トランジスタの欠点を補うOPアンプの入力回路




『LTspice Users Club』のWebサイトはこちら

■問題
IC内部回路 ― 上級

小川 敦 Atsushi Ogawa

 図1は,741型OPアンプと呼ばれる,古典的なOPアンプの内部回路を簡略化した回路図です.出力とマイナス入力端子を直結して,ゲイン1のバッファ・アンプとして動作します.この回路のプラス入力端子に2VPPで1kHzの正弦波を加えたとき,X点の波形として正しいのは,図2の(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 741型OPアンプと呼ばれる,古典的なOPアンプの内部回路を簡略化した回路図
出力とマイナス入力端子を直結して,ゲイン1のバッファ・アンプとしている.


図2 図1の回路のX点の波形
入力に2VPPで1kHzの正弦波入力を加えたときの波形は?

(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形


■ヒント

 図1でQ13は,定電流源として動作します.そして,Q1とQ2のコレクタ電流を足し合わせた電流が,Q13のコレクタ電流と等しくなります.X点の電圧は,この条件を満たすような値になっていることを考えれば,答えが分かります.

■解答


(b)の波形

 図1の回路は,Q1とQ2のコレクタ電流を足し合わせた電流が,Q13のコレクタ電流と等しくなるように,X点の電圧が制御されます.Q1とQ2のコレクタ電流は,Q1とQ2のベース電圧と,X点の電圧でコントロールされます.トランジスタが適切な電流で動作している場合,そのベース・エミッタ間電圧は,0.7V程度になります.Q1,Q2およびQ5,Q6のベース・エミッタ間電圧を0.7Vとすると,X点の電圧はQ1とQ2のベース電圧よりも1.4V低い電圧になります.
 また,図1のOPアンプは,Q1のベースが+入力端子で,Q2のベースが-入力端子となっています.負帰還を掛けて使用したOPアンプの性質として,+入力端子の電圧と-入力端子の電圧は等しくなります.そのため,Q1とQ2のベース電圧波形は,ともに,0Vを中心として±1Vの正弦波信号になります.そして,前述のX点の電圧はそれよりも1.4V低い電圧になります.図2の(a)~(d)の中で,そのような波形となっているのは,図2の(b)なので,正解は(b)ということになります.

■解説

●OPアンプの入力回路
 OPアンプの入力回路は,一般的に,2つのトランジスタを組み合わせた差動回路で構成されます.図3は,入力にPNPトランジスタ(Q1,Q2)を使用した入力回路です.741型OPアンプが開発された当時は,PNPトランジスタの性能が良くありませんでした.ラテラルPNP(LPNP:横型PNP)という構造で,電流増幅率は,NPNトランジスタよりもかなり小さい値でした.そのため,図3の回路では,Q1,Q2のベース電流がOPアンプの入力バイアス電流となり,帰還抵抗やバイアス抵抗によって,入力オフセット電圧が発生してしまうという問題がありました.


図3 PNPトランジスタを使用した入力回路
OPアンプの入力バイアス電流が大きくなるという問題があった.

 一方,図4のような,入力にNPNトランジスタ(Q1,Q2)を使用した入力回路は,OPアンプの入力バイアス電流に関しては,図3の回路よりもかなり小さくできます.ところが,信号を増幅するトランジスタ(Q5)の電流増幅率が小さいため,OPアンプのオープン・ループ・ゲインンが小さくなってしまう,という問題がありました.


図4 NPNトランジスタを使用した入力回路
OPアンプのオープン・ループ・ゲインンが小さくなってしまうという問題があった.

 そこで考案されたのが,図1のOPアンプに使用されている入力回路です.図5は,図1の入力回路部分のみを取り出したものです.入力トランジスタ(Q1,Q2)には,NPNトランジスタを使用しているため,ベース電流が図3よりも小さくなります.そして,入力NPNトランジスタのエミッタにPNPトランジスタ(Q5,Q6)が接続されています.Q5,Q6はベース接地として動作します.そのため,Q6のコレクタ電流は,Q1のコレクタ電流とほぼ等しく,Q5コレクタ電流がQ2のコレクタ電流とほぼ等しくなります.


図5 LPNPトランジスタの欠点を補うことのできる入力回路
入力はNPNトランジスタを使用し,そのエミッタにPNPトランジスタが接続されている.

 そして,Q5とQ6のコレクタ電流を足したものは,I1とほぼ等しく,IN+とIN-の電圧差によって,それぞれのトランジスタのコレクタ電流の比率が変わります.また,信号を増幅するトランジスタ(Q16)はNPNタイプなので,オープン・ループ・ゲインも大きくすることができます.つまり,図5の回路は,LPNPトランジスタの欠点から発生する問題を,解消することができるものです.ここで,Q1,Q2のベースがGND電位だった場合に,X点の電圧がいくつになるか,考えてみます.図5において,Q4,Q9はカレント・ミラー回路となっており,Q9のコレクタ電流はQ4の電流(ICQ1+ICQ2)と等しくなります.
 Q9のコレクタ電流がI1よりも小さい場合,X点の電圧は低くなります.すると,Q1,Q2,Q5,Q6のベース・エミッタ間電圧が大きくなり,Q1,Q2のコレクタ電流が大きくなります.するとQ9のコレクタ電流も大きくなります.ここでQ9のコレクタ電流がI1よりも大きくなると,X点の電圧が上がり,Q1,Q2,Q5,Q6のベース・エミッタ間電圧が小さくなり,Q1,Q2のコレクタ電流が小さくなります.そのため,X点の電圧は,Q9のコレクタ電流とI1が等しくなる電圧で安定することになります.

