トランジスタの欠点を補うOPアンプの入力回路
図1は,741型OPアンプと呼ばれる,古典的なOPアンプの内部回路を簡略化した回路図です.出力とマイナス入力端子を直結して,ゲイン1のバッファ・アンプとして動作します.この回路のプラス入力端子に2VPPで1kHzの正弦波を加えたとき,X点の波形として正しいのは,図2の(a)~(d)のどれでしょうか.
出力とマイナス入力端子を直結して,ゲイン1のバッファ・アンプとしている.
入力に2VPPで1kHzの正弦波入力を加えたときの波形は?
(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形
図1でQ13は,定電流源として動作します.そして,Q1とQ2のコレクタ電流を足し合わせた電流が,Q13のコレクタ電流と等しくなります.X点の電圧は,この条件を満たすような値になっていることを考えれば,答えが分かります.
図1の回路は,Q1とQ2のコレクタ電流を足し合わせた電流が,Q13のコレクタ電流と等しくなるように,X点の電圧が制御されます.Q1とQ2のコレクタ電流は,Q1とQ2のベース電圧と,X点の電圧でコントロールされます.トランジスタが適切な電流で動作している場合,そのベース・エミッタ間電圧は,0.7V程度になります.Q1,Q2およびQ5,Q6のベース・エミッタ間電圧を0.7Vとすると,X点の電圧はQ1とQ2のベース電圧よりも1.4V低い電圧になります.
また,図1のOPアンプは,Q1のベースが+入力端子で,Q2のベースが-入力端子となっています.負帰還を掛けて使用したOPアンプの性質として,+入力端子の電圧と-入力端子の電圧は等しくなります.そのため,Q1とQ2のベース電圧波形は,ともに,0Vを中心として±1Vの正弦波信号になります.そして,前述のX点の電圧はそれよりも1.4V低い電圧になります.図2の(a)~(d)の中で,そのような波形となっているのは,図2の(b)なので,正解は(b)ということになります.
●OPアンプの入力回路
OPアンプの入力回路は,一般的に,2つのトランジスタを組み合わせた差動回路で構成されます.図3は,入力にPNPトランジスタ(Q1,Q2)を使用した入力回路です.741型OPアンプが開発された当時は,PNPトランジスタの性能が良くありませんでした.ラテラルPNP(LPNP:横型PNP)という構造で,電流増幅率は,NPNトランジスタよりもかなり小さい値でした.そのため,図3の回路では,Q1,Q2のベース電流がOPアンプの入力バイアス電流となり,帰還抵抗やバイアス抵抗によって,入力オフセット電圧が発生してしまうという問題がありました.
OPアンプの入力バイアス電流が大きくなるという問題があった.
一方,図4のような,入力にNPNトランジスタ(Q1,Q2)を使用した入力回路は,OPアンプの入力バイアス電流に関しては,図3の回路よりもかなり小さくできます.ところが,信号を増幅するトランジスタ(Q5)の電流増幅率が小さいため,OPアンプのオープン・ループ・ゲインンが小さくなってしまう,という問題がありました.
OPアンプのオープン・ループ・ゲインンが小さくなってしまうという問題があった.
そこで考案されたのが,図1のOPアンプに使用されている入力回路です.図5は,図1の入力回路部分のみを取り出したものです.入力トランジスタ(Q1,Q2)には,NPNトランジスタを使用しているため,ベース電流が図3よりも小さくなります.そして,入力NPNトランジスタのエミッタにPNPトランジスタ(Q5,Q6)が接続されています.Q5,Q6はベース接地として動作します.そのため,Q6のコレクタ電流は,Q1のコレクタ電流とほぼ等しく,Q5コレクタ電流がQ2のコレクタ電流とほぼ等しくなります.
入力はNPNトランジスタを使用し,そのエミッタにPNPトランジスタが接続されている.
そして,Q5とQ6のコレクタ電流を足したものは,I1とほぼ等しく,IN+とIN-の電圧差によって,それぞれのトランジスタのコレクタ電流の比率が変わります.また,信号を増幅するトランジスタ(Q16)はNPNタイプなので,オープン・ループ・ゲインも大きくすることができます.つまり,図5の回路は,LPNPトランジスタの欠点から発生する問題を,解消することができるものです.ここで,Q1,Q2のベースがGND電位だった場合に,X点の電圧がいくつになるか,考えてみます.図5において,Q4,Q9はカレント・ミラー回路となっており,Q9のコレクタ電流はQ4の電流(ICQ1+ICQ2)と等しくなります.
