負帰還アンプの出力抵抗の影響
図1は,OPアンプとAB級出力回路で構成した負帰還アンプです.X点から左の抵抗(Ro:AB級出力回路の合計の抵抗値)を調べると「Ro=25Ω」でした.また,OPアンプとAB級出力回路のトータルの直流オープン・ループ・ゲインは「A=99.5dB」でした.このとき,出力抵抗(rout:図1合計の抵抗値)は,(a)~(d)のどれでしょうか.
OUTから左側を見た出力抵抗を検討する.
(a)106μΩ (b)212μΩ (c)264μΩ (d)530μΩ
負帰還アンプは,負荷を接続したとき,出力抵抗(rout)が低いほど信号が減衰せずに特性が良くなります.図1はOUTからR1とR2の分圧回路を通り,OPアンプの反転端子へ接続した負帰還アンプになります.X点から左の抵抗値(Ro)は,AB級出力回路の合計の抵抗値で,負帰還の効果により低くなります.これはアンプの直流オープン・ループ・ゲインと負帰還の帰還率に関係しています.
負帰還は,一巡のループを形成しており,具体的にはOUTの信号がR1とR2の分圧回路による帰還率(β)で減衰し,それを直流オープン・ループ・ゲイン(A)で増幅してOUTに戻るループです.このときの一巡するゲインは,ループ・ゲイン(Aβ)になります.X点から左の抵抗値(Ro)は,一巡のループ内にあるので,OUTから見た出力抵抗は負帰還の効果により,Roをループ・ゲインで除算した抵抗「rout=Ro/Aβ」になります.
図1の合計の直流オープン・ループ・ゲインは「A=99.5dB=94406倍」です.そして帰還率はR1とR2の分圧回路より「β=R1/(R1+R2)=0.5倍」になります.この値を用いると,出力抵抗は「rout=25Ω/(94406*0.5)=530μΩ」になり,正解は(d)になります.
●負荷が重いときはアンプの出力抵抗に注意する
理想アンプの出力抵抗は0Ωですが,実際の回路は出力抵抗があります.この有限の出力抵抗により,アンプの出力に重い抵抗性の負荷(電流が多く流れる低い抵抗のこと)が繋がると,出力抵抗と負荷抵抗で分圧回路になり振幅が決まります.
ここでは,出力抵抗が負帰還の効果で低くなることを机上計算し,シミュレーション値と比較します.机上計算には,図1のRoと直流オープン・ループ・ゲイン(A)が必要なので,これは各々別のシミュレーションで求めます.最後にアンプの出力抵抗が高いときと低いときで,重い負荷を接続したときの影響を調べます.
●負帰還アンプの出力抵抗の机上計算
図2の負帰還回路のブロック図を用いてOUTから見た出力抵抗を机上計算します.図2は図1のOPアンプとAB級出力回路を1つにまとめて三角形のアンプの記号にしました.出力抵抗は,図1の入力信号(V1)が無い状態(=0V)で調べるので,R1の左側はGNDになります.図1のX点から左の抵抗値(Ro)は,図2の位置になります.反転端子の電圧はvoutの電圧をR1とR2の帰還率βで減衰した「βvout」になります.それをアンプのオープン・ループ・ゲインで増幅するので「-Aβvout」の信号源で表しています.出力抵抗を調べるときは,OUTにテスト用の電流源(iout)を加えて「rout=vout/iout」の関係から求めます.
テスト用の電流源ioutを加えて出力抵抗を求める.
まず,アンプ側に流れる電流i1はオームの法則より式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
アンプの入力抵抗は無限大とすると,R1とR2へ流れるi2はオームの法則より式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
OUT端子のキルヒホッフの電流則より,ioutとi1とi2の関係は式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
R1とR2の帰還率βは式4になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
式3へ式1,式2,式4を使って整理すると式5になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式5を(iout/vout)になるように整理すると式6になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式6は「Ro/(1+Aβ)」と「R1+R2」の並列抵抗を表す式ですので,出力抵抗(rout)は式7になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
ループ・ゲイン(Aβ)は大きな値ですので,式7右辺の大小関係は式8になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
同様にループ・ゲイン(Aβ)は大きな値ですので,式9の近似ができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
式8の大小関係と式9の近似より,式7は式10とみなせます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
このように,OUTからみた出力抵抗(rout)は,X点から見たRoをループ・ゲインAβで除算した抵抗値になります.
●AB級出力回路のRoをシミュレーションで調べる
図1のX点から左の抵抗値(Ro)をシミュレーションで調べます.図3は,図1のAB級出力回路です.RoはAB級出力回路から生じるので,図3の回路で分かります.この回路の入力はQ1とQ2のエミッタなので,出力抵抗を調べるときはGNDにします.そして,図2の机上計算のときと同じようにOUTへテスト用の信号源ioutを加え,「Ro=vout/iout」をプロットします.使用したドット・コマンドは「.AC」です.図3の中の「.AC oct 30 0.1 10meg」は,0.1Hzから10MHz間を周波数が2倍あたり30ステップの周波数掃引で小信号AC解析を実行するという意味になります.
