電圧降下の改善方法教えます
図1は,卓上ディスプレイを開発するために,LEDマトリクスをブレッドボード上で配線したものです.図1の仕様において,全てのLEDマトリクスに動作保証電圧以上の電圧を供給するためには,電源電圧は,(a)~(d)の何V以上必要でしょうか.
【仕様】
・ジャンパ・ワイヤ:1本あたり70mΩの抵抗値
・LEDマトリクス:1ユニットあたり400mAの消費電流.動作保証電圧は2.8V
・赤色,黒色のジャンパ・ワイヤ以外の抵抗値は0Ωとします
(a) 2.80V (b) 3.02V (c) 3.14V (d) 3.49V
抵抗成分を持った物体に電流が流れると,電圧降下が発生します.また,後段の回路ほど,その電圧降下の影響を受けます.ブレッドボード図に接続された部品を等価回路に置き換えて,どのような影響があるか確認します.
※解説動画をYouTubeに投稿しています.ぜひ,そちらもご覧ください.
ユニットCの両端電圧(Vc)は電源電圧V1と比べて336mVも下がってしまうため,LEDマトリクスの動作保証電圧2.8Vを確保するためには,電源電圧V1は「2.8+0.336=3.136V」という事になります.よって,(C)の3.14Vが正解となります.
●計算で電圧降下の原因を探る
図1の回路を,抵抗や電流源等を使って等価回路に落とし込んだものを図2に示します.
このような配線をした場合,電源に最も近いジャンパ・ワイヤ(R1)には,ユニットA,B,Cの電流の総和(I1+I2+I3)が流れます.また,電流が戻ってくる経路にあるR4に対しても同様です.結果として,ユニットAにかかる両端電圧Va(A+~A-)は,式1の電圧となります.
Va=V1-(R1+R4)(I1+I2+I3) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
後段にあるユニットBも式2で表す事ができます.
Vb=Va-(R2+R5)(I2+I3) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
ユニットCについても式3で表す事ができます.
Vc=Vb-(R3+R6)I3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
これらの式を展開すると,電源から最も遠いユニットCの両端電圧(Vc)は,式4で表されます.
Vc=V1-(R1+R4)(I1+I2+I3)-(R2+R5)(I2+I3)-(R3+R6)I3 ・・・・・・・・・・(4)
第2項,第3項,第4項はいずれもマイナスの値を取るため,式4により,大本となる電源電圧(V1)から多くの因子が引かれ,電圧値として小さくなってしまっている事が分かります.具体的な計算は後ほど行います.
●LTspiceで両端電圧の確認
次に,LTspiceを使って実際にユニットCの両端電圧がどれくらい下がってしまうのかを確認してみます.図2の回路を,DCsweepモードでシミュレーションしたものを図3に示します.
DCsweepは,今回のように電源電圧を変動させた時の各部の挙動を確認するのに便利なモードです.ここでは,電源電圧を1.0Vから5.0Vに振ってみました.
図3の上段にある各部の電流を見ると,前述したようにR3には1ユニット分の電流である0.4Aしか流れていません.しかし,R1には,3ユニット分の電流1.2A(0.4A×3)が流れています.
図3の下段を見ると,この電流によってV1から大きく電圧降下が発生している事が分かります.式1から計算で求めると,電圧降下分V1-Vaは「1.2A×(70mΩ+70mΩ)=168mV」となります.
後段に行くほど前段からの電圧降下量は,下がってはいきます.さらに,最後段のユニットCの両端電圧は,V1と比べると大きく下がっています.
式4に各値を当てはめると,電圧降下分V1-Vcは336mVとなります.つまり,ユニットCの両端電圧(Vc)は電源電圧V1と比べて336mVも下がってしまうため,LEDマトリクスの動作保証電圧2.8Vを確保するためには,電源電圧V1は「2.8+0.336=3.136V」という事になります.よって,(C)の3.14Vが正解となります.
●大きな電圧降下の原因
図1のように配線をした場合,電源電圧と末端のユニット間では0.3V以上もの電位差が発生してしまう事が分かりました.この差を発生させてしまっている原因は,共通インピーダンスの存在です.共通インピーダンスとは,複数の回路に共通して存在するインピーダンスのことで,図2でいうとR1やR4,R2,R5がそれにあたります.
共通インピーダンスが存在すると,電流がその点に集中するため,存在しない場合に比べて流れる電流値が大きくなって電圧降下が大きくなったり,他回路の電圧変動の影響も受ける事になります.そのため,一般的には共通インピーダンスは小さくするようにするのが定石とされています.
●大きな電圧降下の改善方法
そこで,共通インピーダンスを考慮して配線を改善したものを図4に示します.なお,前提として使用するケーブルや部品は図1と同じものとします.
図4の配線を等価回路にしたものを図5に示します.
それぞれのユニットの電源はジャンパ・ワイヤを介して電源に近いところに直接接続しています.そのため,それぞれの抵抗は,電源からそれぞれ独立して並列にぶら下がる事になります.結果として,共通インピーダンスを作らない回路を実現する事ができました.この回路図からも明らかなように,各ユニット両端の電圧は次のように表されます.
ユニットAが式5になります.
Va=V1-(R1+R4)I1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
ユニットBが式6になります.
Vb=V1-(R2+R5)I2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
ユニットCが式7になります.
Vc=V1-(R3+R6)I3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
式7を,配線改善前の式3と比べると,明らかに右辺のマイナス項が少ない事が分かります.
図6は,図5の回路をDCsweepでシミュレーションしたものです.
図3と比べると,次の差異がある事が分かります.
・I1,I2,I3は全て同一値
・電源電圧からの電圧降下量が小さい
式7を計算すると,電圧降下分V1-Vcは56mVとなります.式3の結果336mVと比べて,280mVも電圧降下量が低減できている事が分かります.ブレッドボード上の配線を変えただけで,電圧降下量を大きく低減でき,結果として電源電圧が低いものを選ぶ事ができるようになりました.別の言い方をすると,同じ電源電圧でも,より各ユニットの動作安定性を高める事ができました.
以上,配線の仕方で各ユニットにかかる電圧が大きく変わる,という事を説明してきました.なお,今回はブレッドボードを使って説明をしてきましたが,同様の現象はブレッドボードに限った話ではありません.電流の流れるルートをイメージして,できるだけ共通インピーダンスを作らない配線を考えてみましょう.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice8_003.zip
●データ・ファイル内容
Before.asc:図2をシミュレーションするための回路
Before.plt:図2のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
After.asc:図5をシミュレーションするための回路
After.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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