ノイズを数値化する出力雑音電圧




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■問題
ノイズ ― 中級

平賀 公久 Kimihisa Hiraga

 図1は,V3が入力,OUTが出力の非反転アンプで,雑音帯域幅(fBW)が1Hz~20kHzの雑音を調べる回路です.シミュレーションの結果,OUTの出力電圧雑音密度V(onoise)は,一定の203.1nV/√Hzでした.この場合,出力雑音電圧は(a)~(d)のどれでしょうか.


図1 出力雑音電圧密度が203.1nV/√Hzの非反転アンプの回路
1Hz~20kHz間の出力雑音電圧を調べる.
ドキュメント\LTspiceXVII\examples\Educational\noise.asc

(a) 2.8μV (b) 28.7μV (c) 391.4μV (d) 4.1mV


■ヒント

 出力雑音電圧は,出力雑音電力の平方根となります.出力雑音電力は「出力雑音の電力スペクトル密度×雑音帯域幅」で求め,出力雑音電圧が「出力雑音電圧密度×雑音帯域幅の平方根」となります.なので,図1の雑音帯域幅を検討すると分かります.出力雑音の電力スペクトル密度とは,雑音を各周波数成分に分解して1Hzあたりの雑音電力で表した値です.

■解答


(b) 28.7μV

 図2(a)は,解説のため図1の出力雑音の電力スペクトル密度と雑音帯域幅を図示しました.1Hz~20kHz間の出力雑音電圧密度は,一定の203.1nV/√Hzです.また,電力は電圧の2乗に比例することから,出力雑音の電力スペクトル密度V(onoise)2も一定となります.出力雑音の電力スペクトル密度は1Hzあたりの出力雑音電力となります.


図2 出力雑音の電力スペクトル密度と雑音帯域幅を示した図

 本来,一般的な雑音帯域幅は,図2(b)のように周波数によって変化する出力雑音の電力スペクトル密度を積分して求めた面積が「出力雑音の電力スペクトル密度の最大値×雑音帯域幅」の四角形の面積を等しくする周波数範囲となります.
 今回の雑音帯域幅は,図2(a)のように出力雑音の電力スペクトル密度V(onoise)2が周波数によって変化せずに一定なので,1Hz~20kHz間の周波数範囲が雑音帯域幅になり,「fBW=20kHz-1Hz=19.999kHz」となります.図2(a)の四角形の面積は,出力雑音電力であり式1となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 式1の平方根は,式2の出力雑音電圧(Vno)となり,「V(onoise)=203.1nV/√Hz」と「√fBW=√19.999kHz」を用いて机上計算すると(b)の28.7μVとなります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

■解説

●雑音について
 雑音は,周波数や位相が不規則な物の集まりで,特定の時間における振幅値や振幅のピーク値などは予測できません.しかし,オシロスコープで長い時間をかけて観測すると振幅は正規分布しています.式1のVnoは正規分布している出力雑音電圧の実効値を表しています.正規分布している出力雑音電圧を雑音帯域幅の平方根で除算すると出力雑音電圧密度となり,単位は「V/√Hz」になります.出力雑音電圧は,式1の出力雑音電圧密度と帯域幅の関係から求めることができます.

●1Hz~20kHz間にある雑音をシミュレーションする
 図1は,LTspiceのEducationalフォルダにある「noise.asc」の回路で1Hz~20kHz間のノイズ・シミュレーションを実行します.LTspiceのノイズ・シミュレーションは,入力換算雑音電圧密度の「v(inoise)」と出力雑音電圧密度の「v(onoise)」を求めることができます.周波数範囲は「.noise」コマンドで指定します.具体的には次の「.noise」コマンドとなり,V3が入力,V(out)が出力で1Hz~20kHz間を周波数が1オクターブ(2倍)の変化あたり100ポイントのスイープとなります.

