シャント・レギュレータICを使用した基準電圧回路
図1は,2.5Vシャント・レギュレータIC(LT1009)を使用した基準電圧回路です.出力には,負荷となる1.8kΩの抵抗(RL)が接続されています.この回路で電源(V1)の電圧を5V,10V,15V,20Vと変化させたときの,OUT端子の電圧として正しいのは(a)~(d)のどれでしょうか.
V1の電圧を5V,10V,15V,20Vと変化させたときの,OUT端子の電圧は?
V1 | 5V | 10V | 15V | 20V |
(a) | 2.5V | 2.5V | 2.5V | 2.5V |
(b) | 1.7V | 2.5V | 2.5V | 2.5V |
(c) | 2.5V | 2.5V | 5V | 6.7V |
(d) | 1.7V | 3.3V | 5V | 6.7V |
LT1009は,出力電圧微調整用の端子を持ったシャント・レギュレータICで,基準電圧を作るときによく使われます.LT1009は,端子電圧が設定電圧(2.5V)よりも高くなると,電流を増加させるように動作します.そのため,高精度で温度特性の優れたツェナー・ダイオードとして使用することができます.図1でLT1009が2.5Vのツェナー・ダイオードとして動作すると考えれば,答えが分かります.
V1 | 5V | 10V | 15V | 20V |
(b) | 1.7V | 2.5V | 2.5V | 2.5V |
LT1009が接続されていないとき,OUT端子の電圧は,V1をR1とRLで分圧したものになります.V1が5Vのとき,OUT端子の電圧は1.7Vとなり,10Vのとき3.3V,15Vのとき5V,20Vのとき6.7Vになります.
OUT端子に2.5Vのツェナー・ダイオードを接続すると,OUT端子の電圧は2.5V以上にはなりません.そのため,OUT端子の電圧は,V1が5Vのときだけ1.7Vになり,それ以上のときは2.5Vになります.
●シャント・レギュレータICとツェナー・ダイオード
LT1009のようなシャント・レギュレータICは,基本的には2端子素子として動作します.一端はGND端子で,もう一端に電圧を印可すると,設定された電圧以上になったときに,電流が流れるようになっています.この電圧はVZという記号で表示されており,LT1009の場合2.5Vとなっています.また,シャント・レギュレータICに電流を流すと,一定の電圧が発生します.
このような動作をする素子としては,ツェナー・ダイオードがあります.ツェナー・ダイオードも電流を流すと一定の電圧が発生します.しかし,流す電流の大きさによって,発生する電圧は多少変動します.電流変化に対する電圧変化の割合をダイナミック・インピーダンスといい,一般的なツェナー・ダイオードの場合,数十Ωとなっています.
一方,シャント・レギュレータICの場合,このダイナミック・インピーダンスが非常に小さく,LT1009の場合は0.2Ωとなっています.そのため,流す電流が変化したときの電圧変動が非常に小さくなっています.また,ツェナー・ダイオードは,個体ごとの電圧ばらつきが±5%程度あるのに対し,シャント・レギュレータICのLT1009では,0.2%以内にばらつきが管理されています.さらに,シャント・レギュレータICでは,温度が変化したときのVZの変動が非常に小さくなっています.
●シャント・レギュレータICとツェナー・ダイオードの特性の違い
図2は,ツェナー・ダイオードとシャント・レギュレータの特性の違いをシミュレーションするための回路です.ツェナー・ダイオードは,ブレーク・ダウン電圧が4.7Vの1N750を使用しています.OUT_SRの電圧をOUT_ZDの電圧に近づけるため,LT1009を2個直列に接続していますが,通常はこのような使い方はしません.
V1の電圧を6V~20Vまで変化させ,さらに温度を-25℃~75℃まで25℃ステップで変化させています.
OUT_SRの電圧をOUT_ZDの電圧に近づけるため,LT1009を2個直列に接続している.
図3は,図2をシミュレーションした結果です.ツェナー・ダイオードを使用したOUT_ZD端子の電圧は,電源電圧や温度が変化すると変動します.それに対して,シャント・レギュレータを使用したOUT_SR端子の電圧は,ほとんど変化していません.
シャント・レギュレータは電源電圧や温度が変わっても出力電圧は一定.
●シャント・レギュレータICを使用した基準電圧回路
シャント・レギュレータICを基準電圧源として使用する場合,図1のように電源から抵抗(R1)を介してシャント・レギュレータICを接続します.シャント・レギュレータICを使用した基準電圧源は,一般的な電源回路と異なり,負荷としてあまり小さな抵抗を接続することができません.R1と負荷抵抗(RL)で電源電圧(V1)が分圧されてしまい,出力電圧が低下してしまう場合があるためです.
図1の回路で,シャント・レギュレータICを接続しないときのOUT端子の電圧は式1で計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
式1を変形すると,式2のように,OUT端子の電圧が2.5Vを維持できる,最低電源電圧(VL)を計算することができます.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式2の結果から,図1の回路は電源電圧が7.5V以下のときはOUT端子が2.5V以下となってしまうことが分かります.ただし,実際はシャント・レギュレータICが動作するための電流がR1に流れるため,2.5Vを維持できる電圧は式2の値よりも若干高くなります.
図4は,図1の回路で電源電圧を変化させたときのOUT端子の電圧をシミュレーションするための回路です.「.stepコマンド」でRLの値を100kΩと1.8kΩの2種類に変化させます.
RLの値を100kΩと1.8kΩに変化させてシミュレーションを行う.
図5は,図4の電源電圧を変えたときの出力電圧のシュミレーション結果です.RLが1.8kΩのときは,電源電圧8V以下でOUT端子の電圧が下がりはじめ,出力電圧2.5Vを維持できなくなることが分かります.一方,RLが100kΩのとき,電源電圧3V程度まで出力電圧2.5Vを維持できています.
RLが小さいと,低い電源電圧のときに,出力電圧を維持できない.
●LT1009の電圧微調整端子の使用例
LT1009にはVZを微調整するための端子が用意されています.図6はLTspiceのサンプルファイルです.R2とR3が電圧微調整用のボリュームで,出力電圧を±5%可変することができます.図6 では.stepコマンドでボリュームの位置を40%,60%,10%と変えてシミュレーションを行います.そして,温度を-55℃~125℃まで変えたときの出力電圧を調べます.
調整ボリュームの位置を3段階に変え,-55℃~125℃の出力電圧を調べる.
(ドキュメント\LTspiceXVII\examples\jigsl\1009.asc)
図7は,図6のシミュレーション結果です.図6のボリュームの位置で,出力電圧は±25mV程度調整できることが分かります.また,温度が-55℃~125℃まで変化しても,出力電圧の変化は10mV以内におさまっていることが分かります.
出力電圧は±25mV程度調整できている.
以上,シャント・レギュレータICについて解説しました.シャント・レギュレータICには,LT1009のように,制御端子を電圧微調整用として使用する他に,制御端子で出力電圧を2.5V~36V程度まで可変できるようにしたものもあります.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_035.zip
●データ・ファイル内容
SR_ZD.asc:図2の回路
shunt_reg.asc:図4の回路
1009.asc:図6の回路
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