白熱電球のフィラメントの抵抗値
図1のように,白熱電球を家庭用電源[ピーク値141V(100Vrms)]につないで点灯したとき,100Wの電力を消費し,フィラメントの温度は2000℃でした.フィラメントの抵抗値は,温度によって変化します.そこで,この電球が消灯しているときのフィラメントの抵抗値として最も近いのは(a)~(d)のどれでしょうか.なお,電球が消灯している場合のフィラメントの温度は27℃で,フィラメントの温度係数は全温度範囲で+0.4%/℃とします.
この電球が消灯しているときの抵抗値は?
(a)11.2Ω (b)22.4Ω (c)100Ω (d)199Ω
白熱電球は,不活性ガスを充填したガラス容器の中に,抵抗体を封入したものです.この抵抗体に電流を流すことで発熱させ,光を発生させます.この抵抗体のことをフィラメントと呼びます.エジソンが開発した白熱電球のフィラメントには,日本の竹を炭化したものが使用されたと言われています.しかし,現在の多くの電球ではタングステン線が使われています.タングステン線の抵抗値は,温度によって変化します.まず,電球が点灯しているときの抵抗値を求め,次に27℃の場合の抵抗値を計算すれば,答えが分かります.
消費電力(P)と電圧(V),抵抗値(R)の関係式は「R=V2/P」となります.電圧が100Vrmsで100Wの電力を消費する抵抗値は100Ωです.フィラメントの温度係数をα,点灯しているときの温度と抵抗値をT1とRT1として,消灯している場合の温度と抵抗値をT2,RT2とすると「RT1=RT2(1+α(T1-T2))」となります.問題文の値を代入して,消灯しているときの抵抗(RT2)を求めると,11.2Ωとなります.
●抵抗値と消費電力の関係
電力(P)は電流(I)と電圧(V)を掛けたもので,式1で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
また,電流(I)は電圧(V)を抵抗(R)で割ったもので,式2で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
そのため,抵抗(R)に電圧(V)を加えたときに,抵抗で発生する電力は1式に2式を代入した式3で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
100Vrmsの電源につないだとき,100Wの電力を消費する抵抗値は,式3を変形した式4で求めることができます.式4より,図1の白熱電球が点灯している場合のフィラメント抵抗は,100Ωであることが分かります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
なお,家庭用電源はピーク値141Vの交流信号ですが,このような計算のときは,実効値の値を使用します.
●抵抗の温度係数と抵抗値の関係
白熱電球に使用されているタングステン線は,温度によって抵抗値が変化します.1℃あたりどのくらい抵抗値が変化するかという係数を,温度係数といいます.厳密には,タングステン線の温度係数は,温度が高い場合と低い場合では値が異なるのですが,ここでは,温度係数は全温度範囲で一定の値(α)とします.温度(T1)の場合の抵抗値をRT1とし,温度T2の場合の抵抗値をRT2とすると,RT1は式5で表すことができます.なお,T1はT2よりも大きいものとします.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式5を変形してRT2を求めると,式6になります.
・・・・・・・・・・・(6)
問題文の値を代入すると,27℃の場合のフィラメントの抵抗値は11.2Ωであることが分かります.
●電球が点灯しているときの消費電力を確認する
図2は,白熱電球が点灯している場合の消費電力をシミュレーションするための回路です.V1は,100Vrms(ピーク電圧141V)で50Hzの交流電源です.R1がフィラメントで抵抗値は11.2Ωとなっています.R1の「Value2」にTC1=0.004と入力してありますが,これが抵抗の温度係数で+0.4%/℃という意味になります.「.TEMP」コマンドを使用して解析温度を2000℃とした上で,「.TRAN」コマンドでトランジェント解析を行います.
抵抗の温度係数は0.4%/℃で,解析温度を2000℃としている.
図3は,図2の回路のシミュレーション結果です.上段がV1の電圧で,下段が抵抗の消費電力です.消費電力を表示するときは,「Altキー」を押しながら抵抗をクリックします.抵抗に印可される電圧と,抵抗に流れる電流の積が自動的に表示されます.波形を見ると,ピーク電力200Wで正弦波状に変動していることが分かります.「Ctrlキー」を押しながら,「V(V)*I(R1)」の部分をクリックすると,平均電力を表示させることができます.その値は99.8Wとなっており,消費電力はほぼ100Wとなっていることが分かります.
平均電力はほぼ100Wとなっている.
●白熱電球のラッシュ電流を確認する
式6のように,点灯していないとき,白熱電球のフィラメントの抵抗値は非常に小さくなっています.そのため,白熱電球に電圧を加えた直後は,瞬間的に大きな電流が流れます.この電流をラッシュ電流と呼びます.
図4は,白熱電球のラッシュ電流をシミュレーションするための回路です.ラッシュ電流をシミュレーションするためには,フィラメントの温度変化を再現する必要があります.
消費電力と熱抵抗から,フィラメントの温度を求めている.
図4では,熱抵抗の考え方を使って,フィラメントの温度を求めています.フィラメントの消費電力が100Wのとき,フィラメント温度が2000℃になっていることから,フィラメントと外気との熱抵抗は2000℃/100W=20℃/Wと考えられます.そこで,消費電力を電流に,温度を電圧に置き換えると,熱抵抗を通常の抵抗に置き換えた回路で,フィラメントの温度変化をシミュレーションすることができます.
また,図4ではビヘイビア電流源(B1)を使用し,「I=V(V)*I(R1)」として,フィラメントの消費電力を電流に変換しています.そして,その電流を熱抵抗(R2)に加えています.R2に並列に接続されているコンデンサ(C1)は,温度上昇の時定数を表現するためのものです.また,電圧源(V2)は,電球が点灯していない場合のフィラメントの温度を表しています.このように構成すると,Tf端子の電圧が,フィラメントの温度を表すことになります.
フィラメント(R1)の抵抗値の部分に,「R=Rt2*(1+a*(V(Tf)-T2))」と式5と同等の内容が記入してあります.このように設定することで,R1の抵抗値を,フィラメント温度(V(Tf))に依存した値にすることができます.V1は,図2と同じ100Vrms(ピーク電圧141V)で50Hzの交流電源ですが,遅延時間を0.2秒としているため,シミュレーション開始0.2秒後に電球が点灯することになります.
図5は,図4のシミュレーション結果です.解析開始0.2秒後に通常の9倍程度のラッシュ電流が流れていることが分かります.また,フィラメントの温度を表すTf点の電圧(V(Tf))は徐々に上昇し,2秒後に約2000Vで一定となっています.これは,フィラメント温度が最終的に2000℃で一定になることを表しています.
0.2秒後に通常の9倍程度のラッシュ電流が流れている.
以上,白熱電球のフィラメントの抵抗値とラッシュ電流について解説しました.現在はLED電球が主流となり,白熱電球を使用する機会は少なくなっています.しかし,白熱電球が使用できる機器を設計する際は,白熱電球のラッシュ電流について配慮する必要があります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice7_009.zip
●データ・ファイル内容
light_bulb_PW.asc:図2の回路
light_bulb_PW.plt:図3のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
light_bulb_rush.asc:図4の回路
light_bulb_rush.plt:図5のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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