降圧モードLEDドライバの動作
図1は,降圧モードLEDドライバICで,LEDを点灯させるための回路図です.図1では,R1の値を変えることで,LED電流(ILED)を調整することが可能で「ILED=0.2/R1」となります.
LEDドライバICのスイッチング周波数は1MHzです.SW1がOFFのとき,B点の電圧波形は図1下のようになり,0V(LOW)の時間が0.23μsecでした.
SW1をONした場合,B点が0V(LOW)になっている時間は(a)~(d)のどれでしょうか.
ただし,コイル(L1)の電流は連続して流れており,コイルやIC内部の損失は無視できるものとします.
SW1をONしたとき,B点が0Vになっている時間は?
(a)0.12μsec (b)0.23μsec (c)0.35μsec (d)0.47μsec
降圧モードLEDドライバICは,降圧スイッチング電源と類似した動作をします.まず,電源電圧とB点の波形のデューティ比から,A点の電圧を計算します.そしてA点の電圧から,LEDの電圧を求めます.次に,SW1がONしているときのA点の電圧を求め,その電圧からB点の波形のデューティ比を求めれば,答えが分かります.
図1の降圧モードLEDドライバICは,電源を基準した電圧を作り出す,降圧スイッチング電源と同様な動作をします.B点が0Vになっているデューティ比をDとすると,電源端子とA点の電圧差(VOUT)は「VOUT=VCC*D」で計算することができます.
スイッチング周波数が1MHzなので,周期は1μsecとなり,B点が0Vになっている時間が0.23μsecであることから,デューティ比は0.23になります.そのため,図1でSW1がOFFのとき「VOUT=0.23*30=6.9V」となります.また,LED電流が「ILED=0.2/R1」で求められることから,R1の電圧降下は0.2Vになります.そのため,LED2個の直列電圧は6.9-0.2=6.7Vとなり,LED1個の電圧は3.35Vであることが分かります.
SW1をONすると,電源端子とA点の電圧差(VOUT)は「VOUT=0.2+3.35=3.55V」に変化します.このとき,B点のデューティ比Dは「D=VOUT/VCC=3.55/30=0.118」となります.そのため,B点が0Vになっている時間は0.118μsecとなり,(a)~(d)で最も近いのは,(a)の0.12μsecとなります.
●LEDを点灯させる簡単な方法
LEDを点灯させるための回路で最も簡単なものは,図2左のように直列に抵抗を入れる方法です.ただし,この回路は,図2右のように,電源電圧によってLED電流が変化してしまいます.そして,LEDで消費する電力と,電源から供給される電力の比である,効率もよくありません.
電源電圧によってLED電流が変化してしまう.
電源電圧によってLED電流が変化してしまうのを防ぐ方法の1つに,抵抗の替わりに定電流素子を使用する方法があります.図3は定電流素子として,JFETを使用したものです.電源電圧変化によるLED電流の変動は小さくなっていますが,電源電圧が高いときの効率がよくありません.
LED電流の変化は少ないが,電源電圧が高いときに効率が低下する.
●降圧モードLEDドライバICの動作
図2や図3の回路の問題点を解消できるのが,降圧モードLEDドライバICになります.降圧モード・ドライバICの基本的な原理は,降圧スイッチング電源と同じです.
図4は,一般的な降圧スイッチング電源と図1の降圧モードLEDドライバのブロック図です.最も大きな違いは,降圧スイッチング電源がOut端子の電圧が一定になるように,スイッチをPWM制御するのに対し,降圧モードLEDドライバは,R1に発生する,LED電流に比例した電圧が一定になるように,スイッチをPWM制御します.
また,図4の降圧スイッチング電源は,PWM制御されるスイッチが電源側に接続され,降圧モードLEDドライバは,PWM制御されるスイッチがGND側に接続されています.ただし,降圧モードLEDドライバは,PWM制御されるスイッチを電源側にした構成とすることもできます.
PWM制御されるスイッチの周期をTとし,スイッチがONしている時間をTONとすると,コイルの電流が0にならず,電流連続モードで動作している場合,どちらの回路もVOUTは式1で表すことができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
降圧モードLEDドライバは,LED電流が一定になるようにスイッチをPWM制御する.
