コンデンサ・マイク用電源回路




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■問題
使用するコマンド ― .AC,.DC

小川 敦 Atsushi Ogawa

 コンデンサ・マイクを使用するためには,比較的高い電圧の電源が必要です.図1は,コンデンサ・マイクに使用する48V電源の,簡略化した回路図です.12Vの電源から昇圧回路を使用して必要な電圧(ここでは48V)を発生させます.図1の回路で,黄色い部分の回路の役割の説明として,もっとも適切なのは,(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 コンデンサ・マイク用の48V電源
黄色い部分の回路の役割の説明として,もっとも適切なのは?

(a)48V出力の電流の逆流を防止する
(b)48V出力の温度特性を補正する
(c)48V出力の出力電流能力をアップさせる
(d)48V出力のオーディオ帯ノイズを低減する


■ヒント

 コンデンサ・マイク用の電源は,ファンタム(Phantom)電源と呼ばれ,一般的に電圧は48Vとなっています.マイク用の電源としてどのような特性が重要かを考えれば,答えは簡単に分かります.なお,ダイナミック・マイクは,マイク本体に電源を供給する必要はありません.

■解答


(d)48V出力のオーディオ帯ノイズを低減する

 図1で,R1およびC1は,カットオフ周波数3Hzのローパス・フィルタを構成しており,3Hz以上のノイズを減衰させます.そのため,Q1のエミッタに現れる電圧もノイズが減少したものになります.つまり,図1の黄色い部分の回路は,48V出力のノイズを低減するための回路です.


■解説

●コンデンサ・マイクの構造
 図2は,コンデンサ・マイクのイメージ図です.コンデンサに抵抗を介して,電圧が加えられています.音圧によってコンデンサの容量値が微小に変化することで,MIC_OUT端子に音圧に比例した信号電圧が発生します.この信号電圧は非常に小さいため,使用する電源にノイズが多いと,マイク出力のS/N(シグナル対ノイズ比)が悪くなってしまいます.そのため,使用する電源はできるだけ低ノイズである必要があります.


図2 コンデンサ・マイク用のイメージ図
コンデンサの容量値が音圧で変化することで,MIC_OUT端子に信号電圧が発生する.

●電源ノイズ低減の方法
 電源ICに内蔵されている1.2V程度の基準電圧源の出力には,通常,問題になりませんが,微小なノイズが存在します.そのため,その基準電圧源をもとに,n倍した電圧を出力する,スイッチング電源やシリーズ電源の出力には,基準電圧源のn倍のノイズが存在することになります.
 その電源に含まれるノイズを低減する一番簡単な方法は,電源の出力に,十分にカットオフ周波数の低い,ローパス・フィルタを入れることです.ローパス・フィルタは,図3のように,抵抗とコンデンサで作ることができます.ただし,負荷電流変化による出力電圧変化を小さくするため,抵抗はあまり大きくできません.


図3 単純なRCフィルタによるノイズ低減回路
非常に大きな値のコンデンサが必要になる.

 仮に負荷電流が10mA変化したときの電圧変化を100mV以下にしたい場合,抵抗値は10Ω以下とする必要があります.また,一例として,3Hz以上のノイズが減衰するように,カットオフ周波数を3Hzに設定すると,必要なコンデンサは式1のように5300μFと非常に大きな値になってしまいます.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

●RCフィルタとエミッタ・フォロアを組み合わせたノイズ低減回路
 図4は,RCフィルタとエミッタ・フォロアを組み合わせ,小さなコンデンサでノイズを低減できる回路です.
 図4の回路では,R1の電流は,出力電流の1/βの電流になります.そのためR1の値を大きく設定することが可能で,その結果C1の値を小さくすることができます.48V_OUT端子の直流電圧は,VPの電圧から約0.7V下がった電圧になります.また,出力電流がI1からI2に増加したときの出力電圧の変化(ΔVOUT)は式2のようになります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

ここで,VT=k*T/q の,kがボルツマン定数で1.38×10-23[J/K],qが電子電荷で1.6×10-19[C],Tが絶対温度です.常温ではVT=26mVとなります.

 また,この回路のカットオフ周波数は式3のように約3Hzとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)


図4 RCフィルタとエミッタ・フォロアを組み合わせたノイズ低減回路
小さなコンデンサでノイズ低減できる.

●ノイズ低減回路の出力電圧特性をシミュレーションする
 図5は,図3図4の回路の負過電流変化に対する出力電流の変化をシミュレーションする回路です.B電流源のB1はI1と同じ電流が流れるように設定し,I1を2mAから12mAまで変化させます.


図5 ノイズ低減回路の出力電圧特性をシミュレーションする回路
B1はI1と同じ電流が流れるように設定し,I1を2mAから12mAまで変化させる.

 図6は,図5の出力電圧特性のシミュレーション結果です.出力電流の変化に対する出力電圧の変化は,「単純なRC回路」と「エミッタ・フォロアを使用した回路」でほぼ同等となっています.


図6 出力電圧特性のシミュレーション結果
「単純なRC回路」と「エミッタ・フォロアを使用した回路」でほぼ同等の特性.

●ノイズ低減回路の周波数特性をシミュレーションする
 図7は,ノイズ低減回路の周波数特性をシミュレーションする回路です.負荷として24kΩの抵抗が追加してあります.そして,それぞれの電源から出力端子までの周波数特性をシミュレーションします.


図7 ノイズ低減回路の周波数特性を確認する回路
24kΩの負荷抵抗を接続し,電源から出力端子までの周波数特性を調べる.

 図8は,図7のノイズ低減回路の周波数特性のシミュレーション結果です.「単純なRC回路」と「エミッタ・フォロアを使用した回路」の周波数特性は全く同じになっています.「エミッタ・フォロアを使用した回路」は,コンデンサの値を「単純なRC回路」の場合の1/50としても,同等の特性が得られることが分かります.また,この周波数特性から,電源に含まれる1kHzのノイズは50dB程度減衰することも分かりました.


図8 ノイズ低減回路の周波数特性のシミュレーション結果
電源に含まれる1kHzのノイズは50dB程度減衰することが分かる.

 以上,電源のノイズを低減する方法について解説しました.今回紹介したコンデンサ・マイク用電源の具体的な回路に関しては「超低ノイズで48V出力のマイクロフォン用ファントム電源、小型の昇圧コンバータを活用して実現」を参照してください.また,マイクについては,「オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門:マイクの種類と使い方」を参照してください.


■データ・ファイル

解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice7_021.zip

●データ・ファイル内容
Noise_Filter_DC.asc:図5の回路
Noise_Filter_AC.asc:図7の回路

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