図4は,図3のシミュレーション結果です.「V(out)/I(iout)」の演算をして出力抵抗の周波数特性をプロットしました.低周波数の0.1Hzは直流に近いことから,直流付近の出力抵抗は「Ro=25Ω」であるのが分かります.AB級出力回路については,過去のメルマガ「AB級プッシュプル回路のアイドリング電流」がありますので,そちらを参考にしてください.
出力抵抗は25Ωになる.
●オープン・ループ・ゲインをシミュレーションで調べる
次に図1のOPアンプとAB級出力回路のトータルのオープン・ループ・ゲインをシミュレーションで調べます.図5は図1のトータルのオープン・ループ・ゲインを調べる回路です.U1のOPアンプは,LTspiceの理想OPアンプを使っており,オフセット電圧等の直流誤差がないので,負帰還から切り離してアンプをオープンにしてもOUTは飽和しません.なので,図5では反転端子をGNDにして非反転アンプへ交流信号を加えて,OUTまでのゲインを簡単にシミュレーションできます.使用したドット・コマンドは図3と同じです.
図5のOPアンプが理想ではなく,製品のOPアンプを使ってオープン・ループ・ゲインをシミュレーションで調べるときは,過去のメルマガ「真のループ・ゲインを求める」を参考にしてください.
図6は,図5のトータルのオープン・ループ・ゲイン周波数特性をプロットしました.図6より,低周波数の0.1Hzは直流に近いことから,直流オープン・ループ・ゲインは「A=99.5dB」であるのが分かります.
低周波のゲインは94406倍になる.
これで「Ro=25Ω」,「A=99.5dB」,R1とR2の分圧回路の帰還率「β=0.5」を用いて,式10で計算した値が,解答の(d)530μΩになります.
●出力抵抗をシミュレーションで調べる
図7は,図1の出力抵抗をシミュレーションする回路です.出力抵抗を調べるため,図2の机上計算のときと同じようにOUTへテスト用の信号源ioutを加え,「Ro=vout/iout」をプロットします.使用したドット・コマンドは図3と同じです.
テスト用の電流源ioutを加えて出力抵抗を求める.
図8は,図7のシミュレーション結果です.「V(out)/I(iout)」の演算をして出力抵抗の周波数特性をプロットしました.低周波の0.1Hzは直流に近いことから,直流付近の出力抵抗は532μΩであり,解答のd)と一致するのが分かります.周波数が高くなると出力抵抗が高くなるのは,式10のオープン・ループ・ゲインが,周波数が高くなるとゲインが低くなるため,出力抵抗の変化が起こります.
低周波の出力抵抗は532Ωになり机上計算と一致する.
●重い負荷のとき,出力抵抗の影響を調べる
最後に重い負荷のとき,出力抵抗が出力信号に与える影響について調べます.図9(a)は,先に算出した,出力抵抗が530μΩの図1の回路へ重い負荷抵抗(RL1)100Ωを接続した回路です.図9(b)は,AB級出力回路を負帰還ループの外に出した回路で,出力抵抗が25Ωの回路になります.負荷抵抗(RL2)は同じく100Ωです.図9(a),図9(b)とも反転アンプで,入力信号は振幅が100mV,周波数が直流に近い低周波の0.1Hzの正弦波です.使用したドット・コマンドは「.tran 20」で,時間0sから20s間のトランジェント解析を実行するという意味になります.
(a)は出力抵抗が小さい(530μΩ)回路.(b)は出力抵抗が大きい(25Ω)回路.
図10は,図9(a)のOUT1,図9(b)のOUT2,そしてIN端子の入力信号をプロットした図です.反転アンプなので,出力信号は入力信号を反転した信号になります.図9(a)と図9(b)の出力信号は,反転アンプのゲインと,出力抵抗と負荷抵抗の抵抗分圧に関係します.図9(a)のゲインは-1倍で,出力抵抗532μΩと100Ωの抵抗分圧なので減衰は無視でき,振幅はほぼ100mVになります.図9(b)はOPアンプの出力まではゲインが-1倍ですが,OUT2は出力抵抗25Ωと100Ωの抵抗分圧なので信号は減衰して約80mVになり,図9(a)より振幅が小さくなるのが分かります.このように出力抵抗が負荷抵抗に対して無視できない抵抗になると,出力電圧は低くなって影響が出てきます.
出力抵抗が小さいと入力と出力振幅の絶対値はほぼ同じになる.
出力抵抗が大きいと出力振幅が小さくなる.
以上,解説したように,図1の出力抵抗は負帰還の効果により低くなります.図1は反転アンプですが,非反転アンプでも同じことになります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice7_022.zip
●データ・ファイル内容
Class AB Ampilifer output resistance.asc:図3の回路
Class AB Ampilifer output resistance.plt:図4のプロットを指定するファイル
NF Amplifier + Class AB openloop gain.asc:図5の回路
NF Amplifier + Class AB openloop gain.plt:図6のプロットを指定するファイル
NF Amplifier + Class AB output resistance.asc:図7の回路
NF Amplifier + Class AB output resistance.plt:図8のプロットを指定するファイル
NF Amplifier + Class AB Transient.asc:図9の回路
NF Amplifier + Class AB Transient.plt:図10のプロットを指定するファイル
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