並列接続したOPアンプのノイズ
図1は,OPアンプを使用したゲイン40dBの増幅回路です.この増幅回路のOut端子の出力ノイズを,100Hz~100kHzの周波数帯域でシミュレーションしたところ,247μVRMSでした.同じOPアンプを使用して,図2のように,図1の回路を4つ並列接続した場合,Out端子の出力ノイズは(a)~(d)のどれでしょうか.
100Hz~100kHzのOut端子の出力ノイズは247μVRMSだった.
Out端子の出力ノイズはいくつ?
(a)124μVRMS (b)175μVRMS (c)247μVRMS (d)349μVRMS
図2の回路のOut端子の電圧は,4個のOPアンプの出力電圧を,ある係数を掛けて加算したものになります.そして,ノイズ信号を加算した場合,どのような結果になるかを考えれば答えが分かります.
図2において,オペアンプの出力は,全て同じ抵抗値でOut端子と接続されています.そのため,Out端子の出力はそれぞれのOPアンプの出力(O1~O4)に,0.25という係数を掛けて加算したものになります.
それぞれのOPアンプの出力ノイズには相関が無いため,ノイズの総和を求める場合は,2乗和平方根をとることになります.それぞれのOPアンプのノイズをVNとすると,Out端子のノイズ(VON)はVON=√((0.25*VN)2+(0.25*VN)2+(0.25*VN)2+(0.25*VN)2)=0.5*VNとなります.つまり,Out端子のノイズはOPアンプ1個の場合のノイズの半分になります.なので,解答は(a)124μVRMSになります.
●抵抗による加算回路
最初に,図2の回路で使われている,抵抗を使用した加算回路(図3)について考えてみます.
Out端子の電圧は,それぞれの電圧源の値を1/4にして加算したものになる.
この回路ではR1~R4の抵抗値はすべて同じ値になっており,その値をRとします.このような回路でOut端子の電圧を求める場合,それぞれの電圧源に対し,1つの電圧源以外は,0Vとして値を計算し,最後にそれらの計算結果をすべて加算することで求めることができます.
まず,V1以外のV2~V3が0Vだった場合,Out端子の電圧は,R1と(R2~R4)の並列接続値で分圧されることになり,式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
他の電圧源の場合も式1と同様な結果になります.そのため,最終的なOut端子の電圧は,式2になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
もし,V1~V4が,すべて同じ信号(VS)だった場合は式3のようにVOut=VSになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
一方,V1~V4が,相関のないノイズ信号で,それぞれの値をVNとすると,ノイズの合計を求める場合,2乗和平方根を計算する必要があります.そのため,VOutのノイズの合計は式4のようになり,VNの半分になることが分かります.
・・・・・・・・・・(4)
●式3が成立するのか確認する
図4の回路で,式3が本当に成立するのか,シミュレーションで確認してみます.ここでは,直観的に分かるように,トランジェント解析を使用します.
図4は,式3を確認するための回路です.V1は,2VPPで1kHzの正弦波を発生させます.そして,B1~B3はV1の出力と同じ電圧を発生させます.入力信号に相関があるため,式3のように,Out端子の電圧はV1の出力電圧と等しくなります.
相関のある信号を抵抗加算したときの出力をシミュレーションする.
V1は,2VPPで1kHzの正弦波を発生させ,B1~B3はV1の出力と同じ電圧を発生させる.
図5は,図4(式3)のシミュレーション結果です.Out端子の電圧と,V1の出力電圧は共に,2VPPの正弦波となっており,式3と同様な結果となっていることが分かります.
Out端子の電圧はV1の出力電圧と等しくなっている.
●式4が成立するのか確認する
図6は,式4を確認するための回路です.通常,LTspiceのトランジェント解析では,素子ノイズ等は考慮されません.そのため,今回はB電圧源で発生させた乱数電圧をノイズとみなして,解析を行います.
相関のないノイズ信号を抵抗加算した場合の出力を確認する.
B電圧源で発生させた乱数電圧をノイズとみなして,解析を行う.
B電圧源は任意の関数を使用して出力電圧を設定できますが,ここではWhite関数を使用して乱数電圧を発生させます.White関数は,引数の整数部に応じた-0.5~0.5のランダムな値を発生させます.図5では,解析時間(time)に係数を掛けたものを引数として指定し,時間ごとに異なった値が発生するようにしています.また,B2~B4はその引数に1~3を加算して,4つのB電圧源が発生する電圧が,異なった値となるようにしています.また,その出力電圧値は概略値が,図1のノイズ電圧値となるよう,係数を設定しています.
図7は,図6(式4)のシミュレーション結果です.上段がOut端子の波形で,下段に4つのノイズ源の波形を表示しています.縦軸は上段,下段ともに同にしてあります.下段に比べ,上段のOut端子のノイズ波形のほうが,小さくなっていることが分かります.
下段に比べ,上段のOut端子のノイズ波形のほうが,小さくなっている.
●「.NOISE」コマンドで増幅回路のノイズを確認する
図1は,1つのOPアンプを使用した増幅回路のノイズをシミュレーションするための回路です.LTspiceでノイズの大きさをシミュレーションするときは,「.NOISE」コマンドを使用します.図8は「.NOISE」コマンドの設定画面です.出力電圧と入力電圧源を指定し,解析する周波数範囲を指定します.
出力電圧と入力電圧源を指定し,解析する周波数範囲を指定する.
図9は,図1の1つのOPアンプを使用した増幅回路のノイズのシミュレーション結果です.グラフは各周波数におけるノイズ電圧密度[V/√Hz]となっています.グラフ画面上部のV(onoise)の部分をCtrlキーを押しながらマウス左クリックすると,表示している周波数帯域のノイズの実効値を表示することができます.図8では,この値が247μVRMSとなっています.
100Hz~100kHzの帯域での出力ノイズは247μVRMSとなっている.
●4つの増幅回路を並列接続したときのノイズを確認する
図10は,図2の4つの増幅回路を並列接続した回路のノイズのシミュレーション結果です.図9と比べると,ノイズ電圧密度のグラフも小さくなっており,100Hz~100kHzの帯域での出力ノイズは124μVRMSと,図8の半分になっていることが分かります.
このように,複数の増幅回路の出力を加算することで,ノイズレベルを小さくすることができます.2つの増幅回路の出力を加算した場合,ノイズは1/√2となり,4つの増幅回路の出力を加算した場合は1/2とすることができます.
100Hz~100kHzの帯域での出力ノイズは124μVRMSと図8の半分になっている.
以上,増幅回路を並列接続した場合のノイズについて解説しました.微小な信号を増幅する場合,できるだけノイズの小さなOPアンプを選択するのが基本です.それでもさらにノイズを小さくする必要がある場合は,今回紹介したテクニックを検討してみてください.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice7_019.zip
●データ・ファイル内容
OPamp_noise.asc:図1の回路
OPamp_noise.asc:図2の回路
R_sum_Sin.asc:図4の回路
R_sum_Noise.asc:図2の回路
R_sum_Noise.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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