.noise V(out) V3 oct 100 1 20k

 図3は,図1のシミュレーション結果で,上段が非反転アンプのゲイン,中段が入力換算雑音電圧密度,下段が出力雑音電圧密度です.入力換算雑音電圧密度は,非反転アンプ内の全ての雑音を入力側に換算した値です.出力雑音電圧密度は,非反転アンプを通過した出力端子に現れる雑音で,「入力換算雑音電圧密度×ゲイン」の関係があります.図3のプロットより,ゲインが「10.38倍」,入力換算雑音電圧密度が「19.57nV/√Hz」,出力雑音電圧密度が「203.1nV/√Hz」となります.1Hz~20kHz間のゲインと入力換算雑音電圧密度は,ほぼ一定なので出力雑音電圧密度も一定となります.


図3 図1のゲイン,入力換算雑音電圧密度,出力雑音電圧密度をプロット
1Hz~20kHz間で出力雑音電圧密度は,ほぼ一定となる.

 図1の中には「.meas」コマンドで積分の関数である「INTEG」を使い,V(onoise)の積分を求めています.V(onoise)の積分は式1と同じことになります.具体的な「.meas」コマンドは次のようになり,V(onoise)の積分は「total_output_refered_rms_noise」の変数へ格納します.

.meas total_output_refered_rms_noise INTEG V(onoise)

 図4は,シミュレーション終了後のログファイルで「.meas」コマンドに関係するところを抜き出しました.V(onoise)の積分結果は28.3μVであり,解答の28.7μVとほぼ等しいことが分かります. ログファイルは「View→SPICE Error Log」,または回路図上での「Ctrl+L(コントロールキーとLキーを同時に押す)」により表示することができます.


図4 図1の.measコマンドの結果 1Hz~20kHzの出力雑音電圧は,28.3μV.

●ノイズ・シミュレーションの周波数範囲を広げてみる
 図1では,ノイズ・シミュレーションの周波数範囲を1Hz~20kHzにして周波数範囲を限定しました.しかし,図1の非反転アンプの周波数特性は20kHz以上の周波数までゲインを持ちます.このためノイズ・シミュレーションの周波数範囲を広げると,雑音帯域幅は回路のゲイン周波数特性に関係するので出力雑音電圧は大きくなります.周波数範囲を広げたときの雑音を調べるため,図1の「.noise」コマンドを次のように変更し,1Hz~10MHzのノイズ・シミュレーションを実行します.

.noise V(out) V3 oct 100 1 10Meg

 図5は,1Hz~10MHzのノイズ・シミュレーションの結果で,上段がデシベルで表したゲイン周波数特性,下段が出力雑音電圧密度の周波数特性です.


図5 図1の1Hz~10MHzのゲインと出力雑音電圧密度をプロット
雑音帯域幅は1Hz~106.8kHz.

 上段のゲイン周波数特性において,コーナ周波数は「fC=68kHz」となります.その後,-6dB/oct(-20dB/decと同意)の傾きでゲインは下がります.これは,一次遅れ系と同じ周波数特性です.一次遅れ系の周波数特性のときの雑音帯域幅は,コーナ周波数と同じにならず,式3のようにコーナ周波数のπ/2だけ高い周波数にあり「fBW=106.8kHz」となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)

 式1と式2を使って机上計算で出力雑音電圧を見積もると式4となります.

・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 一次遅れ系の雑音帯域幅については,LTspice電子回路マラソン・アーカイブsの「雑音が少ない1次ロー・パス・フィルタはどっち?」で解説していますので,そちらを参考にしてください.
 図6は,シミュレーション終了後のログファイルで「.meas」コマンドに関係するところを抜き出しました.1~10MHz間のV(onoise)の積分結果は67.5μVであり,式3とほぼ等しいことが分かります. このように解答で求めた出力雑音電圧より大きくなることが分かります.


図6 1Hz~10MHzの.measコマンドの結果
出力雑音電圧は67.5μV.

 以上解説したように,出力雑音電圧は,出力雑音電圧密度と雑音帯域幅より机上計算で求めることができます.LTspiceでは雑音帯域幅内の出力雑音電圧密度V(onoise)を積分することにより求めることができます.


■データ・ファイル


解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_040.zip

●データ・ファイル内容
noise.asc:図1の回路
noise.plt:図1のプロット指定するファイル

■LTspice関連リンク先


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