トライアックを使用した調光回路
図1は,トライアック(TRIAC)とダイアック(DIAC)を使用した白熱電球用の調光回路です.V1は,100Vrmsの一般的な交流電源です.R1の値を変えることで,白熱電球の消費電力をコントロールして,電球の明るさを変えることができます.
図2は,図1の白熱電球の両端の電圧波形です.R1の値を調整して,白熱電球の消費電力を100Wから50Wと50%にしたときの電圧波形として正しいのは,(a)~(d)のどれでしょうか.
R1の値を調整して,白熱電球の消費電力を100Wから50Wにした.
R1の値を調整して消費電力を100Wから50Wにしたときの波形として正しいのは?
(a)の波形 (b)の波形 (c)の波形 (d)の波形
トライアックは,3端子素子で,ゲート電極にパルス信号を入れることで,双方向の電流のON/OFFをコントロールできます.また,ダイアックは2端子素子で,両端の電圧が一定の値(図1の回路では30V)を越えると,急激に電流を流す性質があります.これらの素子の特性と,C1の電圧がどのような波形となるかを考えれば,正解が分かります.
電球の両端電圧は,トライアックが導通していないときは0Vで,導通すると入力交流電源と同じ波形になります.そして,図1の回路では,C1の電圧が約30Vを越えたときに,ダイアックが動作してトライアックのゲートにパルス電流が流れ,トライアックが導通します.
ここで,C1はR1を介して,交流電源で充放電されます.そして,C1の電圧は交流電源の波形よりも,時間的に遅れた波形になります.そのため,ダイアックが動作するのは,交流信号のゼロクロス・ポイントよりも時間的に遅れたタイミングになります.
つまり,トライアックは,交流信号のゼロクロスポイントよりも遅れたタイミングで導通することになります.このようなタイミングでトライアックが導通した波形となっているのは(b)なので,正解は(b)になります.
●トライアックの記号と特性
トライアックは,交流電源を使用した機器の電力制御に使用される素子です.図3のような記号が使われます.
3端子素子となっており,G(ゲート)に信号を加えることで導通する.
T1とT2に電圧を印加した状態でG(ゲート)にパルス信号を加えると,T1とT2間が導通します.一度導通すると,T1とT2に加える電圧を逆転させるまで,導通状態を維持する性質があります.また,T1とT2に加える電圧は正負どちらでも動作し,またゲートに加える信号も,正負どちらの信号でも動作します.
図4は,LTspiceのサンプル・ファイル(ドキュメント\LTspiceXVII\examples\Educational\dimmer.asc)の中にネットリストで記載されている,トライアックの等価回路モデルを回路図に変換し,特性確認用の信号を加えた回路です.
±100Vの三角波をMT1,MT2に加え,G(ゲート)に正負のパルス電流を印加する.
この回路は,簡易等価回路なので,実際のトライアックの動作を,完全に再現したものではありません.なお,使用しているトランジスタは,集積回路用の4端子のものなっています.
Q1とQ4およびQ2とQ3で2つのサイリスタを構成しています.実際のトライアックとは異なり,Q2とQ3のサイリスタのトリガ信号は,Q1,Q4のコレクタ・ベース容量を介して入力されるようになっています.そして,抵抗(R5)を介して±100Vで10Hzの三角波をMT1,MT2に加え,12msecと60msecに±1mAのトリガ電流をG端子に印加しています.
図5は,図4のトライアックの簡易等価回路モデルのシミュレーション結果です.I1のパルス電流でトライアックの導通がコントロールされていることが分かります.
I1のパルス電流でトライアックの導通がコントロールされている.
●ダイアックの記号と特性
図6は,ダイアックの回路記号です.ダイアックは,トライアックと組み合わせて,交流機器の電力を制御するために使用されます.しきい値を越える電圧が印加されると導通します.ツェナー・ダイオードとは異なり,一度導通すると印加電圧を下げても,導通状態を維持します.また,正負どちらの電圧を印加しても同じように動作します.
しきい値を越える電圧が印加されると導通し,電圧を下げても,導通状態を維持する.
図7は,LTspiceのサンプル・ファイル(ドキュメント\LTspiceXVII\examples\Educational\dimmer.asc)の中にネットリストで記載されている,ダイアックの等価回路モデルを回路図に変換し,特性確認用の信号を加えた回路です.抵抗(R5)を介して,±30Vの三角波をT1,T2に加えています.
抵抗(R5)を介して,±30Vの三角波をT1,T2に加えている.
図8は,図7のダイアックの等価回路のシミュレーション結果です.V1の電圧が20Vを越えるとダイアックが導通し,V1の極性が変わるまで導通を維持しています.そして,V1の電圧が-20Vになると,再び導通していることが分かります.
V1の電圧が20Vを越えるとダイアックが導通し,V1の極性が変わるまで導通を維持する.
●トライアックとダイアックを使用した調光回路のシミュレーション
図9は,トライアックとダイアックを使用した,図1の調光回路のシミュレーション回路です.LTspiceのサンプル・ファイル(ドキュメント\LTspiceXVII\examples\Educational\dimmer.asc)を少し変更しています.
B電源を使用して,Rload(電球)に発生する瞬時電力を電圧に変換し,R2とC3のローパス・フィルタを使用して,電力の平均値を表示できるようになっています.そして,.stepコマンドでR1の値を1kΩ,50kΩ,100kΩ,200kΩ,300kΩ,325kΩと変えてシミュレーションを行います.
B電源を使用して,Rloadに発生する電力を表示できるようになっている.
R1の値を1kΩ,50kΩ,100kΩ,200kΩ,300kΩ,325kΩと変えてシミュレーションを行う.
図10は,図9のシミュレーション結果です.R1の値を変えることで,電球に加わる電圧波形が変化し,電球の消費電力が調整できることが分かります.また,問題文のように,電球の電力が100Wの50%の,50Wになっているのは,R1の値が200kΩのときと分かります.
R1の値を変えることで,電球の消費電力を調整できることが分かる.
B電源を使用して,Rload(電球)に発生する瞬時電力を電圧に変換しているので,電球の消費電力(W)の単位が(V)になる.
図11は,図9のR1が200kΩのときのシミュレーション結果だけを表示したものです.C1の電圧波形は入力電圧よりも遅れており,C1の電圧が30Vになったときにトライアックが導通していることが分かります.電球に加わっている電圧波形は図2の(b)と同じものです.
C1の電圧が30Vになったときにトライアックが導通している.
以上,トライアックとダイアックを使用した調光回路について解説しました.この調光回路は基本的には白熱電球専用です.LED電球を使用する場合は,調光機能に対応した回路を内蔵したものを使用する必要があります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_037.zip
●データ・ファイル内容
TRIAC_sim.asc:図4の回路
DIAC_sim.asc:図7の回路
dimmer100.asc:図9の回路
TRIAC_DIAC.txt:図9の回路に使用しているTRIACとDIACのネットリスト
dimmer100.plt:図10のグラフを描画するためのPlot settinngsファイル
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