Q9のコレクタ電流がI1よりも小さい場合,X点の電圧は低くなります.すると,Q1,Q2,Q5,Q6のベース・エミッタ間電圧が大きくなり,Q1,Q2のコレクタ電流が大きくなります.するとQ9のコレクタ電流も大きくなります.ここでQ9のコレクタ電流がI1よりも大きくなると,X点の電圧が上がり,Q1,Q2,Q5,Q6のベース・エミッタ間電圧が小さくなり,Q1,Q2のコレクタ電流が小さくなります.そのため,X点の電圧は,Q9のコレクタ電流とI1が等しくなる電圧で安定することになります.
●741型OPアンプの入力回路を確認する
図6は,741型OPアンプの入力段の特性をシミュレーションするための回路です.IN-端子は,GNDに接続し,IN+端子の電圧を-200mVから+200mVまで1mVステップで変化させます.
IN+端子の電圧を-200mVから+200mVまで1mVステップで変化させる.
図7は,図6のシミュレーション結果です.図7は,PNPトランジスタのコレクタ電流を表示しているため,電流の符号がマイナスとなっていますが,入力電圧が0mVのとき,ICQ5,ICQ6ともに絶対値は,約10μAとなっています.そのため,ICQ5,ICQ6の合計電流は20μAとなり,I1の電流値と等しくなっていることが分かります.また,入力電圧によってICQ5とICQ6の電流の比率が変わっており,ICQ5が大きくなるとICQ6が小さくなる,差動入力回路として動作していることが分かります.
入力電圧が0mVのときは,ICQ5,ICQ6ともに約10μAで合計値がI1と等しい.
●741型OPアンプの動作を確認する
図8は,図1の741型OPアンプの動作をシミュレーションするための回路です.PNPトランジスタのモデル・タイプは,LPNPモデルとなっています.そして電流増幅率(BF)は,25となっています.
PNPトランジスタのモデル・タイプはLPNPモデルで,電流増幅率は25となっている.
図9は,図8のシミュレーション結果です.X点の電圧は,入力端子電圧(V(IN))よりも約1.4V低い電圧になっています.
X点の電圧は入力端子電圧(V(IN))よりも約1.4V低い.
●実際の741型OPアンプ(LM741)と周辺回路で動作を確認
図10は,741型OPアンプと周辺回路(R11,R12,R14,V1,V2)でゲイン11倍の非反転増幅回路を構成しています.R11とR12で帰還を掛けています.
図10は,実際のOPアンプと同じように,図1や図8の回路では省略した,出力トランジスタの過電流保護回路や,ベース電流補償回路が含まれています.
R11とR12で帰還をかけ,ゲイン11倍の非反転増幅回路を構成
ドキュメント\LTspiceXVII\examples\Educational\LM741.asc
図11は,図10のシミュレーション結果です.入力の±1Vの正弦波に対し,出力は±11Vとなっており,ゲイン11倍の非反転増幅回路として動作していることが分かります.
出力電圧は入力電圧の11倍になっている.
図12は,入力端子の電圧(V(3))とX点の電圧を表示したものです.ゲイン11倍の非反転増幅回路として動作させた場合も,X点の電圧は,入力端子の電圧よりも約1.4V低い電圧になっていることが分かります.
X点の電圧は入力端子の電圧よりも約1.4V低い電圧になっている.
以上,741型OPアンプの入力回路について解説しました.741型OPアンプは1968年に最初の製品が販売されています.52年前(2020年現在)に設計された回路ですが,トランジスタの欠点をうまく補うことのできるよう,非常に巧妙な回路となっています.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_045.zip
●データ・ファイル内容
741_INPUT_DCS.asc:図6の回路
741_INPUT_DCS.plt:図7のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
741typeOPamp.asc:図8の回路
741typeOPamp.plt:図9のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
LM741.asc:図10の回路
LM741.plt:図11のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
■LTspice関連リンク先
(1) LTspice ダウンロード先
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