抵抗膜型タッチパネルの動作原理
図1は,10cm×10cmの抵抗膜型タッチパネルをペンで押した座標を読み取る模式図です.抵抗膜型タッチパネルは,2枚の透明な抵抗パネルを,わずかな間隔をあけて平行に配置したものです.ペンで押すことで,2枚の抵抗パネルの押された部分が接触します.このときの端子電圧をA-Dコンバータで測定することで座標を読み取ります.
図1では,X軸が左から2cm,Y軸が下から4cmの位置をペンで押しています.座標を読み取るため,最初に,X軸のSW1とSW2をONさせ,Y軸のSW3とSW4はOFFの状態とし,SW5が2側と接続されている状態でA-Dコンバータ端子の電圧を測定します.
次に,X軸のSW1とSW2をOFFさせ,SW3とSW4はONの状態とし,SW5が1側と接続されている状態でA-Dコンバータ端子の電圧を測定します.
この2回の電圧の測定結果として正しいのは(a)~(d)のどれでしょうか.図1のパネルのXa-Xb間とYa-Yb間の抵抗値は1kΩとします.
X軸が左から2cm,Y軸が下から4cmの位置をペンで押したときの電圧は?
(a)1回目:1V 2回目:0.5V
(b)1回目:0.5V 2回目:1V
(c)1回目:2V 2回目:1V
(d)1回目:1V 2回目:2V
抵抗膜型タッチパネルは,抵抗膜をペンで押した座標の電圧を,反対側の抵抗膜パネルで検出しています.電圧を検出する側の抵抗値は,測定電圧には影響しません.そのため,ペンで押した座標の電圧を計算すれば,答えは簡単に分かります.
1回目の測定は,X軸のSW1とSW2がONで,Y軸のSW3とSW4はOFFなので,Xb-Xa間に5Vが印加されます.このとき,X軸左から2cmの位置の抵抗膜の電圧は,5Vを2:8で分圧したものになるので,1Vになります.そして,上側の抵抗膜の電圧も1Vとなります.SW5が2側に接続されているので,A-Dコンバータ端子の電圧は,上側の抵抗膜の電圧と同じ1Vになります.この電圧は,X軸の座標を表しています.
2回目の測定は,X軸のSW1とSW2がOFFで,Y軸のSW3とSW4はONなので,Yb-Ya間に5Vが印加されます.このとき,Y軸下から4cmの位置の抵抗膜の電圧は,5Vを4:6で分圧したものになるので,2Vになります.そして,下側の抵抗膜の電圧も2Vとなります.SW5は1側に接続されているので,A-Dコンバータ端子の電圧は,下側の抵抗膜の電圧と同じ2Vになります.この電圧は,Y軸の座標を表しています.
●抵抗膜に電圧を印加したときの電圧分布
図2のように,抵抗膜に電圧を印可した場合,A点とB点の電圧は同じです.左側の電極から等距離にある点の電圧は,すべて同じ電圧になります.
左側の電極から等距離にある点の電圧は,すべて同じ.
図2の点線の位置の電圧(VX1)は式1で計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
逆に,VX1が分かれば,X1の値を計算することができます.「X1+X2=X」とすると,X1は式2で表されます.抵抗膜型のタッチパネルはこの原理を利用して座標を求めています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
図1の抵抗膜型タッチパネルでは,X軸の座標を読み取るとき,下側抵抗パネルの,ペンで押した座標の電圧を,上側の抵抗パネルで検出しています.その電圧をA-Dコンバータで読み取りますが,一般的にA-Dコンバータの入力抵抗は非常に大きいため,上側の抵抗パネルの抵抗は測定値に影響しません.
●抵抗膜型タッチパネルの動作をLTspiceでシミュレーションする
図1の抵抗膜型タッチパネルの動作をLTspiceでシュミレーションしてみます.まず,抵抗パネルを数多くの抵抗で,等価回路に置き換える必要がありますが,今回はパネルを10分割した抵抗の集合体とします.
図3が図1の回路をLTspiceでシミュレーションできるようにした,パネルを10分割した等価回路です.10本の抵抗を直列に接続し,それを縦横に並列に配置したものが,抵抗パネルの等価回路です.左側が下側の抵抗パネルで,右側が上側の抵抗パネルです.それぞれのパネルの,電極が接続される部分の抵抗は,配線でショートされるため,削除してあります.
また,抵抗の交点には座標を示すようなラベルを付けてあります.下側パネルはB11,B21といった名前で,上側パネルはT11,T21といった名前になっています.ラベルについている数字がX,Yの座標を表しています.
抵抗パネルは,10本の抵抗を直列に接続し,それを縦横に並列に配置している.
画像をクリックすると拡大画像が表示されます.
図4(a)は,抵抗パネルの等価回路の拡大図です.図4(b)の右側は,ペンで押された状態を表現するための回路です.特定の位置の2つラベルを,小抵抗で接続することで,ペンで押した状態を模擬します.図2の回路ではT24とB24を1Ωの抵抗で接続しているため,X2,Y4の位置をペンで押した状態になっています.
X2,Y4の位置をペンで押した状態になっている.
図1のSW1~SW5は,図3ではS1~S6の電圧制御スイッチとなっています.その電圧制御スイッチを2つのパルス電源(V1,V2)の出力(Ph1,Ph2)で制御しています.最初の1msはスイッチS1,S2,S5がONしてX軸の座標を読み取り,次の1msでS3,S4,S6がONして,Y軸の座標を読み取ります.
図5は,図3のシミュレーション結果です.最初の1msはA-Dコンバータ端子の電圧は1Vとなっており,X軸の座標は,1/5=0.2なので,左から20%の位置であることが分かります.また,次の1msのA-Dコンバータ端子の電圧は2Vとなっており,Y軸の座標は,2/5=0.4なので,下から40%の位置であることが分かります.
X軸の座標を表す電圧は1Vで,Y軸の座標を表す電圧は2Vとなっている.
以上,抵抗膜型タッチパネルの動作原理を紹介しました.抵抗膜型タッチパネルは,原理的に複数の場所が押されたことを感知するのが難しいという弱点があります.そのため,スマートフォン用のタッチパネルは,静電容量の変化を検出する静電容量型のものが採用されています.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice7_033.zip
●データ・ファイル内容
RTPanel.asc:図3の回路
RTPanel.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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