負の交流信号を増幅するAC結合非反転アンプ
図1は,電流帰還型OPアンプを使ったAC結合非反転アンプです.この回路は,直流の入力信号は増幅せず,交流の入力信号を増幅します.交流の入力信号は,低周波側のコーナ周波数から高周波側のコーナ周波数までとなります.図1において,低周波側のコーナ周波数は(a)~(d)のどれでしょうか.
(a) 0.36Hz (b) 0.7Hz (c) 1.4Hz (d) 14Hz
交流の入力信号は,回路の受動素子で決まる低周波側のコーナ周波数から電流帰還型OPアンプの性能で決まる高周波側のコーナ周波数までとなります.
低周波側のコーナ周波数は,OPアンプ以外の受動素子(R1,R2,R3,R4,C1,C2)で決まります.コーナ周波数は,CRの積の逆数に関係します.どの受動素子のCRの積がコーナ周波数に効くかを検討すると分かります.
図1の低周波側のコーナ周波数の回路は,2つの回路で構成されています.1つ目は,INからAノードまでの回路で,直流をカットする「C2,R3,R4で構成したハイ・パス・フィルタ回路」です.1つ目のコーナ周波数はC2とR3,R4の並列抵抗で決まり,式1となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
2つ目は,AノードからOUTまでの回路で,「C1,R1,R2とOPアンプで構成した非反転アンプ」です.このアンプはコーナ周波数より高い周波数を増幅します.2つ目のコーナ周波数は負帰還回路のC1とR2で決まり,式2となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
式1と式2へ図1の回路定数を代入するとコーナ周波数は「fC1=1.4Hz」,「fC2=14Hz」となり,2つの回路ともハイ・パス・フィルタの周波数特性となります.
INからOUTまでのトータルの周波数特性は,式1と式2のコーナ周波数を持つ周波数特性の合算です.トータルのハイ・パス・フィルタのコーナ周波数は,fC1またはfC2の高い方の周波数で決まります.なので,図1の低周波側のコーナ周波数は,fC2となります.これより解答の(d)となります.
AC結合非反転アンプの利点は,入力の直流成分カットし,交流成分を増幅します.また,図1のOPアンプに負の電源は無く正の電源のみの回路でもGNDより下に振れる負の交流信号を増幅できます.OPアンプは電流帰還型を使うことによって広帯域のアンプになります.
●AC結合非反転アンプのAC解析
図2は,図1をAC解析したシミュレーション結果で,ゲイン周波数特性をプロットしました.
低周波側のコーナ周波数は14Hz.
図1は「C2,R3,R4で構成したハイ・パス・フィルタ回路」と「C1,R1,R2とOPアンプで構成した非反転アンプ」の2つの回路で構成されています.そこで,それぞれの周波数特性と2つを合算したトータルの周波数特性について調べます.
1つ目の「C2,R3,R4で構成したハイ・パス・フィルタ回路」は,図2の緑のプロットで,図1のINからAノードまでの周波数特性です.緑のコーナ周波数をカーソルで調べると,ゲインが-3dBになるコーナ周波数は1.4Hzであり,式1の机上計算から求めた周波数と一致します.
2つ目の「C1,R1,R2とOPアンプで構成した非反転アンプ」は,図2の赤のプロットで,図1のAノードからOUTまでの周波数特性です.C1のインピーダンスをZC1とするとゲインは「G=1+R1/(R2+ZC1)」となります.直流に近い低周波では「R2<<ZC1」となり,そのときのゲインは「G=1」となります.図2でも0.1Hzの低周波で0dB(=1倍)になっています.「R2>>ZC1」となる周波数でのゲインは「G=1+R1/R2=11」になります.図2の約100Hz~10MHzでは20.8dB(=11倍)になっています.赤のコーナ周波数をカーソルで調べると,ゲインが「20.8dB-3dB」になるコーナ周波数は14Hzであり,式2の机上計算から求めた周波数と一致します.
INからOUTまでのトータルの周波数特性は青のプロットとなり,1つ目と2つ目の周波数特性を合算したものになります.トータルの周波数特性より低周波側のコーナ周波数は,14Hzとなるのが分かります.高周波側のコーナ周波数は電流帰還型OPアンプの特性で決まります.電流帰還型OPアンプの周波数特性については後述します.
●AC結合非反転アンプの過渡解析
図1の電流帰還型OPアンプは,正の電源が5V,負の電源をGNDにした単電源の回路です.ここでは,入力電圧がGNDを中心に正負に振れる信号のとき,出力電圧がどうなるかをシミュレーションで調べます.