●降圧モードLEDドライバを確認する
図5は,図1の降圧モードLEDドライバをシミュレーションするための回路です.スイッチS1は,パルス電源のV1でON/OFFを制御しています.V1は,周期1μsec(周波数1MHz)で,ON時間(TON)をLED電流が20mAになるように微調整し,0V(LOW)の時間を0.234μsecに設定しています.ここでは,TONを0.23μsecとして,VCCとA点の電圧差(VOUT)を計算すると,式2のように6.9Vとなり,A点の電圧は「30V-7V=23.1V」となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
スイッチS1は,パルス電源のV1でON/OFFを制御している.
図6は,図5のシュミレーション結果です.LED電流は約20mAでA点の電圧は23.2Vとなっています.
LED電流は約20mAでA点の電圧は23.2Vになっている.
●1つのLEDに並列接続したスイッチをONしたときの降圧モードLEDドライバを確認する
図7は,1つのLEDに並列接続したスイッチをONした場合をシミュレーションするための回路です.まず,式2の結果を元に,1つのLEDに並列接続したスイッチをONした場合,LED電流が20mAになるTONがいくつになるか求めてみます.
スイッチS1はパルス電源のV1でON/OFFを制御している.
VCCとA点の電圧差(VOUT)は式3で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
LED電流が20mAであることから,R1の電圧降下(VR1)は「20mA*10=0.2V」になります.式3を変形してLEDの電圧(VLED)を求めると,式4のように,3.35Vになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
1つのLEDに並列接続したスイッチをONした場合のVOUTは式5で求められます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
このとき,A点の電圧は30V-3.55V=26.45Vになります.式2を変形して1つのLEDに並列接続したスイッチをONした場合のTONを求めると,式6のように約0.12μsecになります.図7では,LED電流が20mAになるようにTONを微調整し,0.127μsecとしています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
図8は,図7の1個のLEDを駆動したシミュレーション結果です.LED電流は20mAでA点の電圧は26.5Vになっています.
LED電流は20mAでA点の電圧は26.5Vになっている.
図9は,図7の回路で,LEDで発生する電力とVCCが供給する電力の比を計算して効率を表示したものです.これは,[Plot settings]から[Add Traces]を選択し「100*V(c,A)*I(D2)/(-I(VCC)*V(VCC))」と入力することで表示することができます.
電源電圧30Vのときの効率は80%となっている
また,波形表示画面のメニューバーから,[Plot Settings][Open Plot Setting File]を実行し,"LED_Dr_1p_Ef.plt"を選択して開くことでも表示できます.電源電圧が30Vのとき,図2や図3の回路では効率が10%程度でしたが,降圧モードLEDドライバでは80%程度の効率が得られています.なお,図7のR2とC2は電源(VCC)に流れる電流のリプルを低減し,効率のグラフを見やすくするためのフィルターです.
●実際の降圧モードLEDドライバICを確認する
図10は,アナログ・デバイセズ社の降圧モードLEDドライバICである,LT3590をシミュレーションするための回路です.このICは,電源電圧48Vで10個のLEDを直列接続して駆動することができます.
このICは,電源電圧48Vで10個のLEDを直列接続して駆動できる.
図11は,降圧モードLEDドライバICのLT3590のシミュレーション結果です.LED電流が20mAにコントロールされていることが分かります.
LED電流が20mAにコントロールされている.
以上,降圧モードLEDドライバICについて解説しました.降圧モードLEDドライバICと同じ動作原理の降圧スイッチング電源についての詳しい解説は,「LTspice電源&アナログ回路入門:降圧スイッチング電源の基礎」を参照してください.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice7_017.zip
●データ・ファイル内容
simple_LED_Dr_A.asc:図2の回路
simple_LED_Dr_A.plt:図2のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
simple_LED_Dr_B.asc:図3の回路
simple_LED_Dr_B.plt:図3のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LED_Dr_2p.asc:図5の回路
LED_Dr_2p.plt:図6のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LED_Dr_2p.asc:図7の回路
LED_Dr_2p.plt:図8のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LED_Dr_1p_Ef.plt:図9のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
3590.asc:図10の回路
■LTspice関連リンク先
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