●741型OPアンプの入力回路を確認する
 図6は,741型OPアンプの入力段の特性をシミュレーションするための回路です.IN-端子は,GNDに接続し,IN+端子の電圧を-200mVから+200mVまで1mVステップで変化させます.


図6 741型OPアンプの入力段の特性をシミュレーションするための回路
IN+端子の電圧を-200mVから+200mVまで1mVステップで変化させる.

 図7は,図6のシミュレーション結果です.図7は,PNPトランジスタのコレクタ電流を表示しているため,電流の符号がマイナスとなっていますが,入力電圧が0mVのとき,ICQ5,ICQ6ともに絶対値は,約10μAとなっています.そのため,ICQ5,ICQ6の合計電流は20μAとなり,I1の電流値と等しくなっていることが分かります.また,入力電圧によってICQ5とICQ6の電流の比率が変わっており,ICQ5が大きくなるとICQ6が小さくなる,差動入力回路として動作していることが分かります.


図7 741型OPアンプの入力段のシミュレーション結果
入力電圧が0mVのときは,ICQ5,ICQ6ともに約10μAで合計値がI1と等しい.

●741型OPアンプの動作を確認する
 図8は,図1の741型OPアンプの動作をシミュレーションするための回路です.PNPトランジスタのモデル・タイプは,LPNPモデルとなっています.そして電流増幅率(BF)は,25となっています.


図8 741型OPアンプの動作をシミュレーションするための回路
PNPトランジスタのモデル・タイプはLPNPモデルで,電流増幅率は25となっている.

 図9は,図8のシミュレーション結果です.X点の電圧は,入力端子電圧(V(IN))よりも約1.4V低い電圧になっています.


図9 741型OPアンプのシミュレーション結果
X点の電圧は入力端子電圧(V(IN))よりも約1.4V低い.

●実際の741型OPアンプ(LM741)と周辺回路で動作を確認
 図10は,741型OPアンプと周辺回路(R11,R12,R14,V1,V2)でゲイン11倍の非反転増幅回路を構成しています.R11とR12で帰還を掛けています.
 図10は,実際のOPアンプと同じように,図1図8の回路では省略した,出力トランジスタの過電流保護回路や,ベース電流補償回路が含まれています.


図10 LTspiceのサンプルファイルLM741.asc
R11とR12で帰還をかけ,ゲイン11倍の非反転増幅回路を構成
ドキュメント\LTspiceXVII\examples\Educational\LM741.asc

 図11は,図10のシミュレーション結果です.入力の±1Vの正弦波に対し,出力は±11Vとなっており,ゲイン11倍の非反転増幅回路として動作していることが分かります.


図11 LM741.ascのシミュレーション結果
出力電圧は入力電圧の11倍になっている.

 図12は,入力端子の電圧(V(3))とX点の電圧を表示したものです.ゲイン11倍の非反転増幅回路として動作させた場合も,X点の電圧は,入力端子の電圧よりも約1.4V低い電圧になっていることが分かります.


図12 LM741.ascの入力端子とX点のシミュレーション結果
X点の電圧は入力端子の電圧よりも約1.4V低い電圧になっている.

 以上,741型OPアンプの入力回路について解説しました.741型OPアンプは1968年に最初の製品が販売されています.52年前(2020年現在)に設計された回路ですが,トランジスタの欠点をうまく補うことのできるよう,非常に巧妙な回路となっています.


■データ・ファイル


解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_045.zip

●データ・ファイル内容
741_INPUT_DCS.asc:図6の回路
741_INPUT_DCS.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
741typeOPamp.asc:図8の回路
741typeOPamp.plt:図9のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LM741.asc:図10の回路
LM741.plt:図11のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル

■LTspice関連リンク先


(1) LTspice ダウンロード先
(2) LTspice Users Club
(3) トランジスタ技術公式サイト LTspiceの部屋はこちら
(4) LTspice電子回路マラソン・アーカイブs
(5) LTspiceアナログ電子回路入門・アーカイブs
(6) LTspice電源&アナログ回路入門・アーカイブs
(7) IoT時代のLTspiceアナログ回路入門アーカイブs
(8) オームの法則から学ぶLTspiceアナログ回路入門アーカイブs

トランジスタ技術 表紙

CQ出版社オフィシャルウェブサイトはこちらからどうぞ

CQ出版の雑誌・書籍のご購入は、ウェブショップで!


CQ出版社 新刊情報



トランジスタ技術SPECIAL

TRSP No.153 ずっと使える電子回路テクニック101選

ディジタル信号処理シリーズ

プログラム101付き 音声信号処理

Interface 2021年2月号

作るOS・言語・コンパイラ 低レイヤ入門

CQ ham radio 2021年 1月号

2021年のアマチュア無線

HAM国家試験

第4級ハム国試 要点マスター2021

アナログ回路設計オンサイト&オンライン・セミナ