フェライト・ビーズの特性




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■問題
使用するコマンド ― .AC,.TRAN

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,フェライト・ビーズの使用方法の模式図です.フェライトでできた円筒形のビーズの中心を導線が貫通しています.図1のようにフェライト・ビーズを使用したときの特性の説明として,正しいのは,(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 フェライト・ビーズの使用方法の模式図
フェライトでできた円筒形のビーズの中心を導線が貫通している.

(a) 高い周波数でAB間のインピーダンスが大きくなる
(b) 低い周波数でAB間のインピーダンスが大きくなる
(c) 特定の電流以上になるとAB間のインピーダンスが急増する
(d) フェライト・ビーズが無いときよりも,AB間の直流抵抗値が小さくなる

■ヒント

 フェライトは酸化鉄を主成分としたセラミックスで,フェライト磁石としての応用が有名です.また,フェライトはコイルのコア材としても使用されています.これらのことを考え合わせると,答えが分かります.

■解答


(a) 高い周波数でAB間のインピーダンスが大きくなる

 導線をフェライト・ビーズに貫通させた場合,インダクタンスが増加し,比較的Qの低いコイルのように動作します.コイルのインピーダンスは,高い周波数で大きくなるため,正解は(a)の「高い周波数でAB間のインピーダンスが大きくなる」です.フェライト・ビーズはこの性質を利用して,ノイズを低減する用途に使用されます.


■解説

●フェライト・ビーズの構造
 フェライト・ビーズは,フェライトを円筒形のビーズのように形成したものです.フェライトをドーナツ状に形成したものに,導線を巻き付けると,トロイダル・コイルになります.この場合,巻き数によってコイルのインダクタンスが変わります.
 円筒形のフェライトに導線を貫通させたものは,巻線にはなっていませんが,通常の線材よりもインダクタンスが大きくなり,コイルと類似した特性になります.また,フェライト・ビーズに使用しているフェライト材料は,高周波での損失が大きくなっているため,フェライト・ビーズを使用して構成したコイルも,高周波損失が大きくなります.
 フェライト・ビーズを貫通した導線は,コイルと類似した特性になるため,高い周波数でインピーダンスが大きくなり,そのインピーダンスとコンデンサで,ローパス・フィルタを構成することができます.そのため,フェライト・ビーズは主に,高域ノイズの低減のために使用されます.

●フェライト・ビーズの用途
 図2は,デジタル用電源とアナログ用電源の間にフェライト・ビーズを挿入した使用例です.デジタル回路で発生するノイズが,アナログ用電源に混入しないようにするのが目的です.


図2 デジタル用電源とアナログ用電源の間にフェライト・ビーズを挿入した使用例
デジタル回路で発生するノイズが,アナログ用電源に混入しないようにする.

●フェライト・ビーズの特性
 図3は,フェライト・ビーズの近似的な等価回路の,インピーダンス特性をシミュレーションするための回路です.村田製作所のBL01RN1A1Dというフェライト・ビーズのインピーダンス特性に,ある程度近くなるように,定数設定してあります.


図3 フェライト・ビーズの近似等価回路のインピーダンス特性をシミュレーションする回路
村田製作所のBL01RN1A1Dというフェライト・ビーズのインピーダンス特性に似せている.

 図4は,フェライト・ビーズの近似等価回路のインピーダンス特性のシミュレーション結果です.入力電圧をR1に流れる電流で割ることでインピーダンスを表示しています.


図4 フェライト・ビーズの近似等価回路のインピーダンス特性のシミュレーション結果
入力電圧をR1に流れる電流で割ることでインピーダンスを表示している.

 図4を見るとわかるように,周波数が高くなるとインピーダンスが上昇し,その後一定値になります.

●フェライト・ビーズを使用したローパス・フィルタ
 図5は,フェライト・ビーズを使用したローパス・フィルタの特性をシミュレーションするための回路です.負荷抵抗の値を10Ωと100Ωに変化させて周波数特性をシミュレーションします.


図5 フェライト・ビーズを使用したローパス・フィルタの特性をシミュレーションするための回路
負荷抵抗の値を10Ωと100Ωに変化させて周波数特性をシミュレーションする.

 図6は,図5のシミュレーション結果です.負荷抵抗が100Ωのとき,カットオフ周波数付近でピークが発生しています.ノイズ低減用のフィルタなのに,ゲインにピークがあることによって,逆にノイズを増加させてしまうこともあるので,注意が必要です.


図6 フェライト・ビーズを使用したローパス・フィルタのシミュレーション結果
負荷抵抗が100Ωのとき,ゲインにピークが発生している.

●フェライト・ビーズによるノイズ低減効果のシミュレーション
 図7は,フェライト・ビーズを使用して,デジタル回路のノイズが,アナログ回路の電源に混入するのを防止する効果を検証する回路です.図2のフェライト・ビーズの使用例を,簡易等価回路を使用してシミュレーションします.
 電源は,シリーズ抵抗を100mΩに設定し,デジタル回路では10MHzのクロック信号に対し1Aの貫通電流が流れている状態を想定しています.図7上段が対策前で,下段がフェライト・ビーズを使用した回路になっています.


図7 フェライト・ビーズのデジタル回路ノイズの混入防止効果を検証する回路
デジタル回路は10MHzのクロック信号で1Aの貫通電流を想定.

 図8は,図7のシミュレーション結果です.対策前のアナログ電源には,25mVpp程度のノイズが混入しています.しかし,フェライト・ビーズを入れた場合は,ほとんどノイズが無いことが分かります.


図8 デジタル回路ノイズの混入状態のシミュレーション結果
フェライト・ビーズを入れた場合は,ほとんどノイズが無い.

 以上,フェライト・ビーズの特性について解説しました.現在は,図1のようなフェライト・ビーズよりも,表面実装型のものが主流になっています.形状はビーズ状ではありませんが,チップ・フェライト・ビーズという名前で呼ばれています.また,メーカのホーム・ページでは,今回使用したものよりも,実際の特性に近いSPICEモデルがダウンロードできるようになっています.正確なシミュレーションを行う場合は,それを使用するようにしてください.

◆参考・引用*文献◆
村田製作所:フェライト・ビーズBL01RN1A1D仕様(生産中止品)
村田製作所:ノイズ対策の基礎 【第4回】 チップフェライトビーズ
村田製作所:フェライト・ビーズSPICEモデル


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice7_027.zip

●データ・ファイル内容
BL01RN1A1D2.asc:図3の回路
BL01RN1A1D2.plt:図4のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
FB_LPF.asc:図5の回路
ana_digi_PW.asc:図7の回路

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