図1のR3とR4の分圧器は,同じ抵抗値なので,Aノードの直流電圧が電源電圧の半分になります.C2を通過した交流信号は,Aノードの直流電圧を中心に振れる信号となります.OPアンプの非反転端子と反転端子は,バーチャル・ショートです.なので,出力の直流電圧は,Aノードと同じ直流電圧を中心に増幅した信号が振れることになります.
図3は,図1のAC解析の指定をコメントにして,過渡解析の「.tran 1u」を有効にしたシミュレーションの結果です.
2.5Vを中点に増幅した信号が現れる.
INの入力信号は,GNDを中心に0.1Vの振幅で正負に振れる10MHzの正弦波です.Aノードの直流電圧は,5Vの半分の2.5Vです.なので,OUTは,2.5Vを中心に増幅した信号が振れています.図2より10MHzのゲインは,11倍なので,出力信号は入力信号を11倍した電圧となります.このように,図1のAC結合非反転アンプは,正の電源のみの回路でも,GNDより下に振れる負の交流信号を増幅できます.
●高周波まで動作する電流帰還型OPアンプの概要
図1のAC結合非反転アンプの帯域幅は,電流帰還型OPアンプの帯域幅で決まります.ここでは,電流帰還型OPアンプの帯域幅について解説します.
汎用OPアンプなど古典的なOPアンプは,電圧帰還型OPアンプです.電圧帰還型OPアンプは,ゲイン・バンド幅積(GB積)が一定なので,ゲインを高くすると帯域幅(バンド幅)が狭くなります.一方,電流帰還型OPアンプの帯域幅は,ゲイン・バンド幅積に関係しないため,電圧帰還型OPアンプより帯域幅が広くなります.また,過渡応答特性は,高いスルーレートを持つのが特徴のOPアンプです.この特徴より,高速・広帯域のアンプとして用いられます.
図4は,電流帰還型OPアンプのモデルです.電流帰還型OPアンプは,非反転端子と反転端子の間にゲインが1倍のバッファがあります.なので,非反転端子の入力インピーダンスが高く,反転端子の入力インピーダンスが低くなります.反転端子の電流(iin)は,OPアンプ内部回路で伝達され,RTとCTの並列接続したトランス・インピーダンスで電圧に変換して,ゲインが1倍のバッファを介して出力されます.
●ゲインを高くしても帯域幅が狭くならない仕組
図4を使い,特徴の1つであるゲインを高くしても帯域幅が狭くならない仕組みについて,机上計算で検討します.計算を簡単にするため,ここでは反転端子のインピーダンスとなるrin-とOPアンプ出力のインピーダンスとなるroをゼロにした理想状態とします.
まず,負帰還となる反転端子ノードの電流は,キルヒホッフの法則より式3となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式3のi1とi2を回路の電圧と抵抗で表すと式4となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
iinは,OPアンプ内部回路で伝達されてトランス・インピーダンスで電圧に変換されるので,出力電圧が式5となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
式4と式5より,図4のゲインは式6となります.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
式6中のトランス・インピーダンスT(s)は,RTとCTの合成インピーダンスです.また,RTは,高い抵抗値になるように設計されています.低周波でCTがオープンと考えると,T(s)は,RTの高い抵抗値となります.したがって,式6の分母は1となり,抵抗比で決まるゲインは「G=1+R1/R2」となります.式6の帯域幅は,分母にあるT(s)とR1で決まりR2の項はありません.この関係よりR1の抵抗値は,帯域幅と負帰還の安定性から抵抗値を選びます.また,ゲインは,R2で調整して使います.以上より,R1を固定にしてR2でゲインを調整すると帯域幅は変わらないことが分かります.
実際の電流帰還型OPアンプは,rin-やroがあり,内部のバッファのゲインが厳密に1倍ではありません.なので,T(s)は,RTやCT以外の寄生素子の影響を受けるので,式6の理想状態からずれてきます.電圧帰還型OPアンプと電流帰還型OPアンプの違いは,「ゲインを上げても,帯域幅が変わらない回路はどっち?」を参考にしてください.
以上,解説したように,図1のAC結合非反転アンプの低周波側のコーナ周波数は,C1とR2で決まります.また,高周波側のコーナ周波数は,電流帰還型OPアンプの特性が出てきます.AC結合非反転アンプは単電源の回路でもGNDより下に振れる負の交流信号を増幅できます.
解説に使用しました,LTspiceの回路をダウンロードできます.
LTspice6_032.zip
●データ・ファイル内容
1252.asc:図1の回路
1252.plt:図1のプロットを指定するファイル
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