2線式のトランスミッタは電流でデータを伝送




『LTspice Users Club』のWebサイトはこちら

■問題
使用するコマンド ― .DC

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,2線式の4-20mAトランスミッタと表示器の簡易等価回路です.トランスミッタには,出力電圧5Vの3端子電源が内蔵されており,表示器から供給される電源で動作します.マイコンがセンサ・データを解析し,D-Aコンバータの出力電圧をコントロールして,IOUTの大きさを制御します.
 3端子電源の消費電流(IPW),センサとマイコンの消費電流(IMP),D-Aコンバータの消費電流(IDAC),OPアンプの消費電流(IOP)をすべて加算した値は2mAでした.ここで,D-Aコンバータの出力電圧が0VだったときのIOUTの値として近いのは(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 2線式の4-20mAトランスミッタと表示器の簡易等価回路
D-Aコンバータの出力電圧が0VだったときのIOUTの値は?

(a)2mA (b)2.75mA (c)3.75mA (d)4mA

■ヒント

 2線式の4-20mAトランスミッタは,工場などノイズの多い環境で,センサ・データなどを伝送するときに使用されます.例えば,0℃~500℃を測定できる温度計の場合,0℃を4mAとし,500℃を20mAとして出力し,受信側で逆の換算を行います.
 2線式と3線式がありますが,2線式はトランスミッタ自体の消費電流をコントロールすることで,データを伝送します.D-Aコンバータの出力電圧が0Vだったとき,G点とB点の電圧がいくつになるか考えれば,答えが分かります.

■解答


(c)3.75mA

 図1で,OPアンプが正常に動作している場合,A点とG点の電圧は同じになります.また,D-Aコンバータの出力電圧が0Vのため,D点の電圧とG点の電圧は同じです.そのため,R3に加わる電圧はVccの5Vです.R3に流れる電流は「Vcc/R3=5/1M=5μA」になります.その電流がR2に流れるため,A点とB点の電圧差は「5μA*75k=375mV」です.A点とG点の電圧は同じなので,R1の両端電圧も375mAになります.R1に流れる電流がIOUTになるため「IOUT=375mV/100=3.75mA」となります.


■解説

●D-Aコンバータ出力が0Vのときのトランスミッタの動作
 図2は,図1の回路をさらに簡略化したものです.図2の回路を見ると,OPアンプの負電源端子がG点に接続されているため,動作が少し分かりづらいですが,ボルテージ・フォロアとして動作します.負電源端子をB点に接続すると,一般的なボルテージ・フォロアと同じ形になります.


図2 図1の回路をさらに簡略化したもの
この回路図を使用して動作を考える.

 トランジスタQ1はOPアンプの出力電流を大きくするためのものです.OPアンプはG点の電圧がA点の電圧と同じになるように,動作します.G点には,5V出力の3端子電源のGND端子が接続されているため,Vccの電圧は,G点を基準に考えたときに5Vになります.
 また,D-AコンバータもG点を基準に動作するため,D-Aコンバータ出力電圧が0Vの場合,D点とG点の電圧は同じになります.そのため,R3の両端電圧はVccと同じになり,R3に流れる電流IR3は式1で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 IR3の電流はすべてR2に流れます.そのため,R2に発生する電圧VR2は式2で表されます.

・・・・・・・・・・(2)

 ここで,A点の電圧とG点の電圧は同じなので,R2の両端電圧とR1の両端電圧は同じです.そのため,R1に流れる電流IR1は式3で表されます.また,R2に流れる電流は小さいため,R1に流れる電流とIOUTはほぼ等しくなります.

・・・・・・・・・・・・(3)

 式3によると,IOUTはVcc及びR1~R3で決まり,マイコン等の消費電流の項はありません.マイコン等の消費電流が変動しても,その合計が3.75mA以下の場合は,IOUTの値は一定になります.

