さまざまな出力電圧の3端子電源IC
図1は,3端子電源ICの内部回路を簡略化したものです.この回路は,R3の値を変えることで,さまざまな出力電圧の3端子電源ICを作ることができます.出力電圧が5Vの3端子電源ICの場合,R3の値は930Ωでした.この回路で出力電圧12Vの3端子電源ICを作る場合,R3の値はいくつにすればよいでしょうか.(a)~(d)の中で正しい抵抗値はどれでしょうか.
出力電圧を12Vとするための,R3の値はいくつ?
(a) 388Ω (b) 2.23kΩ (c) 2.60kΩ (d) 5.88kΩ
図1の回路では,Q8とQ14のベース端子(X点)の電圧が一定の値になるように,出力電圧が制御されます.Q8とQ14のベース電流を無視すると,X点の電圧は出力電圧とR3,R4の比で決まります.この関係を式にして解けば,出力電圧を12VとするためのR3の値が求められます.
出力電圧をVOとすると,X点の電圧は「VX=VO*R4/(R3+R4)」で計算できます.出力電圧5Vのときの定数で計算すると,X点の電圧は3.68Vになります.この値を使って,出力電圧12VのときのR3を求めると「R3=(VO-VX)*R4/VX=(12-3.68)*2.6k/3.68=5.88k」となります.
●3端子電源の基準電圧回路
図2は,3端子電源の基準電圧を発生させる回路を取り出したものです.素子数が多いため,動作が分かりにくいですが,X点の電圧が一定の電圧になるように動作します.
X点の電圧が一定の電圧になるように動作する.
A点の電圧に着目して式を立てると,式1になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1は式2のように書き換えることができます.
・・・・・(2)
式2を変形して整理すると,式3になります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
ここで,Q13の電流は,R15の両端電圧(VBEQ12)をR15で割ったものです.同様にQ11の電流は,R10の両端電圧(VBEQ7+ICQ7*R8)をR10で割ったものです.計算を簡単にするため「VBEQ12≒VBEQ17+ICQ17*R8」として,R15の両端電圧とR10の両端電圧は等しいものとします.さらに「ICQ12= (VB-VA)/R14,ICQ7=(VC-VD)/R9」となりますが,ここでも計算を簡単にするため「VB≒VC,VA≒VD」とします.すると,式3は式4のような近似式とすることができます.
・・・・・(4)
式4から分かるように,R8に発生する電圧は,VTに比例するため,絶対温度に比例し,正の温度係数を持っています.また,R9に発生する電圧(VR9)は「ICQ17*R9」となり,式4の結果を使用すると,式5で表されます.また,VR9も正の温度係数を持っています.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
X点の電圧は,式6で表されますが,3つのトランジスタのVBEの近似値を0.7Vとすると,約3.67Vになります.
・・・・・・・・・(6)
VBEは,負の温度係数を持っており,高温で電圧が小さくなります.一方VR9は,正の温度係数を持っており,高温で電圧が大きくなります.この2つの電圧の比率を適切に設定して加算することで,X点の電圧は温度による変化が小さくなります.
●3端子電源の出力電圧シミュレーション
図3は,図1の回路のR3の値を変化させたときの,出力電圧をシミュレーションするための回路図です.
R3の値を600Ωから8kΩまで10Ωステップで変化させて出力電圧をシミュレーションする.
Q1,Q2が,負荷に電流を供給するための,出力回路です.この回路の出力電圧は,Q1,Q2のベース電流を,Q3,Q18でコントロールすることで制御されます.X点の電圧が式6の値よりも小さい場合,Q3,Q18の電流が小さくなり,Q1,Q2のベース電流が増加するため,出力電圧は大きくなります.一方,X点の電圧が式6の値よりも大きい場合,Q3,Q18の電流が大きくなり,Q1,Q2のベース電流が減少して,出力電圧は小さくなります.そのため,X点の電圧が,式6の値と同じになったところで安定することになります.X点の電圧(VX)は,出力電圧(VOUT)をR3とR4で分圧したものです.そのため,VOUTは式7で表されます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
図3では,R3の値を600Ωから8kΩまで10Ωステップで変化させて出力電圧をシミュレーションします.
図4は,図3のR3の値を変化させたときの出力電圧のシミュレーション結果です.X点の電圧は3.68Vで一定となっています.また,R3が930Ωのときに,出力電圧は5Vとなっており,出力電圧を12VとするためにはR3を5.85kΩとすればよいことが分かります.
R3が930Ωのときに出力電圧は5Vになり,5.85kΩのときの出力電圧は12Vとなる.
●三端子電源IC(LM78シリーズ)の内部回路
図5は,LTspiceのサンプル・ファイルで,LM78シリーズと呼ばれる三端子電源ICの内部回路図です.図1の回路は,図5の回路から保護回路等を省略し,簡略化したものです.
ドキュメント\LTspiceXVII\examples\Educational\LM78XX.asc
図5の回路の電源は,初期値が0Vで10msec後に35Vになるように設定されています.そして,R3の値を905Ω,5.78kΩ,7.87kΩと「.step」コマンドで3通りに変化させてシミュレーションを行います.また,負荷抵抗(Rload)の値は元の値は8Ωでしたが,80Ωに変更しています.
図6が図5のシミュレーション結果です.R3の値を変えることで,出力電圧が5V,12V,15Vに変化しています.また,出力電圧が設定電圧と等しくなるためには,入力電圧が設定電圧よりも2V以上大きい必要があることも分かります.
入力電圧は設定電圧よりも2V以上大きい必要がある.
以上,三端子電源ICの出力電圧について解説しました.図5の回路には過電流保護や過熱保護回路が含まれています.過熱保護回路の動作に関しては,「LTspice電源&アナログ回路入門 ―― 三端子レギュレータの過熱保護回路」を参照してください.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_043.zip
●データ・ファイル内容
LM78XX_M.asc:図3の回路
LM78XX.asc:図5の回路
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