変化します.しかし,通常は一定の値として扱います.この電圧をVFとして,印可する電圧をVOとし,流したい電流をIFとすると,抵抗の値は式2で計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
●LTspiceでフォトカプラの特性を確認する
LTspiceのフォトカプラのモデルは,図3のように,Optosフォルダ(LTspiceXVII\lib\sym\Optos)に入っています.ベース端子がある5端子のものと,ベース端子の無い4端子のものがあります.PIC817は末尾がA~Dの4種類ありますが,これはCTRの値でランク分けされたものです.
ベース端子がある5端子のものと,ベース端子の無い4端子のものがある.
図4が4種類のPIC817の特性を確認するための回路図です.電流源でLEDに電流を流し,コレクタ電流を測定します.PIC817B~Dにはビヘイビア電流源を使用し,I1と同じ電流を流すようにしています.ビヘイビア電流源(Arbitrary Behavioral Current Sources)を使うと,ある電流源(I1)に追従した,電流源(B1,B2,B3)を他の回路で簡単に作れます.
電流源でLEDに電流を流し,コレクタ電流を測定する.
図5がPIC817の特性のシミュレーション結果です.横軸がLED電流で,上段がフォトトランジスタのコレクタ電流で,下段がCTRです.CTRはコレクタ電流をLED電流で割り,100倍したものです.CTRは,PIC817Aが一番小さく,PIC817Dが一番大きいことが分かります.
CTRはPIC817Aが一番小さく,PIC817Dが一番大きい.
●フォトカプラのディジタル信号伝達をシミュレーションする
図6は,図1のディジタル信号伝送回路をシミュレーションするための回路図です.入力電圧はピーク電圧5Vで1kHzの矩形波です.絶縁されたG端子の電位を定めるため,1GΩの抵抗でGNDと接続してあります.
絶縁されたG端子の電位を定めるため,1GΩの抵抗でGNDと接続してある.
(a),(b),(c)の回路のLED電流(IF)は式3のように,5.6mAになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
CTRを100%とすると,トランジスタが流すことのできる最大電流は5.6mAになります.一方,回路dのLED電流は式4のように1.15mAです.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
同じくCTRを100%とすると,トランジスタが流すことのできる最大電流は1.15mAになります.
図7は,図6(図1)の回路のシミュレーション結果です.(a)の回路は,最も一般的に使用される回路で,出力は5Vフルスイングできています.(b)の回路は,LEDに挿入する抵抗の位置が(a)の回路とは異なっています.しかし,流れる電流は同じため,出力は(a)の回路と同じになっています.(c)の回路は,負荷抵抗がコレクタではなく,エミッタに接続されています.そのため,出力は入力電圧と同位相になります.また.その振幅は,ほぼ5Vフルスイングできています.
(d)の回路は,式4のように,LEDに流す電流が1.15mAでトランジスタの最大電流も1.15mAです.負荷抵抗が680Ωなので,負荷抵抗に発生する電圧は,計算上0.8Vとなります.シミュレーション結果もパルスの振幅が約0.8Vとなっており,ディジタル信号が伝送できないことが分かります.
(d)の回路はパルスの振幅が約0.8Vとなっており,ディジタル信号が伝送できていない.
●感電などのリスクを下げるアナログ的使用方法
フォトカプラは,ディジタル信号伝送だけではなく,アナログ信号の伝送にも使用されます.アナログ的な使用方法の代表的なものは,ACアダプタのような絶縁型電源の電圧帰還回路です.
図8は,簡略化した絶縁型電源のブロック図です.交流電源を整流して直流にした後,MOSトランジスタでスイッチングし,トランスの2次側で再度整流して,直流電圧を作ります.図8の例では,出力電圧が5Vになるよう,フォトカプラを介してPWM制御を行っています.フォトカプラを使用することで,直流出力は一次側の交流電源とは絶縁されるため,感電などのリスクを下げることができます.
フォトカプラを介してPWM制御し,出力電圧を一定に保つ.
以上,フォトカプラによる信号伝送に関して解説しました.フォトカプラには今回紹介した以外にも,いろいろな種類があります.出力段をIC化することで,数十MHzの高速信号を伝送できるものや出力段にMOSFETを使用してアナログ・スイッチとして使用できるものもあります.用途に合わせて,フォトカプラを探してみてください.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_008.zip
●データ・ファイル内容
PIC817_CTR.asc:図4の回路
PIC817_CTR.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
P_C_Q_SIM.asc:図4の回路
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