●トランスミッタの出力電流とD-Aコンバータ出力の関係
 次にD-Aコンバータ出力が0V~5Vまで変化したときに,IOUTの大きさがどのように変化するか考えてみます.D-Aコンバータは,G点を基準に動作します.A点とG点の電圧は等しいため,R4の両端電圧はD-Aコンバータの出力電圧と等しくなります.G点を基準としたD-Aコンバータの出力電圧をVDACとすると,R4に流れる電流(IR4)は式4で表されます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 R4の電流はR2に流れることになります.そのため,IR2はIR3とIR4を足したものになります.式2は式5のように変わります.

・・・・・・・・・・・・・(5)

 そして,式3も式6に変わり,D-Aコンバータ出力が5Vのとき22.5mAになります.

・・・・・(6)

 このように,D-Aコンバータ出力の値を変化させることで,IOUTの値を変えることができます.

●トランスミッタの出力電流をシミュレーションする
 図3がトランスミッタの出力電流をシミュレーションするための回路図です.5V電源には,LT1521を使用しています.また,I1はマイコンなどの消費電流を表現するための電流源です.VDACは,D-Aコンバータの出力電圧を表す電圧源です.最初に,VDACの値を0Vとし「.DCコマンド」を使用して,I1の値を0~5mAまで変化させてIOUTの値がどうなるか,シミュレーションします.IOUTの値はRLに流れる電流と同じなので,I(RL)をプロットします.


図3 トランスミッタの出力電流をシミュレーションするための回路図
5V電源にはLT1521を使用,I1はマイコン等の消費電流を表現するための電流源.

 図4は,I1の値を変えたときのシミュレーション結果です.I1が3.6mA以下のときは,I(RL)の値は変化していません.3.6mAを越えると,I1が増加するのに比例して増加していきます.4-20mAトランスミッタでは,4mAが基準電流となるため,マイコン等の消費電流が4mAよりも大きいと,正常に動作しません.


図4 I1の値を変えたときのシミュレーション結果
I1が3.6mA以下のときは,I(RL)の値は変化していない.

 次に,I1の値は2mAとして,VDACの値を0V~5Vまで変化させるシミュレーションを行います.図3の回路の「.dc I1 0 5m 10u」をコメント化し「.dc VDAC 0 5 10m」を有効にします.
 図5は,VDACの値を0V~5Vまで変化させたときのシミュレーション結果です.VDACを0V~5Vに変化させると,IOUTは3.78mA~22.6mAまで変化しています.この値は式3および式6の結果とほぼ一致しています.


図5 VDACの値を0V?5Vまで変化させたときのシミュレーション結果
IOUTは3.78mA~22.6mAまで変化している.

 以上,2線式の4-20mAトランスミッタについて解説しました.図1の回路は原理図のため,実際の製品に適用する場合は,発振安定性やOPアンプの入力電圧範囲を適切なものとするなどの検討が必要です.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice7_037.zip

●データ・ファイル内容
4-20m_Current_LP.asc:図3の回路

■LTspice関連リンク先


(01) LTspice ダウンロード先
(02) LTspice Users Club
(03) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(04) LTspice メール・マガジン全アーカイブs
(05) ◆LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(06) ◆LTspiceアナログ電子回路入門アーカイブs
(07) ◆LTspice電源&アナログ回路入門アーカイブs
(08) ◆IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(09) ◆オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(10) ◆LTspiceエデュケーショナル・ファイルで学ぶアナログ回路アーカイブs

トランジスタ技術 表紙

CQ出版社オフィシャルウェブサイトはこちらからどうぞ

CQ出版の雑誌・書籍のご購入は、ウェブショップで!


CQ出版社 新刊情報


近日発売

Interface 2025年 2月号

ラズパイで作り学ぶ Dockerコンテナ

CQ ham radio 2025年 1月号

2025年のアマチュア無線

HAM国家試験

第4級ハム国試 要点マスター 2025

HAM国家試験

第3級ハム国試 要点マスター 2025

トランジスタ技術 2025年 1月号

注目のロボット センサ&走行制御!

アナログ回路設計オンサイト&オンライン・セミナ