信号を加減算するアンプ




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■問題
使用するコマンド ― .OP/.TRAN

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,V1~V6の6つの入力電圧を加減算してOUTから出力するアンプです.6つの入力は直流電圧で,「V1=1V」,「V2=3V」,「V3=4V」,「V4=5V」,「V5=3V」,「V6=2V」です.この場合,OUTの直流電圧は(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 V1~V6が入力となる加減算アンプの回路
OUTの直流電圧は何V?

(a) 1V (b) 2V (c) 8V (d) 10V


■ヒント

 図1のV1~V3は,反転アンプの入力,V4~V6は非反転アンプの入力になります.回路に電圧源が複数あるときは重ね合わせの理を使うと便利です.重ね合わせの理は,複数個ある電圧源,また,電流源を1つ残して各々回路解析し,その結果を重ねる(解を加え合わせる)ことにより回路解析できます.回路の電圧源や電流源を1つ残すときは,他の電圧源をショート,他の電流源をオープンにして計算します.

■解答


(b) 2V

 図1を重ね合わせの理を使って解析します.具体的には,6つの入力電圧源のうち,1つの入力電圧源を残し,他の入力電圧源をショートして各々回路解析します.そして,その結果を重ねることにより求められます.以下の計算で,図1の抵抗は全て同じ10kΩですので,計算し易いように抵抗を「R」で表しています.
 最初に図2(a)のようにV1を残して,他の入力電圧源をショートします.ショートすると抵抗の片側は,GNDになります.反転端子に付く「R/2」は図1のR2とR3の並列抵抗です.そして,非反転端子に付く「R/4」は,R4,R5,R6,R7の並列抵抗です.この回路は反転アンプであり,反転端子はバーチャル・グラウンドなので「R/2」の両端がGNDになって,電圧差がゼロなので無いものと考えることができます.なので,図2(a)のゲインは,反転アンプのゲイン「G=-R/R=-1倍」になり,そのときの出力電圧は「VOUT1=-V1」になります.同じことがV2を残したときと,V3を残したときの解析にも当てはまるので「VOUT2=-V2」,「VOUT3=-V3」になります.


図2 反転側と非反転側の入力信号を1つ残し,他をショートにした回路
(a) V1の検討をするときは反転アンプになる.V2,V3も同じ.
(b) V4の検討をするときは非反転アンプになる.V5,V6も同じ.

 次に,図2(b)のようにV4を残して他の入力電圧源をショートします.この回路は非反転アンプです.図2(b)はV4の電圧を「R」と「R/3」の抵抗分圧した「V4/4」の電圧が非反転端子に加わります.そして,その電圧を非反転アンプのゲイン「G=1+R/(R/3)=4倍」で増幅するので,出力電圧は「VOUT4=V4」になります.同じことがV5を残したときと,V6を残したときの解析にも当てはまるので「VOUT5=V5」,「VOUT6=V6」になります.
 最後に重ね合わせの理を使ってVOUT1~VOUT6の6つの電圧を加えると式1になり,V1~V6の電圧を入れると2Vになります.これより答えは,(b)の2Vになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)


■解説

●加減算回路の一般的な構成について(前半)
 解説の前半では,一般的な加減算アンプについて検討し,式1の入力と出力の関係にするときの欠点について検討します.解説の後半では,解決策として図1になること導きます.
 図3は,図1にR8を追加した加減算アンプの一般的な回路になります.R8は反転端子に付くトータルの抵抗値を調整するために使います.図3の入力と出力の関係は,回路定数を調整すると式2になります.式2は各入力電圧V1~V6をG1~G6のゲインで増幅して同時に加減算するアンプになります.

・・・・・・・・(2)

 図3は,6つの入力ですが,必要に応じて増やしたり減らしたりできます.


図3 加減算アンプの一般的な回路構成
図1へR8を加えた回路.

 図3の入力と出力の関係を式2と同じにするには回路定数の調整が必要になります.ここでは,一般的な加減算アンプの入力と出力の関係を机上計算して,どのように調整するのかを検討します.
 まず,OPアンプの反転端子と非反転端子はバーチャル・ショートになるので,そのときの電圧をVaとします.反転端子に流れ込む電流の総和は,キルヒホッフの電流則より式3となります.

・・・・・・・・(3)

 同じように,非反転端子に流れ込む電流の総和は,キルヒホッフの法則より式4となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 式3と式4を使って整理すると,式5の入力と出力の関係となります.

・・・・・(5)

 ここで式5の赤字の式は抵抗の並列を表すので,並列抵抗をRNとすると式6になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)

 同様に,青字の式は並列抵抗をRIとすると式7になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

 式5を式2と同じにするには,赤字の分子と青字の分母が等しくなるようにR7とR8を使って調整します.そして,式2のG1~G6のゲインは,式5の括弧の項を展開して,「G1=Rf/R1」,「G2=Rf/R2」…「G6=Rf/R6」という具合に抵抗比で決めるようにします.
 実際の具体例として式5を式1と同じ入力と出力の関係にしてみます.式1は式2のG1,G2,…G6のゲインが1倍になるときを表しています.式5と式1を同じにする調整は,式6と式7が「RN=RI」になること,および「G1=Rf/R1」,「G2=Rf/R2」…「G6=Rf/R6」のゲインが1になるような抵抗値の調整をします.このような抵抗値の一例は,「R7=10kΩ」,それ以外の抵抗値は「R1=R2=R3=R4=R5=R6=R8=Rf=20kΩ」になります.

