アンプの雑音指数
図1は,信号源抵抗が1kΩの電圧源(V1)を入力としたエミッタ接地アンプです.周波数が10kHz,温度が27℃の条件で,入力側に見える全て(アンプと電圧源の雑音)の入力雑音電圧をシミュレーションで調べると5.56nV/√Hzでした.同じ周波数と温度の条件で,図1の雑音指数は(a)~(d)のどれでしょうか.
(\LTspiceXVII\examples\Educational\NoiseFigure.asc)
(a) 2.7dB (b) 3.0dB (c) 5.7dB (d) 6.2dB
雑音指数(NF)は,雑音係数(F)を10logの対数で表した値です.雑音係数(F)は「F=全ての入力雑音電力/信号源抵抗の熱雑音電力」で求まる電力の比です.
雑音指数(NF)は,雑音係数(F)を対数で表したもので式1となります.単位は「dB」です.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
雑音係数は,アンプの入力側に見える全ての入力雑音電力と信号源抵抗の雑音電力の比から求められ,式2となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
全ての入力雑音電圧は,5.56nV/√Hzなので電力にすると「全ての入力雑音電力=5.56nV2/Hz」です.また,信号源抵抗は1kΩですので「信号源抵抗の雑音電力=4kT(1000)/Hz」です.ここで,kがボルツマン定数,Tが絶対温度です.これらを式2へ入れて雑音係数(F)を求め,式1で雑音指数(NF)にすると「NF=2.7dB」となります.
●雑音指数の定義
雑音指数(NF)は,アンプを通過した後の信号対雑音比がどの程度悪化するかを示すもので,ノイズ・フィギュアとも呼ばれます.雑音指数(NF)は,雑音係数(F)の対数をとった式1となります.雑音係数(F)は式3で表され,信号源の信号対雑音比(Si/Ni)とアンプを通過した後の信号対雑音比(So/No)の割合となります.ここで,Siが入力信号の電力,Niが信号源の雑音電力,Soが出力信号の電力,Noが出力の雑音電力です.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式2の雑音係数(F)は,式3を変形して式4とすることで導けます.Si/Soは電力ゲインの逆数なので,式4の分子は出力雑音電力を電力ゲインで除算した全ての入力雑音電力になります.また式4の分母は信号源抵抗の熱雑音電力です.このように式4は式2と同じになります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
●LTspiceでアンプの雑音指数を調べる
LTspiceのノイズ・シミュレーションは,v(inoise)とv(onoise)を求めることができます.図1の「.noise」コマンドの指定は次のようになります.
このノイズ・シミュレーションは,V(out)が全出力雑音のノードとなり,V1が入力雑音の電圧源として指定しています.そして周波数のスイープは,1kHz~100kHz間を1オクターブ(周波数が2倍)あたり10ポイントとなります.
v(inoise)が入力換算雑音電圧密度,v(onoise)は出力雑音電圧密度で,単位は「V/√Hz」です.この2つの雑音は,図1のどこを測定した値なのかを図2のアンプの雑音モデルを使って解説します.
図2は,アンプの雑音モデルです.図1と対比するとVNとINはエミッタ接地アンプの雑音を入力側にまとめて示したものです.VNがエミッタ接地アンプの入力雑音電圧密度,INが入力雑音電流密度です.そして,VSが信号源抵抗の熱雑音電圧密度です.
図2の入力側に見える全ての入力雑音電力(Vni2)は,式5となります.図1の「.noise」コマンドの指定をすると,v(inoise)は,式5の全ての入力雑音電圧密度(Vni)に相当します.また,v(onoise)は全ての入力雑音電圧(Vni)をアンプのゲインで増幅した全ての出力雑音電圧密度となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
雑音指数(NF)をLTspiceで求めるときは,定義通りに式1と式2を使い,式6の計算で求められます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式5と式6より,雑音指数(NF)は,式7となります.式7を使って雑音指数(NF)の代表的な値を調べてみます.雑音がない理想アンプのときは入力雑音電圧密度(VN)と入力雑音電流密度(IN)がゼロなので「NF=0dB」となります.また,信号源抵抗の熱雑音電圧電力とアンプで発生する雑音電力が等しい「VS2=VN2+IN2RS2」のとき,「NF=3dB」となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
●雑音指数のシミュレーション結果
図3は,図1のノイズ・シミュレーション結果で,上段は全ての入力雑音電圧密度のプロット,下段は式6を使った雑音指数(NF)のプロットで,信号源抵抗の熱雑音は「VS2=4kTR」の計算を用いています.10kHzの周波数のとき,上段の全ての入力雑音電圧密度は「Vni=5.56nV/√Hz」なので,下段の雑音指数は「NF=2.7dB」となり解答の確認ができます.
上段は全ての入力雑音電圧密度のプロット.
下段は雑音指数(NF)のプロット.
●雑音指数の使用例
次に図1のエミッタ接地アンプの入力の信号対雑音比(Si/Ni)とアンプを通過した後の信号対雑音比(So/No)を例にして,雑音指数(NF)の具体的な使い方について解説します.信号対雑音比を検討するにあたり,図1のゲインと出力雑音電圧密度が必要なので,それを調べた結果が図4となります.周波数が10kHzで温度は27℃のときの単位Hzあたりの値を調べると,ゲインは「G=39.8dB」,出力雑音電圧密度は「Vno=542.3nV/√Hz」となります.
雑音指数(NF)は対数なので,今後の計算が楽なように電圧をdBmの単位に直して計算します.dBmは負荷抵抗(50Ω)に発生する電力が1mWを基準としたもので,「0dBm=1mW」です.対数の乗算は加算,除算は減算となります.
上段はゲインのプロット.
下段は出力雑音電圧密度のプロット.
図5は,図1のエミッタ接地アンプのブロック図です.入力信号は仮に「Si=-100dBm」としました.アンプのゲインは,図4で調べた「G=39.8dB」とすると,出力信号は,入力信号を増幅した「So=-60.2dBm」となります.入力側の雑音は,信号源抵抗の熱雑音ですので,1kΩの熱雑音電圧である「4kT(1000)=4.07nV」をdBmで表すと「Ni=-154.8dBm」となります.そして出力側の雑音は,図4で調べた542.3nVをdBmで表すと「No=-112.3dBm」となります.
図5の条件で,入力の信号対雑音比(Si/Ni)と出力の信号対雑音比(So/No)を比べます.入力の信号対雑音比は「Si/Ni=-100-(-154.8)=54.8dB」です.次に出力の信号対雑音比は「So/No=-60.2-(-112.3)=52.1dB」となります.入力の信号対雑音比と出力の信号対雑音比の差は「54.8-52.1=2.7dB」となり,出力の信号対雑音比は解答で計算したNF分だけ悪化することが分かります.このようにアンプの雑音指数(NF)が分かると,アンプを通過した後の出力の信号対雑音比がどの程度悪化するかが分かります.
周波数10kHz,27℃,単位Hzあたりの電圧をdBmに換算した.
入力のSi/Ni比と出力のSo/No比はNF分だけ悪化する.
以上,解説したように,雑音指数(NF)はアンプを通過した後の信号対雑音比がどの程度悪化するかを示しています.そして,雑音指数(NF)はLTspiceのノイズ・シミュレーションから求めることができます.アンプを縦続接続するときは初段のゲインを高くすると,主に初段の雑音指数で決まります.これは各アンプの雑音指数から総合の雑音指数を計算するフリス(Friis)の式として知られています.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_038.zip
●データ・ファイル内容
NoiseFigure.asc:図1の回路
NoiseFigure.plt:図1のプロット指定するファイル
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