●一般的な加減算アンプのシミュレーション
 図4は,図3の回路を使い,先程の式1になる抵抗値を使った回路です.V1~V6の入力電圧は,図1と同じにしました.この回路のシミュレーションをして出力電圧を調べます.使用したドット・コマンドは「.OP」です.「.OP」は回路の直流動作点を調べるときに使います.
 図4は,シミュレーション終了後にOUTの直流電圧を回路図へ表示しました.これを表示するには調べたい箇所のワイヤー上にマウスを当てて右クリックします.するとプルダウン・メニューが出ますので,「Place .OP Data Label」を選びます.図4へ表示したOUTの直流電圧は2Vなので,式1の出力電圧2Vと同じになります.


図4 図3をシミュレーションする回路
入力電圧は図1と同じ.

 このように一般的な加減算アンプを使って式1になるように調整できますが,欠点として全ての抵抗が同じになりません.先程調整した「RN=RI」や「G1,G2…G6」のゲインは抵抗比に関係するので,同じ抵抗で作った方が調整し易くなります.この理由から式1を作るときは図1の回路になっていきます.

●加減算アンプの全ての抵抗を同じにする(後半)
 図3を回路修正して,図1のように全ての抵抗値が同じで式1の入力と出力の関係になるようにするには,先程の式5から対策方法が分かります.全ての抵抗値が同じにならない原因は,式5の赤字の分子と青字の分母を等しくするとき,赤字の分子にある「1/R8」の項が多いことによります.R8はG1~G6のゲインに影響しないので,R8を回路から取り外せば全ての抵抗が同じで式1を作れます.R8を取り外したときの入力と出力の関係は式8になり,その回路図が図1になります.

・・・・・(8)

 R8を削除したときの赤字の分子の並列抵抗RI’は式9になります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)

●抵抗を同じにしたときのシミュレーション
 図5は,図1をシミュレーションする回路で,使用したドット・コマンドは,図4と同じ「.OP」です.図5では4つの抵抗が1つのパッケージに入っているLT5400を使用しました.LT5400は抵抗間の整合が良いデバイスになります.抵抗間の整合をよくすると抵抗比の精度がよくなるので,実際の回路でのOUTの誤差が少なくなります.
 図5には,図4と同じようにシミュレーション終了後のOUTの直流電圧を表示しました.このようにOUTの直流電圧は2Vになり,解答の(b)と同じになるのが分かります.


図5 図1の抵抗をLT5400で実装した回路
OUTの直流電圧は2Vになる.

●入力へ直流信号と交流信号を加えたときの動作
 加減算アンプは,直流のみだけでなく,交流や直流と交流が混ざったときの加減算ができます.図6は,V1へ振幅が0.1V,周波数が1kHzの正弦波交流電圧,V5へ振幅が0.5V,周波数が100Hzの正弦波交流電圧,V6へ1Vの直流電圧を加えた回路です.使用したドット・コマンドは「.TRAN」です.「.TRAN 20m」は,時間が0sから始まり,20msまでのトランジェント解析を実行するという意味になります.


図6 直流と交流が混ざった回路例
V1とV5は正弦波交流電圧,V6は直流電圧.

 図7は,図6のシミュレーション結果です.V(out)がOUTのプロット,V(1)がV1の正弦波のプロット,V(5)がV5の正弦波のプロット,V(6)がV6の直流電圧のプロットになります.このようにOUTの波形は,各入力電圧を同時に加減算して「V5の交流+V6の直流-V1の交流」になります.


図7 図6のシミュレーション結果
OUTの波形は「V5の交流+V6の直流-V1の交流」になる.

 以上,解説したように,OPアンプ1つと抵抗で加減算アンプを作ることができます.信号の加減算をするアンプのアプリケーションは,複数ある信号の処理や,テスト信号の発生など広く使われています.Rfを選ぶときの目安は,OPアンプの入力オフセット電流(IOS)による出力電圧の誤差「ΔVOUT=±RfIOS」がOUTの電圧誤差の許容範囲に入ることです.またOPアンプ入力オフセット電圧(VOS)は「ΔVOUT=±(1+Rf/RI’)VOS」となるので,こちらもOUTの電圧誤差の許容範囲に入る確認が必要になります.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice7_026.zip

●データ・ファイル内容
Differential Summing amplifier 1.asc:図4の回路
Differential Summing amplifier 2.asc:図5の回路
Differential Summing amplifier 2 tran.asc:図6の回路
Differential Summing amplifier 2 tran.plt:図7のプロットを指定するファイル

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